イラク反戦日誌8

2006年5月米軍再編日米合意・閣議決定

●06年5月日米合意の特徴

2006年5月2日米軍再編をめぐっての日米「合意」がなされ30日には閣議決定された。この再編の特徴は、各紙報道の見出しにあるように、@新たな日米安保(軍事同盟)宣言、A日米の世界的軍事展開、B日米の軍事的一体化、C地元との同意の無視の4点にまとめることができるだろう。

 グローバリズムの展開とその矛盾を軍事的行動で解決するためのグローバルな軍事展開を日本の自衛隊を一体化させておこない、日本を米軍拠点として再整備していこうとするものである。また自衛隊の再編をともなって進行している。そのようなアメリカ主導の軍事再編の展開は、地元自治体の意向などはまったく無視するものとなっている。

地域住民の意向を無視し、自治体を軽視するありようが、自治体レベルでの抵抗を生むことになっている。この動きは新たな形の安保闘争の様相を呈している。

●米軍の世界配置

 米軍の軍事的配置についてはじめにみておこう。アメリカは世界を5つに区分し、北アメリカに北方軍、南アメリカに南方軍、太平洋に太平洋軍、中央アジア・西アジアからスーダンに中央軍、ヨーロッパにヨーロッパ軍をおき、それぞれに統合軍をおいている。宇宙空間の軍事支配がこの軍事覇権の特徴である。

ハワイには太平洋軍司令部がおかれ日本は統制下にある。太平洋軍の司令部はハワイのキャンプスミスにあり、海兵隊の司令部もある。陸軍司令部はハワイのフォートシャフター、海軍はハワイのパールハーバーにある。太平洋に向かう第3艦隊の司令部はサンディエゴ、第7艦隊の司令部は横須賀にある。現在、侵攻部隊である第3海兵隊の司令部が沖縄にあるが、それをグアムへと移転する計画が出されている。

●再配置GDPRの特徴

 この米軍の再編の背後には「グローバル ディフェンス ポスチャー レヴュー(GDPR)」という地球規模での米軍の再配置戦略がある。このGDPRのもとで、軍事の革命による米軍自体の組織改革(トランスフォーメーション)と基地と部隊の再配置がすすんでいる。とくに陸軍では1万から2万人の師団が再編され、五千人規模の旅団戦闘チームが編成される。展開が容易な新軍団を編成するわけである。ちなみに、米軍の規模は計138万人、年軍事費は53兆円を超える。

この再編では同盟国との軍事強化、「柔軟性」強化、地域を越えての展開、迅速な移動力、目的達成能力などが重視されている。今回の新日米安保体制による日米一体化と世界的展開への合意はその一環であり、日本からの世界各地への軍事展開と自衛隊の従属的活用、日本負担による移転再編による施設建設と維持費がねらわれているのである。

 今回の再編の中では、日本・イギリス・グアム島・ディエゴガルシア島など米軍の海外展開の基本拠点(ハブ)とされ、常時駐留基地・必要時使用基地・中継基地が選別され、配置されていく。特に太平洋での空母と潜水艦の配置の強化が目立つ。拠点とされるグアム島は空軍のアンダーセン基地、海軍のグアム基地が強化される。この間、浜松空自のAWACSを含む部隊がグアムで共同訓練を展開してきたが、それはこの再編強化の布石であったといえよう。ラムズフェルドが言うように、それが可能かどうかは別にして、10日以内に展開し、30日以内に撃破し、30日以内に次の場所に展開することが目論まれている。

韓国では38度線近くの部隊を平沢と大邱・釜山の2地区へと移転する。在韓米軍司令部・米韓合同司令部は平沢に移る。在韓米軍の人員は半減し面積は3分の1となるが、朝鮮での即応展開力・攻撃力は増加することになる。

     日本での再編計画の具体的状況

再編実施に向けての「ロードマップ」には日本での再編計画が6点にわけて記されている。

第1は沖縄の米軍基地の再編であり、普天間と海兵隊、そして共同使用の強化となっている。ここでは@普天間関係としてその代替施設をキャンプシシュワーブ・辺野古につくる。それは新たな海兵隊の要塞基地の建設ということができる。また普天間基地から九州の築城・新田原基地へと緊急使用の訓練をおこなう、A第3海兵隊部隊基地を残して、8000人をグアムに移転する。費用を日本が負担する。Bキャンプハンセンの日米共同使用、嘉手納での共同訓練の実施。

第2は座間の米陸軍司令部の日米共同基地としての強化である。キャンプ座間の米陸軍司令部が改編され、軍団司令部が移転する。陸自の緊急即応集団司令部も移転する。また相模補給廠には米軍の戦闘指揮訓練センターが建設される。

第3は米空軍の横田基地の強化であり、横田に空自の航空総隊司令部を移転し、日米共同統合運用調整所をつくるという。それは空の作戦統合のみならず、ミサイル防衛にも対応する。

