嘘は泥棒の始まり

「嘘は泥棒の始まりっていうでしょ」学歴詐称問題で赤恥を晒した民主党古賀議員について福田官房長官が鬼の首でもとったように語った。もっとも、そのまま福田をはじめ小泉政権に当てはまる言葉だろう。
 9.11以前に軍事侵攻が決まっていたイラクに対して米国が、戦争の理由なんぞ何でもよかったのでとりあえず「大量破壊兵器疑惑」とやらをデッチ上げて国連を無視して英国とともに先制攻撃した。サウジに次いでの石油埋蔵量を誇るイラクはのどから手が出る程欲しいからだ。ビンラディン(アルカイダ)との関係、テロ支援国家、フセインの独裁から解放、中東民主化などと、理由は何とでもなる。チェイニー副大統領の関係する石油産業ハリバートンやブレマー文民行政官の関係するベクテルなどをはじめ、軍需産業にとっても願ってもない在庫処分になる。最新最強の大量破壊兵器を使えば味方の兵士の被害は少なくて済む。盛大な空爆で圧倒的勝利を得たら、そのまま大統領選まで引っ張れば万事メデタシだ−などと単純に読んでいたのだが…侵略は上手だが、占領後の政策を考えなかった(!)ため、3日で2〜3人のペースで米兵が殺され続けるという、まさに泥沼化がおさまりそうにない。なにしろ無実の人々が、デッチ上げの理由で1万人も殺されたのだ。その上、少しづつ嘘がバレ始めた。
そして「何でもいいから米国支持」と口角泡を飛ばしたポチ小泉内閣も派兵命令を出すには出したが、トラブルが目立ってきた。なにしろイラク市民が望んでいるのは日本企業とハローワークだ。そして被爆国として蓄積された放射能被害の治療をはじめとする医療だ。自衛隊が任務とする水道事業にしても機材をイラク市民に渡して、イラク人自身が行なえば雇用創出につながるし、警備だっていらない。真っ先に占領軍を支持しておきながら(イラク人の味方)と言っても信用されるわけがない。
「サマワ市関係者は陸自が生む雇用について『600人程度といううわさが市内に流れているが、全然足りない。最低でも4000人分は必要』と指摘する」(04.1.27毎日)
失業が解決しなければ、不満とストレスのためデモや暴動のリスクは高まる。在イラクのジャーナリスト、ピーター・アーネットは「米兵は極度の緊張を強いられ、誤射が頻発している」と語る。
恐怖から、わずかな音に過剰反応して反射的に引き金を引いて老人や子供を撃ってしまうのだ。戦争終結後、米兵の死者は500人を超え、負傷者は30,000人近いという状態は、兵士をパニックに陥らせるのに充分なのだ。わざと自分の足を撃って本国送還を果たす米兵もいるという。湾岸戦争後、帰還兵が殺人を犯したり自殺したケースは多かった。精神的にも無傷で帰る保証など無いのだ。何よりも彼ら自身が、一体何のためにイラクにいるのか解らなくなっている。そして米国の占領を支持した日本の軍隊が同じ陥穽にはまるのは火を見るよりも明らかだ。
「自民党は殉職した自衛官への儀礼について検討を始めている。こうした動きには、自衛隊員に犠牲者が出た場合でも撤退論が広がらないようにする政治的配慮の側面も透けて見える」(04.1.27中日)
1月29日、外務省と防衛庁が、サマワ入りした陸自先遣隊の調査よりも以前に「治安情勢は比較的安定」と結論を先走って報告書を作成していたことが内部文書により発覚した。また、CPAが任命したサマワ市評議会の存在によりイラク南東部の治安が安定していると結論づけたのに、小泉首相は2日前の答弁を撤回した。外務省と防衛庁に届いていた(評議会が解散して無くなっている情報)が、首相には伝わっていなかった。
「部族はCPAが決めた評議会を認めていない。日本はなぜ評議会を重視するのか?」と部族長が言っている。(04.1.30ニュースステーション)
また石破防衛庁長官は陸自先遣隊とサマワ市評議会の関係者が面会したが当事者の肩書きを一貫して「議長」と答弁したため民主党により罷免要求された。事実誤認、虚偽答弁の続出は、自衛隊員やイラク市民の命がかかっているから許されない。
