静岡県総務部防災局防災政策室   20051021

国民保護計画担当様        戦争に反対する市民ネットワーク・静岡


静岡県国民保護計画(案)への質問書 

 2001年の911日のニューヨーク貿易センタービルテロ事件後に始まったアメリカの単独行動主義=安全保障外交戦略に基づくアフガニスタン、イラクへのテロ封じ込め=侵略戦争は、新たなテロを巻き起こし、世界中で反対運動が広がりました。日本政府は、このアメリカの戦略に積極的に荷担し、現在、イラクのサマーワに自衛隊を派遣しております。一方で、2003年に武力攻撃事態法など有事3法、2004年には国民保護法など有事関連7法案を制定し、今日、都道府県における国民保護計画策定の事態に至っております。

聞くところでは、これほど重要な計画策定であるにもかかわらず、協議会ではほとんど議論が行われず、一方で県民の関心も少なく、来年2月には計画決定がなされる予定とのことです。

私どもは「憲法9条はアジアの共有財産、世界に誇りうる平和憲法」という考えに立ち、有事法制にも国民保護法など関連法制にも反対して来ました。無論これら有事法制下にあるこの静岡県国民保護計画案にも反対しておりますが、現実に計画策定という事態の中で、その問題点を明らかにし、間違っても戦争動員計画やそれにともなう基本的人権の抑圧にはつなげてはならないという観点から、1017日、パブリックコメント募集に応募し「静岡県国民保護計画に対するパブリックコメント」を提出いたしました。

私たちといたしましては、このパブリックコメントを一方的に提出するのではなく、その中のいくつかの要望・質問事項にはなんらかの回答をいただけるものと考えておりましたが、貴政策室としては「パブリックコメントそのものには回答を寄せることはできない」との見解を示されましたため、あらためて同様の趣旨で、計画策定の当事者である貴政策室に「質問書」という形で本文書を提出したいと思います。

以下の事項について、誠意ある回答を要求したいと思います。

[1]静岡県独自の基本的人権を尊重した国民保護計画を策定することについて

1,  国民保護計画は拙速に行ってはならない。

(1)  静岡県の策定スケジュールによれば、66日、82日、今回のパブリックコメント、11月に協議会、1月協議会で案を確定、2月に決定し県議会に報告するとなっています。協議会での審議ではほとんど委員からの発言はなく予定時間を早めて終わっているのが実態です。また、広報不足に原因があり、県民の傍聴者が誰もいないというのは、あまりにも問題がありすぎます。スケジュールを遅らせタウンミーティング・市民公聴会など県民の声を反映することが必要と思いますが如何か。

(2)   国民保護計画を策定する際に県計画に国や自衛隊の意向があまりに強く反映することは地方自治の原則に反する事ことになります。少なくも計画策定までに静岡県弁護士会や公募による一般市民などを任命すべきと思いますが如何か。

() 住民と避難の措置と自衛隊や米軍の軍事行動との調整がどのように行われるかについて計画書34ページで「避難及び救援に関する平素からの備え」で基本的なことが列挙されていますが自衛隊や米軍の軍事行動と避難の措置との関係が不明で、60ページに「避難の指示」とありますが同様です。また、61ページに「自衛隊及び米軍の行動と避難経路や避難手段の調整」とありますが、県派遣の自衛隊員との調整、特定公共施設等利用法の利用指針」を踏まえた対応とありますが、具体的にこれはどのような基準に基づいて調整されるのでしょうか。特定公共施設等利用法は「国民の理解と協力を得つつ」(第3条)、また、利用が確保できない場合に「特に必要があると認める場合であって事態に照らし緊急を要すると認める時」(第9条)と極めて限定的例外的にその優先権を認めているに過ぎません。
これは、自治体の自治事務として自治体に港湾法において港湾管理権が保障されているからであります。国民保護法は法定受託事務されておりながら、国の裁判抜きの執行権を与えていますが、自治事務との関係では、法的には港湾法と対等な関係でありあります。法定受託事務と自治事務との関係をどのように整理されているのか。


() 15ページに原子力発電所施設への攻撃の想定が述べられておりますが、既に多くの住民から東海大地震に際して「原発震災」を考えるとき東海地震が過ぎ去るまで浜岡原子力発電所の停止を求める訴訟の提起や県への要請が行われています。静岡県がその求めに応じて停止措置を中部電力に要請して実施できればこのようなテロ災害から逃れることができます。このことを静岡県は優先すべきであり、武力攻撃事態想定から原子力発電所へのテロ想定を削除すべきと思いますが如何か。