4は岩国基地の強化である。ここに厚木の第5空母航空団の艦載機FA18EA6BE2CC2などを移転し、厚木には自衛隊機を移転する。普天間の空中給油機を岩国に移転し、鹿屋・グアムで訓練する。岩国を空の出撃拠点として整備するわけである。海の出撃拠点は佐世保となる。

ここには記されていないが、海軍では横須賀への原子力空母の配備やイージス艦の増強とイージス艦へのミサイル防衛用SM3の搭載、空母攻撃軍の増加配置もすすめられている。

第5はミサイル防衛の推進である。ミサイル防衛を強化し、米軍のXバンドレーダーシステムを青森・陸自車力基地に置き、そのデータを日米で共有する。米軍基地にパトリオット3を配備する。ここには記されていないが、自衛隊へのパトリオット3の配備もこれに関連してのことである。情報の共有がすすむ。この再編は集団的自衛権行使そのものである。

第6は日米共同訓練の強化である。嘉手納・三沢・岩国の米軍基地の航空機が千歳・三沢・百里・築城・新田原の基地を使用する。共同訓練の回数の制限を撤廃するとも記され、即応性の維持が強調されている。即応性とは侵攻力のことにほかならない。

これらの再編を2014年までにおこなうという。だが地元自治体との合意なき再編計画は各地での反発や抵抗のたかまりとなっている。

     自治体・市民の抵抗

 米軍再編についての自治体の抵抗について、この5月の動きを中心にみてみよう。

 軍用機の訓練が実施されるという自治体の動きからみれば、5月25日、築城基地に対して築上町議会による抗議行動がもたれた。町議員25人が参加し、米軍の築城基地使用強化反対の幕を広げてデモ、基地司令へと申し入れた。同町は全会一致で反対決議をあげている。築城では画期的な出来事だった。

新田原では5月16日の新富町の定例区長会で町長が反対の意思を示し、区長側も反対継続を確認した。百里基地のある小美玉市では5月15日に住民説明会がもたれ、反対意見が相次いだ。それを受けて県知事は小美玉市の意見を踏まえて県の意思を示すとした。 

千歳市は容認の姿勢は見せているが、5月22日の議会では協定の締結を求める意見が相次いだ。苫小牧市では5月15日、容認を語る市長が市航空機騒音対策協議会で反対の意向におされて、地域の意向を踏まえるとした。  

岩国基地への移転強化をめぐって、岩国市長が防衛庁を訪問し、住民投票とそれを受けての自身の当選結果を示し、移転に反対した。5月15日には岩国基地増強計画反対広島県連絡会議が持たれ、会議は移転計画の撤回を確認した。5月22日には廿日市市長・江田島市長・広島市助役が施設庁を訪問し、容認できないと白紙撤回を要請した。

岩国からの空中給油機の訓練が計画されている鹿屋では5月16日、市長が防衛庁に断固反対を申し入れた。5月8日の鹿屋での大隈半島45町の意見交換会では反対の意見が集約され、それを受けての行動だった。

つがる市の車力基地に配備されるXバンドレーダーが三沢基地に4月上旬に搬入された。三沢市長に施設庁が電波要領調査の実施を伝えたところ、市長はそれを拒否し、作動検査は見送られた。

 沖縄の動きをみてみよう。52日、宜野湾市長が移設ではなく普天間の早期返還要求の意思を示した。5月24日、那覇市長が再編について頭ごなしと政府を批判した。嘉手納では51718日の騒音調査で70デシベル以上の騒音が285回に達したことが判明、町は訓練の自粛を要請した。嘉手納町長は移転について負担軽減の中身なく分散移転すれば基地機能の強化になると懸念を示した。キャンプハンセンの共同使用については金武町長が55日に反対の意思を示し、金武町宜野座村恩納村3町が反対を確認していると述べた。辺野古では現地闘争が続いている。

神奈川では、5月23日、藤沢市長が厚木の夜間飛行中止を防衛施設局と米軍厚木基地に要請、25日には神奈川県知事が相模補給廠の返還部分の無償譲渡を要請していく意思を示し、基地の存在自体に疑問を示した。座間市相模原市は連携してキャンプ座間への軍団司令部移転と陸自の即応集団移転に反対し市民集会を開催している。

このように米軍再編をめぐっては市民の声を受けた自治体による反対の意思表示が次々とだされているのである。これは画期的なことであり、新たな自治体による平和への意思表示であるといっていい。

日米政府によるイラク戦争の継続とそのような戦争に向けての米軍再配置への合意は、「これ以上は我慢できない」「今言わなければ孫や子が苦労する」「米軍に国内法が適用されない」「今言わなければなし崩しに運用される」「住民の強い拒否反応を肌で感じる」といった発言が全国に渦巻く結果になっている。

このような平和への希求力に依拠し、軍事力によらない新たな世界の形成に向けて表現していくことが求められていると思う。            2005・5・30