派遣命令の出された自衛官について、「皆殺しなら別だが、撤退はない」と自民党橋本派幹部が語る。
「イラクに部隊を派遣している国々で、攻撃を受けたことを理由に退いた国はまだなく、日本が撤退すれば、他国への影響は大きい。米政府は、(犠牲が出ても、すぐに撤退しないでほしい)と非公式に要請している」(04.1.27朝日)
元自民党議員で防衛政務次官も務めた箕輪元郵政相(79)が国に派遣差し止めと慰謝料1万円の支払いを求める訴訟を起こした。
「自衛隊イラク派遣は憲法第9条違反。自衛隊法違反。イラク全土が戦闘状態でイラク復興特措法違反と主張。さらに派兵により国内外の日本人がテロの標的となると指摘。平和的生存権や幸福追求権を侵害すると差し止めを求めた」(04.1.28毎日)
あたりまえの論理力を持つ人間ならば、たとえどのようなイデオロギーの持ち主であろうと、沈む事が分かりきった泥舟に乗ろうとはしないだろう。
要はイデオロギー以前の問題なのだ。照合すべき原理はこの場合憲法でしかあり得ない。姑息な方法で「何が何でも派兵ありき」を優先させる小泉政権が国民を愚弄していることは明白だ。国家が憲法を無視するのを黙っているわけにはいかない。「嘘は泥棒の始まりっていうでしょ」        2004.1.30 高木



「ハト死んじゃった」

「ドン」と鈍い音が響いた。一瞬、何が起こったか解らないまま大きなガラス窓の外に目をやると、地面にハトが落ちている。
ようやく納得が行き、ガラス窓をよく見るとうっすらとハトが当たったような跡が残っている。ハトは一分間程痙攣していた。おそらく、脳漿であろう透明な液体が嘴から流れている。痙攣の間隔が、徐々に長くゆるやかになりそして止まった。冬の陽ざしのなか、乾いた土の上に散らばった細かい羽毛が風にゆれている。郊外の食堂で飯を食べた後、文章を書いていた時だった。不意を喰らった私以上に、ハト自身が自分の身に何が起こったのか理解しないまま死んだに違いない。もっとも自らの死を意識したまま死ぬ事と突然死ぬ事の違いはそれ程大きなものではないのかもしれない。あとは時が止まり記憶以外のすべてが消えるだけだ。
錯覚、誤認、死角、そんなものがハトの致命傷になったのだろう。認識が常に正しいとは限らない。それどころかほとんど誤りと言うべきかもしれない。知能の高い低いに関わらず、である。そして人もハトもその一生のやりなおしは効かない。一回きりのものだ。だが、それに気付く者は少ない。
「イラクボディーカウントによると今回のイラク戦争で死亡したイラク民間人は1万人という。米兵死者500人を圧倒的に上回り、戦争が市民に多大な犠牲を強いることを浮き彫りに」(04.1.21中日)
「自衛隊の存在を認め、強大な軍事力に育ててきたのは日本人自身。その帰結としてのイラク。反対を行動で示すパワーも大きくない。自衛隊を行かせるのは小泉さんじゃない。我々日本人だ」(石川文洋 04.1.20毎日)
日本人の、国際性の異様な程の欠落を“自己完結”などと呼んだらもちろん間違いだ。だが少なくとも排他的であることは自覚すべきだろう。米国的視点しか持たず、それゆえ米国自体が見えぬまま米国の言うなりになることしか能がない現在の政権をたとえるなら、借金だらけになった者がモラルハザードを起こしてサラ金、ヤミ金、ギャンブル、そしてついに犯罪に走ってゆくさま、とでも表現する他ないだろう。要するに存在そのものが害以外の何ものでも無いのだ。
突然起きる巨大地震でパニックになるように、あるいは高速で飛翔してガラス窓に激突するハトのように、時間を流れとして読むことなく場当り的に反応するだけの、生存能力の著しい低さ。たとえば、日本各地の厳寒にふるえる野宿を強いられる多くの人たち。医療や福祉から見放される人たち。そうした気の遠くなる程、放置されっぱなしの問題の数々。見ない事で、他人事でしかない事によって継続するそれらの問題。そこへの緊急性を認識出来ない政治と民衆が“コクサイコーケン”などと口にしつつ、相手が一体何を望んでいるかをまったく理解せずに、そして費用対効果の概念も無いまま、あろうことか戦争放棄をうたう憲法下で派兵可能と、勝手な解釈で戦闘地域を非戦闘地域と錯覚(自覚?)しながら自己満足的に派兵をはじめた。もちろん象徴的にも実質的にも利益を得るのは米国だけなのだが…
