貧乏人と金持ち
 ほんの数パーセントの金持ちと圧倒的多数を占める貧者、という世界的な現実を生み出す過程をさかのぼると、戦争と福祉の連続した関係が浮かびあがる。戦争準備のための日常と戦争そのものの日常がつながっている。世界でもっとも好戦的で軍事力の頂点に在る米国もその例外ではない。キーワードは「差別主義」だ。
 「4500万人の人が健康保険をもたず、この人数がますます増えている。貧困は他の工業国よりもはるかに深刻で貧困にあえぐ子供たちも、他の国を上回る。(中略)実際は米国の賃金はヨーロッパよりも低く、延べ労働時間は世界の工業国のなかで最長。米国は法律で義務づけられた有給休暇が存在しない唯一の国です」(チョムスキー、世界を語る N,チョムスキー著 トランスビュー2002)
 「世界のアメリカ化」は米国自身の自傷行為を回避する術を持たないばかりか自己相似形の限り無い増殖ということだった。
 エチオピアでは緊急医療にたずさわる日本人医師が現地のキャンプで、深夜数人の泣き声がするのに気づいて行ってみると、子供が産まれたばかりで、彼らは「こんな悲惨な世界に産まれてきた」ことを嘆き悲しんで泣いているのだと理解したという。ここでは凄まじい飢餓のために、まるで干物のような腕で、点滴の針を刺すことも出来ない人々がたくさんいるそうだ(NHKラジオ深夜便)。
 サウジアラビアの王族が数年に一回しか使わないスペインの別荘に出かけるため、ベンツ600台をつらねた。別荘のまわりに何かアルバイトが無いかと貧しい人々が行列をつくった。一回のチップに10数万円もらった例もあるという。その貧しい人々は、実はサウジアラビア出身という。
 地方都市の浜松でもディアブロという車が2台あるらしい。数千万円もするその車の、クラッチ修理だけで300万円という話を聞いた。
 浜松の中心街を流れる新川は腐臭漂うドブ川で繁華街の部分はすべてフタをかぶせて駐車場にしてある。臭わないように、見られないように、である。その駐車場のフタの下には以前たくさんの野宿者が住んでいた。そこで浜松市は「対策」として入口に鉄柵を取り付けたが、何の効果も無かった。その入口から南に向かってコンクリートの壁でかこまれたドブ川が太平洋に向かってのびているが、その両岸のコンクリート壁に延々とカラフルなペンキ画が描かれている。さまざまな生き物らしきものがそこに描かれているようだ。同じ浜松の佐鳴湖はついに汚染度ワーストワン(日本)らしい。ともかくドブ川のケバい厚化粧は、描かれた意図に反してエゲツないばかりだ。駐車場から500mも南下すると川沿いの道は慢性の交通渋滞が続いている。ハローワークに通じる道路だ。工業都市の不況が、ドブ川のケバいペンキ画と大量の失業者たちという風景を創り出した。
 過労死が最悪のペースで増加している。非常識な長時間労働により過労が原因で自殺や、ウツ病などの精神障害の労災が激増している。
 この閉塞感に満ちた時期に、防衛庁は中期防衛計画により4機の空中給油機を導入、配備先を検討しているが、北脇市長は11月12日(配備先を浜松以外に)と申し入れる文書を防衛庁に提出する意向を明らかにした。騒音や多量の燃料による事故を危惧するという理由だが、反戦の意志など微塵も無いことは言うまでもない。生来の軍事都市が何をどう取り繕うと民主的に程遠いのは根本の思想故か・・・。
 一応、「空中給油機配備は浜松基地を除外してくれ」と通過儀礼的に市民寄りのポーズを見せても、活気づく政権全体の国防色の前にその効果が期待出来ないことを承知のうえというわけか。
 こともあろうに「集団的自衛権容認」「徴兵制合憲」を公言してはばからない仰天ものの防衛庁長官が就任した。軍事オタク石破 茂の入閣だ。この石破防衛庁長官は「北朝鮮に拉致された日本人を想起に救出するために行動する議員連盟」(通称:拉致議連)の会長でもある。日本列島全域の(チョーセン増し)症候群の旗手というわけだ。プラモデルオタクの彼にとっては戦争はゲームに過ぎない。
 入閣直後、石破は「自衛隊が今後警察権に積極的に介入していく」と大っぴらに公安業務に乗り出すことを語った(噂の真相12月号)。
 政府は11月19日で期限切れの海自の米英軍支援活動の期限を延長すること、輸送艦を増強、燃料補給の対象国拡大という重大な憲法違反を国民のコンセンサス無しに一方的に決めたが、支援の内容、82億円もの国費の使途は不明のままだ。インド洋におけるどのような支援なのか国民は知らない。普段、政治の話などしない人まで(チョーセン増し)症候群で大フィーバーする一方で、何の抵抗もないまま米国の言うなりの(今回イージス艦、P−3Cは出さないが)支援が堂々と決まってしまう。すでに支援という形で集団的自衛権を行使して参戦している現実をどれ程の人が認識しているだろう?
 イタリアのフィレンツェで「100万人の反戦デモ」があり「イラク攻撃反対」を訴えた。まっとうな人々だ。
 「ヨーロッパでの動きは、ここ数年続いている反グローバル化運動とつながっているらしい。米国をはじめ各国政府は、グローバル化の中で世界の弱者を置き去りにし、抑圧してきた。そう主張し、イラク攻撃もその一環と見る」(02.11.12朝日)
 当の米国でもワシントンで10万人というベトナム戦争以来最大規模の反戦集会が行われた。自らのファシズムに気付かないのは日本だけのようだ。これこそ精神的貧困そのものといえよう。
 軍事オタクで超タカ派の石破防衛庁長官らの煽動にまんまと乗せられて(チョーセンまし)症候群を仲良く患っている場合ではない。
 差別主義にもとづく戦争を続けてひとにぎりのとんでもない金持ちと、圧倒的多数の救いようのない貧乏人の社会など誰が望むものか。
2002.11.15 高木