(5) 20037月に鳥取県で住民避難マニュアルの現実的問題点を検証する為に図上訓練を実施しました。結果は26000人をバスで避難させるのに11日間かかりました。このことについては、どのように評価されているのか、また、『都市は戦争できない』(五十嵐敬喜、立法学ゼミ、公人の友社)はこうした問題を厳しく指摘いますが、この書に対する検討など案作成過程ではどのような検討がされたのか明らかにしていただきたい。

2,  地方自治体の使命は、「住民の保護」であり、作戦の支援ではない。

国民保護法第3条と5条で、地方自治体は、武力攻撃事態対処措置を担う主体とされていますが、対処措置には、侵害排除と国民保護の二つがあり、自治体の主要な役割は国民保護であります。地方自治体は「当該地方公共団体の住民の生命、身体及び財産の保護に関して、国の方針に基づく措置の実施その他適切な役割を担うことを基本とする」(第7条)とされており、国の役割とは根本的に異なっております。国の「侵害排除」を行う際のいわば安全装置としての人権保護の砦となることを求められております。同法7条の「そのほか適切な役割」について、立法作業に関わった磯崎陽輔氏は、「国の方針に基づかない措置で、当該地方公共団体の独自の判断で実施するもの」(磯崎陽輔『武力攻撃事態法の読み方』37ページ)と述べておりますが、この静岡県計画策定に当たって、独自の判断で実施するものを積極的に検討すべきであります。この計画案の中でそうして検討結果の中で提案されているものがあったら示していただきたい。

3,静岡県独自の役割として「無防備地域宣言」をすべきである。

この独自の役割として各方面から提案されているものに、自治体の無防備地域宣言というものがあります。これは、第2次世界大戦においてヨーロッパで実施された宣言地域への攻撃を行わないとするもので、ジュネーブ協定追加議定書59条で4つの条件でその宣言地域を認定しております。この静岡県計画を作る際に、この無防備地帯宣言を「そのほか適切な役割として」どのように評価し、検討されたのか明らかにしていただきたい。また、既に県内自治体で「非核平和宣言」している自治体の「独自の判断」をどのようにこの計画に位置づけているのか、示していただきたい。

「2」静岡県国民保護計画が対象とする事態について

1、計画案では、県民保護の対象として武力攻撃事態では

 着上陸侵攻(海岸から敵が上陸し攻撃する)/ゲリラや特殊部隊による攻撃/

 弾道ミサイル攻撃/ 航空攻撃(空爆),とありますが、

(1) 静岡県にいったいどこの国(あるいはグループ・部隊など)が「着上陸侵攻」し、どこの国(あるいはグループ・部隊など)が「弾道ミサイル攻撃」し、どこの国(あるいはグループ・部隊など)が静岡県を空爆すると考えているのか示していただきたい。
(2) 「ゲリラや特殊部隊による攻撃」とありますが、このゲリラ・特殊部隊とは何を指しているのか示していただきたい。

2 計画案では、もうひとつ県民保護の対象として緊急対処事態を次のように想定しています。
危険物質等取り扱い施設および多数の人が集合する施設等に対する攻撃
多数の人を殺傷する特性を有する物質による攻撃および破壊の手段として交通機関を用いた攻撃

そこで、
(1)    「危険物質等取り扱い施設」「多数の人が集合する施設」とはそれぞれどのような施設を想定しているか、列挙された施設のそれぞれにおける「県民保護」の方法を提示していただきたい。

(2)    「多数の人を殺傷する特性を有する物質」とは何ですか。それに対する具体的な「県民保護」の方法を示されたい。

「3」基本的人権及び平和主義を尊重した国民保護計画を策定することについて

1, 日本国籍以外の住民への格段の配慮をすべきである。

@  静岡県計画でも29ページ、55ページに「高齢者、障害のある人、外国人等に対する伝達に配慮」、43ページの「高齢者、障害のある人、外国人等に対しては、点字や外国語を使用」、と外国人も保護の対象として位置づけられています。ただ、67ページの「避難の実施要領」、71ページの「救援にあたっての救援事項」では、外国人への配慮項目は抜けているのはなぜか。

A  2001年アメリカでの9・11テロの際してもアメリカ国内においてイスラム系住民に対する人権侵害が多発しました。その際に、イスラム系住民の人権擁護に立ち上がった人々の先頭に日系アメリカ人がいたことはよく知られている事実です。第2次世界大戦のさなかに移民した日系人が様々な迫害を受けたことの経験があったからです。
日本においても関東大震災における在日朝鮮人虐殺事
件という歴史的経験があります。静岡県計画の中に、排外主義的な風潮による特定の国籍を有する住民への人権侵害が事実上発生しないように配慮する必要があります。静岡県計画の43ページで「国民保護に関する啓発」の「啓発の方法」や「学校教育」の中に、過去の経験など日本国籍以外の住民に対する人権侵害が発生しないよう啓発事項として具体的に明記すべきでありますが、如何か。