「外国軍は必要ない。日本にイラク軍が駐留したらどう思うのか?自衛隊のイラク復興という目的は信用できない。占領軍に協力して、石油を狙っているだけだ。なぜ日本の企業が来てくれないのか。私たちが欲しいのは日本の軍隊でなく、技術援助や雇用創出だ」(シャワード・カリーム28才 04.1.20毎日)
「(最悪のことがあっても、誰も恨むな)夫の語った言葉に妻は覚悟を固めるしかなかった。夫を涙で見送った」「なぜ、イラクなのか。自民党と公明党は国民に全然説明していない」(04.1.17毎日)
月刊誌「世界」(04.2)によればイラク派兵戦死者のために、棺が粛々とつくられているそうだ。橋本元総理は戦死者帰還の際の儀礼マニュアルの不備を指摘し準備を促した。「他人事の死」がこれ程、渇望されようとは…
1月21日、空自本体派遣に抗議して浜松駅前で反戦アピールとビラまきに参加した。この冬、最も寒い夕方とあって通行するほとんどの人が手をポケットに入れている。ビラの受け取りは決して良くない。中には強い口調で「オレは派遣に賛成だ」と言って拒絶する人もいた。
「最悪なことに、国会の9割を占める自民・民主・公明が改憲に動き出している。一度、海外派兵の実績ができてしまえば、憲法9条を廃止する改憲へ一気呵成です」(立正大教授・金子勝 04.1.21日刊ゲンダイ)
太平洋戦争の戦火にも生き残った浜松駅前のプラタナスの木の前で幾度となく繰り返されてきた反戦平和アピール。総括すれば「殺すな、殺されるな」であり、憲法第9条の確認だったと言っても誤りではない。地獄の業火を生き延びたプラタナスのその後の60年余りが白紙に戻されようとしている。そして今、凍えそうに冷たい風が吹き抜けてゆく。戦争反対、海外派兵反対の声を奪わんばかりに。
「どうかしましたかあ?」ハトのぶつかった音に店員が遠くから怪訝そうな顔をあらわした。「いえ…」とだけ答えて、説明する機会を失って気まずさが残った。
2004.1.23 高木



忠誠の代償

「アメリカ合衆国の歴史を見るがいい。ワシントン初代大統領以来わずか230年程の歴史は侵略・虐殺の歴史と言って過言ではない。先住民への侵略と虐殺、ハワイ、グァム、フィリピンの征服、東京大空襲と原爆投下、朝鮮戦争及びベトナム戦争、そして湾岸戦争、イラク攻撃。その戦争に見られる残虐性と情報操作は、米国という国がいかに戦争国家、覇権国家であるかを如実に物語っている」(『自衛隊イラク派遣は取り返しのつかない誤りだ』天木直人 前駐レバノン特命全権大使 世界04.2)
1月13日、オニール前米財務長官によるブッシュ政権の内幕暴露本「忠誠の代償」が発売された。
「9.11」のはるか以前、ブッシュ政権発足10日後に開いた国家安全保障会議で、すでにイラクへの軍事行動も含めた対処が最優先課題として検討されていた。「大統領は、イラク戦争を実行する方法を探し出せ、と言っていた」と証言している。また、在任中、ブッシュ大統領が対イラク戦正当化の根拠とする大量破壊兵器保有の証拠を全く見たことがないと語る。嘘を真実と言い換える情報操作。その結果は夥しい人命と巨費の喪失、環境、生活、文化、心の破壊などの取り返しのつかないものばかりだ。できるかぎり嘘を暴き、殺された人々、傷ついた人々の側に立つ事こそ人道であり民主主義だろう。
