「浜松市デジタルを活用したまちづくり推進条例」案の撤回を求める要請書  


2022年6月10日、浜松市デジタルスマートシティ推進本部に以下を要請した。要請には6人が参加。「なせこんな急ぐのか」「パブリックコメントでは反対の意見が多数だ。市民の意見を聞いてるのか」「推進の根拠は何か」「個人情報保護という市民の人権擁護が第1の課題だ」「事業者の参入を呼び込み、市長に全権を与えて委任させ、市民にはデジタル推進への努力義務を課すような条例はいらない」などと抗議した。同様の文書を意見書として市議会に提出した。
6月13日にはスーパーシティを考える会が請願書をもとに市議会総務委員会で意見表明をおこなった。浜松市デジタル推進条例にストップを!。

 

浜松市長様

浜松市議会議長様                       人権平和・浜松

 

「浜松市デジタルを活用したまちづくり推進条例」案の撤回を求める要請書

 

浜松市がすすめるデジタルスマートシティという名のスーパーシティ構想はつぎのような問題をかかえている。

新自由主義での規制緩和・民営化政策では、行政内情報へのデジタル参入が利権対象とされている。それにより、第1に行政の持つ市民の個人情報がビッグデータとして利潤の対象とされ、公共サービス部門が企業の利権の対象となる。第2に政府によりビッグデータが収集され、政府の情報基盤ヘと集約、国家による地方統治が強化される。第3に、デジタル化で自治体の職員が削減され、広域行政化がすすみ、地方自治が破壊される。第4に、浜松市のコンサル企業、デジタル企業ヘの依存がすすみ、企業の意向を受けての行政となる。

浜松市長はこのような問題点を考慮することなく、デジタルファーストを宣伝し、「浜松市デジタルを活用したまちづくり推進条例」(以下、浜松市デジタル条例と略記)を制定しようとしている。われわれはこの条例案の撤回を求めるものである。

この条例案の問題点をあげよう(以下に示す条文はパブリックコメント後の修正案)。

第1に、第1条でその目的を「デジタルを活用したまちづくり」が利便性や社会課題に対応するものという認識を示し、「市の責務及び市民等の役割」を明らかにし、「市民生活の質の向上及び都市の最適化」させ、「市民が安心及び安全」に暮らせる都市を築くとしている。

「デジタルを活用したまちづくり」以外にも利便性、社会課題に対応し、市民の安心安全のための施策は数多くあるが、浜松市はデジタル化のみを最優先している。行政によるデジタル「最適化」は、行政による人権侵害を生みかねないものである。条文には、公共サービス部門への企業の参入、政府による個人情報収集による地方統治強化、個人情報保護の弱体化と地方自治破壊といった問題点が隠されている。

第2に、用語の定義で「市民等」とは市民と事業者と規定されている。また、基本原則で、「多様な主体の参画」による環境づくりをするとされる。第4条には、市の責務として「市民等」と連携してデジタル化をすすめるとある。これは先にあげた、公共サービス部門への企業の参入を示すものであり、それを条例に組み込み正当化するものである。行政デジタル領域への企業による参入を条文とし、それを市の責務とするというのである。

第3に、基本原則に、個人情報の保護、持続可能性、災害等での機能維持が記されてはいるが、それらはデジタル化により危険となることがらである。デジタル化により、政府、企業にも個人情報が渡されることになる。個人情報は保護されるよりは、流出する危険性を持つことになる。すでに浜松市は自衛隊の隊員募集に関して個人データを自衛隊に提出している。職員にそれを問題と感じる意識がみられず、改めようとしない。持続可能性、災害等での機能維持についても、市民福祉においては、アナログなふれあう関係が需要である。保健部門での人員削減がコロナ禍を増幅させたという現実から、学ぶべきである。

第4に、第5条を「市民等の役割」とし、「市民等」はデジタル化推進に対し、「市と連携し、及び協力するよう努めるものとする」とある。条例で「努めるものとする」と記すということは、市行政が市民に対し「努力義務」を命じるということである。

冒頭示したように、浜松市のデジタルファーストによる「デジタルを活用したまちづくり」は、個人情報を利潤の対象とするものであり、公共サービス部門が企業の利権の対象となる。政府によって地方統治が強化され、地方自治が破壊れる。自治体職員が削減され、福祉が弱体化する。浜松市行政が企業の意向を受けてすすめられる。

このような問題点があるから、われわれは主権者市民として、この条例の撤回を求めているのである。デジタルファースト批判や「努めない」という意思表示が条例違反とされることになる。このような条例の文言は、憲法上の表現の自由、思想・信条の自由を侵害するものとなる。市の条例で、デジタル化への市民への努力義務を課すことは違憲である。

