郵政民営化の現状と課題

 

20041112日、静岡市内で郵政民営化を考える集会が静岡県労働組合共闘会議など労働組合関係者によってもたれた。

以下、そこでの報告や討論、郵政関係資料から郵政民営化の問題点をまとめておこう。



1 郵政民営化の本質

郵政民営化の動きは、昨今のグローバリゼーションのなかで、350兆円にのぼる郵貯・簡保の資金などの郵政事業の国家資産を独占資本が自らのものにしようとねらうものである。それはいっそうの労働者への搾取をともなうものとしてある。

かつて郵政事業は侵略戦争のための軍事用資金や独占資本の資金の調達を担ってきたが、戦後は通信・貯蓄の分野で市民の社会生活を支えるなどの公共事業を担うようになった。今回の民営化はそのような社会的事業の全面的な解体をねらうものである。

郵政事業での公共性を示すものには、たとえば第3種第4種郵便制度や救急用小包郵便物の無料制度などがある。これらは赤字の取り扱いとなるが、公共の事業であるがゆえにおこなわれている。また地方局の赤字を中央の黒字局が補填している。民営化は赤字局の切捨てとなるだろう。

郵政民営化によって、郵貯などの民衆の貯蓄を金融投機などにまわし、それらを資本の利益のために使うことがもくろまれている。また、郵便事業を物流事業へと参入させ、社会性を持った赤字部門の切り捨てが狙われている。それは独占資本がいっそう強化され、社会的弱者が切捨てられていくことにつながっている。労働現場では労働者の権利の剥奪がすすむことになる。

 

2 郵政民営化の現状

郵政事業には郵便・貯金・簡易保険の3事業があり、これを郵政3事業という。これらは独立採算で運営され、郵政事業特別会計で一体的に運営されてきた。

2004年現在、国営の日本郵政公社のかたちで運営されているが、政府の民営化計画によれば、2007年に、国が100パーセントの株を持つ会社として、窓口ネットワーク会社・郵便会社・郵貯会社・郵便保険会社の4社とし、その10年後には国は3分の1の出資をする会社とし、貯金・保険会社は分離するという。

そこでは公共性よりも効率と収益性が優先され、郵便局の全国的なネットワークは崩壊することになるだろう。また福祉サービスなどの採算がとれないとみなされる事業からの撤退もあるだろう。労働者の解雇もふえることになる。

推進派は民営化の理由として、郵貯が金融市場をせばめ民業を圧迫している、郵政事業への非課税は国民の負担をふやしている、公的部門が肥大化し民間への資金供給の制約になる、民営化されるとサービスがよくなるなど、あれこれと宣伝している。

だが、そのほんとうの狙いはこれまで形成されてきた郵政事業の国民的共有財産が切り売りされ、独占資本がそれらを自らのものにしていくということであり、労働者の権利が奪われていくことにほかならない。

 

3 労働者の人権の現状と課題

では労働現場はどうなるのだろうか。

民営化までに定年退職7万人の自然減を基本とした労働者が削減される計画という。ここでは相当数の定年前退職も想定されている。2007年の新会社設立の際には労働者に対して会社参加の意向調査をおこなって再就職斡旋をするというから、選別・退職強要があるとみられる。国鉄分割民営化のときのような大量解雇がすすむだろう。民営化とは失業者の増加である。

今年に入って、郵政の労働現場に導入された深夜勤体制は現場労働者の体を破壊している。かつては仮眠があったが今はない。その深夜勤が4日間連続でおこなわれるようになり、現場の労働者は命をすり減らしている。この深夜勤に対しては現場労働者(全国各地で100人ほど)が廃止を求めて裁判闘争に立ち上がった。

また、トヨタ生産方式が現場に導入された。効率化の名の下に、秒刻みの労務管理とたち作業による道順の組立作業が強要されるようになった。それが、労働者の選別排除のために使われている。

集配現場では郵便配達を対面配達と受箱配達に分類し、「ゆうメイト」に受箱配達をさせるようになった。労働者の非常勤化がすすんでいる。内務業務については窓口以外を外注化して余剰者を作りあげ、ほかへとまわすようになった。また、「自己責任」を強調され、業務上ミスに対して処分をだしたり、配達途上の事故で賠償責任を負わせるようになった。『接遇認定制度』を導入し接客業務で基準を満たさない労働者を業務からはずすようにもなった。

このように民営化をにらんでの労働内容・労務管理の強化と非常勤化・外注化がすすんでいる。郵便局には40万人の労働者が働いているが、そのうち、12万人が「ゆうメイト」である。「ゆうメイト」は公務を担う非常勤のパートタイム労働者であるが、雇用条件は『任期1日・日々雇用』という無権利なものであり、パート労働法は適用されていない。いつ解雇されても違法ではないというのだ。年収は200万円に満たない。

このような労働者の人権を無視する現実を変えていくことが第1の課題である。無権利な状況にある労働者層の団結と権利の回復が急務である。また社会運動のなかでかち取られてきた民衆の福利にかかわる公共事業を解体させてはならない。その財産を、グローバリゼーションをすすめて利権を得ようとするものたちに与えてはならない。労働者の権利を確立するとともに、郵便と貯蓄保険にかんする郵政公共事業の形成と共同社会のための維持こそ展望されるべきだろう。                     (T)