小泉首相の言うところの「国際貢献」という対米貢献の根拠が嘘とわかったことになる。しかし何としても戦争可能な国にしたい勢力が素直に派兵を断念するわけはない。国民を舐めきった政権は半世紀待ち望んだチャンスを簡単に手放すわけがない。その上「お上」に異議申し立ての習慣のない日本人が、またしても戦争に至る嘘を見逃そうとしている。加害を自覚しなかった国が再び加害の立場に立とうとしている。派兵の口火を切ったこの時期に防衛庁は報道各社に自衛隊のイラク派兵に関する取材、報道の自粛を申し入れた。この取材拒否が福田康夫官房長官の意向であることを政府筋も認めている。この男を含めて、小泉、石破などは戦争を知らない世代だ。非戦闘地域に派兵される自衛隊におそらく起こるであろう悲劇を含めて、活動全体の詳細を隠して政府に都合の悪い情報を管理統制する意図は文字通り「大本営発表」の再現に他ならない。この時代錯誤を堂々とやってのける政権は、異常に民度の低い国民によって支えられている。
石破防衛庁長官の発言がなんとも勇ましい。1月13日、オランダで記者団に武器輸出三原則を見直す発言だ。
そもそも日米が決めたミサイル防衛の共同技術の研究、開発、配備において日本から米国に部品を提供することは集団的自衛権の行使であり、三原則に明らかに抵触する。憲法違反そのものだ。しかし、MDの語られ方が巧妙で反対論が少ないのを幸いとばかりMDはもうGOサインが出たのだからこの件をうまく利用すれば三原則見直しが可能と読んだわけだ。全面解禁とブチ上げて三原則自体を議論の俎上に載せようという意図は机の上でプラモデルで遊ぶ長官らしい発想であり、浮き足立つ国防族の荒い鼻息が聞こえてくる。日本の軍需産業が陽の目を見る日が近いということだ。
北海道陸自師団長は、派兵反対運動が大きくなったら札幌雪まつりに協力しないと恫喝した。大した思いあがりである。いつシビリアンコントロールが無効になったのだろう。
そもそも嘘によってイラク市民の大量虐殺が行われた。米英の占領、そしてブッシュの戦闘終結宣言にもかかわらず、連日の抵抗により死者が続出し、精神的にパニック状態に陥る兵士がたくさん出ているという。「昨年3月のイラク戦開始から年末までの9ヵ月間で自殺したイラク駐留米軍は21人にのぼった」(04.1.16毎日)
中東民主化をうたい単独行動のあげく手に負えなくなった米国はイラクを国連に肩代わりさせたくて仕方がない。しょせん民主主義の破壊のプロにとって民主主義の構築など専門外なのだ。大体イラク攻撃自体が明らかに侵略であり、駐留とは占領の事であり、その米英軍への抵抗は被占領者の立場ならば当然の権利だ。大義が嘘である占領軍に抵抗するのは立派な大義である。客観的に言えば、戦争を仕掛けることは非常に簡単で、戦争を終わらせること、解決することは非常に困難ということだ。そして当然、それは武力で解決できるはずがない。
現在、バカにされ、蹂躪されていると言っても過言でない憲法第9条の有効性は、力の論理が沈黙するそこにおいてこそ浮上するものだろう。
米国の戦争史、侵略史において戦争の責任をつぐない、失敗を自らの政策に還元した例が無いように、武力信仰が戦争否定を生み出すことはない。力の論理に固執するなら反戦思想を理想論と馬鹿にして葬る他ないわけだ。
近年、成人式が荒れることで話題になっている。今年も各地でセレモニーが撹乱された。どこかの会場で若者が言ったように来賓の長時間の演説が選挙目当てではないという保証はない。伊東市の成人式では壇上にかけ上がった若者が市の憲法ともいうべき、市民憲章のたれ幕を引きずりおろして破る行為があった。市長は激怒して告訴も辞さないと息まいた。それにしても成人式で荒れる若者たちはなぜか羽織袴姿だ。式を破壊するならそんな格好でこなくてもいいのに。場当りで終始一貫した思想の上の反抗でないことは、すぐ謝ることからも歴然としている。ああ虚しい。ところで小泉首相も靖国参拝のときにたしか羽織袴だった。そして憲法第9条を引き裂いて「コクサイコーケン」と叫んでいる。なあんだ、同じじゃないか。
2004.1.16 高木



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