3・13 東京高裁、袴田巌さんの再審を決定!

   

 2023年3月13日、雨のなか、東京高等裁判所の前を支援者と報道関係者が埋めた。袴田巌さんの再審決定を願う人びとの熱気が渦巻くようだった。

午後1時から高裁前で集会がはじまり、日本プロボクシング協会や各地の市民団体が袴田さんの無実を訴えた。えん罪被害者、布川事件の桜井昌司さんは警察官や裁判官の責任について言及、湖東病院事件の西山美香さんや東住吉事件の青木惠子さんは白い服を着て袴田さんの潔白をアピールした。支援者が、袴田巌さんの無実と再審を呼びかける横断幕やプラカードをもって見守るなか、袴田ひで子さんと弁護団が高裁に入った。西嶋弁護士は車いすでの入廷だ。ひで子さんは90歳、巌さんは87歳になる。一刻も早い無罪判決が求められる状況である。

午後2時に高裁決定が示された。高裁から弁護士が決定を知らせる垂れ幕をもって駆けてくる。「検察の抗告棄却」、「再審開始」の文字が見える。歓声が沸き、拍手がおきる。ボクシング協会のメンバーが「FREE HAKAMATA NOW!」をコールした。ひで子さんと小川弁護士が高裁から笑顔で出てくる。ひで子さんが「57年闘ってきた。本当にうれしい」と話す。小川弁護士が涙ぐみながら、高裁決定が弁護団の主張を認めるものであり、証拠とされた5点の衣類を犯行着衣とみなさずに再審を決定したと説明した。マスコミ取材の後、弁護団と支援者は検察に特別抗告しないことを要請した。


  

今回の高裁決定の概要は、以下である。

 弁護団の実験報告書などから、証拠とされた5点の衣類が1年以上みそ漬けされていたことに合理的疑いがある。衣類は事件から相当期間後に第三者がタンク内に隠匿した可能性を否定できない。捜査機関の者による可能性も極めて高い。この衣類で袴田さんを犯人と認定することはできない。実験報告書などは無罪を言い渡すべき明らかな証拠である。確定判決には合理的疑いがあり、新証拠が出されていれば、有罪にはならなかった。袴田巌さんの再審決定を認める。再審無罪になる可能性や過去の経緯、年齢や心身の状態から、死刑と拘置の執行停止は妥当である。このように弁護側の主張を認めた決定であった。

いわゆる袴田事件とは、1966年、清水にある味噌会社の専務宅で起きた殺人放火事件で、そこで働いていた袴田巌さんが逮捕された事件である。厳さんは留置され、そこで自白を強要された。厳さんは裁判のなかで無罪を主張したが、1980年に死刑が確定した。

これに対して1981年に第1次再審請求、2008年に第2次再審請求がなされた。弁護団は、五点の衣類のDNA鑑定を依頼し、厳さんのものとされた白半袖シャツの血が厳さんのものではないという鑑定をえた。検察側も厳さんのものと判定することができなかった。その結果、静岡地裁は2014年に再審を決定した。地裁決定にはこれ以上の拘置が「耐え難いほど正義に反する」と記されていた。

袴田さんは48年ぶりに釈放され、故郷の浜松に帰郷した。獄中生活のなか、巌さんは歩き続けて生命を維持してきた。しかし長期の拘束に抗するなか、巌さんは自らの内心を神の世界に追い込むことで自らの精神を守ろうとした。帰郷し、1年、4年と月日が経つにつれ、硬直した顔面に笑顔が戻ったが、拘禁による精神状態は回復していない。

この地裁判決に対し、検察は即時抗告した。検察が証拠とされた5点の衣類のカラー写真やネガフイルムを開示したのは2014年のことだった。衣類は事件から1年2か月後にみそ工場のタンクから発見されたものであるが、血痕は赤いままだった。録音テープなどの開示はその翌年だった。重要な証拠は開示されないままだった。

検察の抗告を受け入れ、2018年に東京高裁は再審決定を取り消してしまった。これに対して弁護団は特別抗告した。2020年、最高裁は審理不十分とみなして、高裁に差し戻した。高裁での争点は、味噌に漬かった血痕に赤みが残るのか、否かとなった。その結果が今回の高裁の再審決定である。

今回の高裁決定では、証拠の決め手とされた犯行着衣の隠匿が第三者によるものであり、特に捜査機関による可能性が極めて高いと判断した。それは警察によるねつ造である可能性が高いということ、つまり権力犯罪、国家暴力であるということである。そのような犯罪に時効はないとみるべきだ。その真相が究明されるべきであり、被害者への謝罪と賠償をおこなうだけでなく、責任者が処罰されなければならない。再発防止に向けて措置がなされることが求められる。

 再審決定に対し、検察は特別抗告できるが、それは国家による暴力の継続となる。抗告ではなく再審の場で争うべきである。また、死刑は国家暴力の一形態であり、廃絶されねばならない。そのような現在の制度を変革することで、人権が守られる社会を実現できる。その意味で、闘いはここから、これからである。 (竹)