2,   国民保護措置の実施に伴う人権侵害を回避するために具体的な定めを規定してください。

(1)         国民の責務規定による国民の協力を強制するような規定をつくってはならない。

@  4ページの「国民の協力」での「自発的な意志による、必要な協力をするよう努める」規定が「強制的協力」になる恐れがあるが、その歯止めは何か。

A  32ページの「県における訓練に当たっての留意事項」では、「国民保護措置についての訓練と防災訓練とを有機的に連携させるよう配慮するものとする」「必要とするときは、住民に対し、当該訓練への参加についての協力を要請するものとする」と述べられております。この地震などの防災訓練と国民保護措置における避難訓練を同一視することに県民の多くはとまどいを感じております。52ページの「住民の協力要請」では、「この場合、その協力は、自発的な意志に委ねられるものであって、その要請に当って強制にならないように留意する」と述べられています。訓練の段階でも「強制にならないように」を規定すべきであると思うが如何か。また防災組織と連携させるべきではないと思うが如何か。

B  43ページの「国民保護に関する啓発」のところでは、国民保護措置についての強制措置に関して(罰則があるもの)と任意の協力との区別をして具体的事項を啓発内容として提示すべきであるが如何か。

(2)  避難における立ち入り禁止措置は、住民の自由な行動と報道機関の自由な取材活動との関係における基準や措置をとるための適正な手続きを明確にしてください。67ページでは「避難実施要領の策定」の項目を設けています。法律66条の2項では、立ち入り禁止措置の要件として「特に必要があること」「危険な場所であること」を掲げています。少なくとも想定される事態ごとに具体的例示をする事が必要です。

(3)  56ページで、「緊急通報の発令」について「必要最小限のもの」とありますが、住民に「正確な情報をできるだけ住民に提供する」にあらためる必要があるが如何か。

(4)     80ページに「武力攻撃事態災害における立ち入り制限区域」の指定について、住民の行動の自由や報道機関の取材活動の自由を尊重して立ち入り制限区域を指定することを定めておく必要があります。生活関連施設についての立ち入り制限区域指定の基準については、あらかじめ周辺住民や報道機関の意見聴取しておく必要があるが如何か。

(5)    87ページに「応急措置等」について述べられていますが、軍事目的に協力する趣旨で発動してはならないことを指摘し、退避の指示をする場合でも、個人の意志に反して退避を強制できないことを規定すべきであるが如何か。

(6)    87ページに「警戒区域の設定」が述べられていますが、ここにおいても個人の行動の自由、取材活動の自由を束縛しないことを明記すべきであります。恣意的なにならないよう、あらかじめ具体例を明示する必要があるが如何か。

(7)  88ページに「応急公用負担等」が述べられていますが、ここにも軍事目的でこの措置を行わないことを明示する必要があるが如何か。

(8) 37ページに「避難施設の指定」が述べられていますが、管理者に了解を得るに当って、損失補償が行われないこと、本来の目的が制限されても同様であること、了解するか否かは任意であることなど、説明の内容、方法を具体的に明示する必要があが如何か。

(9)                    95ページに「交通規制の実施」が述べられていますが、ここでも軍事目的優先の交通規制の禁止を明示しておく必要があるが如何か。

 

「4」 国民保護法で予定された強制措置と権利保障について

 70ページに「緊急物資の運送の求め等」、74ページに「物資の売り渡し等」、「土地等の使用」、75ページに「医療の実施の要請等」が述べられていますが、いずれも「正当な理由がない」場合に拒否できないことが規定されていますが、「正当な理由」とは何かが明示されておらず、権利者の権利を侵害しない手続きが定められておりません。

1,  国民保護計画において強制措置を定める項目では、国民保護の実施の前提となる武力攻撃事態の認定について、自然災害と異なり、様々な評価があり得るので、強制措置を実施するには慎重な配慮が必要である旨を具体的に指摘する必要があるが如何か。

2,   また、思想良心などの主観的な理由による拒否は認められるべきであります。もし認めないというのであれば、いっさい認めないのでなく、どのような場合に良心的要請拒否を認めるのかを国民保護計画の中で具体的に定めることを検討する必要があるが如何か。

3,         更に、国民保護計画を作成するに当って、強制措置の対象となりうる運送業者への従事者(単に事業者だけでなく、実際に運送に従事することになる労働者やその意向を代表する労働組合)、医療関係者、売り渡し要請や土地などの使用の要請を受ける可能性がある一定の土地所有者などの権利者からできる限り広く意見を聴取した上で、その意見を反映した国民保護計画を作成するようにすべきであるが如何か。

