控訴理由書           

 以下は浜松の原告の控訴理由書です。 

2006 自衛隊イラク派遣差し止め等控訴請求事件

20061025日 東京高等裁判所第11民事部御中

                       

(前略)

私は航空自衛隊浜松基地の近くに住んでいます。朝7時ころから自衛隊の軍用機が飛び立つ音が聞こえ、その音の中で身支度をして職場に向かい、夜6時ころ帰宅しますが、そのときにはよく着陸態勢に入った空飛ぶ司令塔といわれるAWACSや練習機のT4をみかけます。それらは私の自宅の斜め上を滑空してきます。このような軍用機の存在そのものに強い異議を持ち、浜松が派兵の拠点なってはならないと考えるものです。過去の戦争において浜松の陸軍航空爆撃隊は重慶を始めアジア各地の民衆を爆撃して殺害してきたからです。

この浜松基地からもイラク派兵がおこなわれるようになり、私は憲法に反する行為が公然とおこなわれる非法を糺したいと考え,訴訟に参加しました。法と正義が侵害され、政府の支持によって戦争がおこなわれていますが、そのような殺人行為に加担していることは、過去の歴史に学び平和な社会を求める私の類的な精神は侵され、その被害は甚大です。

この浜松基地からは200610月現在、すでに19派に渡り100人ほどの自衛隊員がイラクへと派兵されてきました。その派兵の根拠になったのはイラク特措法ですが、この法律には、イラクの「人道復興支援」のためには派遣すると書いてあります。

しかし現実には、米軍などの兵士や物資を輸送する後方支援が眼目でした。特に20067月からは戦場であるイラク北部へと米軍等の輸送を始めるようになり、文字どおり米軍の後方支援作戦の一翼を担うようになりました。「復興人道支援」という名目で、実際には政府の行為によって再び戦争をおこなうようになっているのです。

これはイラク戦争への参戦であり、戦争全般の放棄を記す憲法への明白な違反です。また、後方支援物資を輸送するC130は戦力そのものにあたります。さらに、輸送地は戦場であり、非戦闘地域での活動を指定するイラク特措法にも反する行動となっています。このような参戦と派兵は法治国家では許されるべきではありません。 

憲法前文では平和的に生存する権利が記されています。私は、眼前の基地から派兵がおこなわれ、その派兵された隊員が構成する部隊によって米軍等の物資が輸送され、その物資によって戦闘行動がおこなわれ、それにより他者の生命が奪われているという状況を座視しているわけにはいきません。主権者として平和的な生存権を犯す政府の行為をとめるべきと考えます。このような政府の派兵によって、私の平和的に共存していきたいという主権者としての類的な精神も深く侵害されているのです。

政府によって違憲行為がおこなわれ、さらに違憲立法であるイラク特措法は、主権者の正義と人間の尊厳を侵害しています。その回復に向けて、高等裁判所は今こそ、厳粛な判断をおこなわなければなりません。今もイラクでは多くの人々が死を強いられています。イラク戦争の口実とされた大量破壊兵器の存在やテロ組織との関係がともになかったことを、戦争を始めたアメリカ自身がすでに認めています。裁判所の違憲判断による自衛隊の撤退はこの偽りの戦争への参加を終わらせることになります。

裁判所が派遣を差し止めることで、多くの生命が救われます。それは戦争で侵害された真実と平和と尊厳の復権につながるのです。そのような正義の実現のために、裁判所が英断を下すこともここに求め、控訴するものです。