第5に、第6条で、市長は「基本方針を策定しなければならない」、第7条で、市長は「推進体制を整備しなければならない」、第8条は「委任」という名で、「必要な事項は、市長が定める」とされている。

市長の推進するデジタルファースト策(スーパーシティ)を、条例によって、その方針と推進を義務化し、市民は市長に必要事項を委任するという形になっている。それは市長によるデジタル推進政策に権限を与え、市民は委任するというものである。デジタル全権委任条例とみることもできる内容である。

憲法では、主権在民、人権が保障され、浜松市の地方自治は「住民の福祉の増進を図ることを基本」(地方自治法第1条)とされるものである。市民に市が規定する内容でのデジタル化に努力義務を課し、市長にその推進を委任させるような条例は、住民の福祉増進に寄与しない。このような条例を制定することは、誤りである。条例案の撤回を求める。

2022年6月13日、スーパーシティを考える会の浜松市議会総務委員会での請願要旨のスピーチ

 今、市役所の職員は浜松市民のために一生懸命働いてくれています。企画課から、私たちの会へメールが送信された時間も、そのほとんどが夜の10時頃でした。しかし、今回の条例案がそのまま通りますと、市民のために職員が一生懸命集めて整理した情報を、民間企業が容易に使えるようになります。これでは「市民のため」というよりも「民間企業のため」に働くということになってしまいます。このような職場環境では職員のモチベーションの低下だけでなく、組織全体の在り方まで問われることになりませんか?公務員は全体の奉仕者であるべきです。
 また、個人情報の漏洩が心配になります。個人情報の保護は、国の「個人情報保護法」や市の「個人情報保護条例」を基に行われるのでしょうが、このような法体系の下でも、さまざまな漏洩が起こっていることは、皆さんもご存じだと思います。規模は小さかったと思いますが、残念ながら浜松市でも起こりました。先日、テレビで徳島県の公立病院で昨年10月、8万5千人の電子カルテがパソコン上で開くことができないようにされ、身代金を要求された事件を報道していました。ランサムウェアと言うのだそうですが、このようなサイバー攻撃が2020年下半期21件、21年上半期61件、下半期85件と増加傾向にあります。また、この条例案では、個人情報を活用するときに本人の確認を取っていただけるのかも心配です。一度ネット上に流された情報は消えません。デジタル化は世の中の趨勢で私たちが止めようとしても止まるものではありませんが、便利な一方で大変危険な面を持っています。

 EUではナチスに悪用されたという歴史的な経緯もあり、GDPRの基本理念である「個人情報はできる限り使わせない」ということが思想の根底にあります。EUのように法律的にも整備されていれば良いのですが、日本ではどちらも脆弱です。今、日本では個人情報をどう保護するのかが大きな課題です。

日本のガバメントクラウドの委託契約先は大手グローバル企業のAmazonやGoogleだそうです。浜松市は国の政策に追従する前に、まず市民の個人情報をどう守るべきかという市民ファーストの原点に立ち返るべきではないでしょうか?

 次に、条文についてです。第1条ですが、全くの悪文というしかありません。こんなに長い文をダラダラと書かれても何を言いたいのかさっぱりわかりません。条例案全体に言えることですが、「デジタルを活用したまちづくり」と言われても具体案が何もないので、イメージが全く湧きません。

 また第5条ですが、パブリックコメント等の影響もあったのだろうと推察しますが、条文そのものが修正されました。しかし、相変わらず、市民に努力を求める内容になっています。この民主主義の世の中にあって、浜松市民はこの条例案に異を唱えることはできないのでしょうか。

 第8条には「この条例の施行について必要なことは、市長が定める」とあります。6条から8条を見てみますと、主権者である市民や議会の意見の入る余地がありません。しかも、半月後の7月1日が施行日となっています。

 浜松市が2020年に行った「第47回市民アンケート」では、2019年10月にあれ程大々的に行われたはずの「デジタルファースト宣言」を知っている人は、わずか8.0%、知らない人は90.8%となっていました。

 今年3月に行ったパブリックコメントの内容を見ましても、175件集まった意見の中で「スーパーシティ」と今回の「デジタルを活用したまちづくり」を混同している方が大変多かったように思います。要するに、わかりにくいということだと思います。また、この条例案に賛成している方は、ほんのわずかだったと思います。このような状態で、市政における位置づけの根幹となる条例案を制定していくことは、あまりにも拙速であると言わざるを得ません。

 私たちの「スーパーシティを考える会」はこの条例案に反対ですが、せめてもう少し時間をかけて、じっくり考える必要があると思います。ぜひとも、慎重な審議をお願いいたします。