 

「5」平素からの備えや予防について

1,23ぺージに「関係機関との連携体制の整備」が述べられていますが、現段階での国の機関、他の都道府県との連携、市町との連携、などが述べられていますが、既に連携が進められているものもある中で、何が問題となり、論点となっているかについての情報公開をおこなうべきであるが如何か。

2,25ページでは、指定公共機関との連携等が述べられており、「指定公共機関の自主性に留意する」とありますが、自主性に関してどのような協議が行われているのか、このことについての情報公開が必要であるか如何か。

3,25ページに自主防災組織に関する支援とありますが、「2」の基本的人権のところでも述べていますが、自主防災組織を、「国民保護措置の訓練」の対象とすることやめるべきであります。もし必要というのであれば、十分に県民の意見を聴取すべきでありますし、「強制にならないよう配慮」すべきことを明記すべきであるが如何か。

4,28ページに「情報収集・提供等の体制整備」が述べられていますが、「情報セキュリティの確保等に留意しデータベース等に努める」とありますが、静岡県個人情報保護条例の適用を考えれば、その収集目的等は明確にする必要があります。また、住民基本台帳ネットワークを活用は、想定外のことであるので、利用は慎重にすべきであるが如何か。

5,県職員の研修・訓練に当っての思想・信条の自由が侵されないことを明記すべきであるが如何か。 

「6」安全配慮義務について

  静岡県計画策定に際して、国民保護措置の実施に当って、地方公共団体職員、運送業者など指定公共機関、指定地方公共機関の労働者などは、自らの生命、身体の危険をさらしてまで措置を実施する必要性がないこと、危険があると判断して各自が行うべき措置を実施しなかった場合に、服務違反として懲戒処分など不利益を受けないことを明示する必要があります。計画を策定する際に安全配慮義務に関係団体からの意見聴取を充分に行うことが必要であるが如何か。

「7」報道の自由、知る権利を配慮した国民保護計画について

 報道の自由と知る権利に関して、54ページの「警報の通知等」、57ページの「緊急通報の発令」、63ページの「要避難区域の拡大」で、いずれも「放送事業者の自主的な判断に委ねる」と規定されています。しかし、この規定だけで、戦前の大本営発表がまかり通った時代状況の再現を防げるのかどうか、大いに疑問です。この表現にいたるまでに報道機関との協議も行われてきていいるはずですが、どのような協議が行われてこのような規定になったのか経過を明らかにしていただきたい。

また、これらが、報道機関と県の間だけで調整されていいものであるのかについては大変疑問があります。「有事」における「報道の自由、知る権利」については、既に911以降、アメリカやイギリスで報道管制として現実の問題を提起されています。この計画を確定する前にこの問題に絞った公聴会を開催すべきであるが如何か。

「8」自然災害のための制度の転用の問題について 

 44ページに、「事態認定前における初動措置」が述べられているが、ここでは、初動は「災害対策基本法」等に基づく体制作りを始め、そして、「災害対策基本法」が、武力攻撃事態等及び緊急対処事態に対処することを想定した法律でないことに鑑み、事態認定後は、災害対策本部は廃止する、と規定しています。

 これは、自然災害と武力攻撃は全く性質が異なり、国民間にその対応に何ら異論のない自然災害対策を、武力攻撃事態災害という表現を使って「連携」させ、両者を混同させて、国民に武力攻撃事態への対処を強制、協力させようとする制度的「連携」体制に他なりません。回避がほとんど不可能な自然災害と、本来、人為的に引き起こされる戦争は、全く性格が違います。戦争は「敵」を想定し、軍事作戦を優先するため、情報は非公開となり、住民間の相互監視を要求します。過去の戦争体制においては、気象情報は軍事機密扱いとなり、ひいては台風など自然災害による被害が拡大した事実があります。

本来、この静岡県計画においては、自然災害と武力攻撃事態災害の違いを明確にし、災害対策のための体制や組織を武力攻撃事態災害に転用することを防いでいくことです。ましてや強制などあってはなりません。既存の防災組織の転用、併任をはかることが、災害対策を軍事化し、戦争危機をあおることのないように、国民保護計画において慎重な論議する必要があります。

災害対策基本法が自治事務で、国民保護法は法定受託事務という法理的に別問題を、「総合調整」と言う形で、また、国地方係争処理委員会の審査なし、裁判抜きの内閣総理大臣の直接執行を行使する体制が国民保護計画の実体と言えます。その意味で、静岡県国民保護計画の中で法定受諾事務と自治事務がどのように整理されているのか、自治事務の本来の手続のどの点が省かれているのか、説明をしていただきたい。

 

以上、各質問事項に対する誠意ある回答をお願いいたします。