韓国での強制動員被害真相糾明活動の現状 20094

 

2009424日と25日にかけて韓国の日帝強占下強制動員被害真相糾明委員会が主催して「海外ネットワーク関係者招請ワークショップ」がもたれた。この会議の目的は、日本のメンバーを招請し、強制動員の調査、真相糾明の成果と遺骨奉還の活動の報告を受け、今後の展望、課題、相互協力の方法などを討論することであった。意見交換を通じての日韓の有機的な土台作りも課題とされていた。

24日午後には2時間ほど、日帝強占下強制動員被害真相糾明委員会(以下、糾明委員会と略記)の見学と資料や検索システムの紹介がおこなわれ、25日には一日かけて計9本の報告がおこなわれ、討議がすすめられた。

 

●日帝強占下強制動員被害真相糾明委員会の設立

真相糾明委員会について記されたものには、金仁徳「日帝強占下強制動員被害真相糾明委員会の活動と課題」(立命館国際地域研究262008年)、金廣烈「韓国の歴史清算法制化運動に対する研究」(韓日民族問題研究142008年)がある。これらの論文や報道記事から糾明委員会についてまとめると次のようになる。

糾明委員会の設立は20043月に成立した「日帝強占下強制動員被害真相糾明等に関する特別法」による。1990年代に日本政府や連行企業に対し謝罪や賠償を求める訴訟が相次いで起こされたが、200110月には韓国で議員発議による「強制動員被害真相糾明特別法案」が国会に出された。

2000年に入ると被害者団体や市民運動団体によって強制動員被害真相糾明特別法制定推進委員会が設立された。200312月には特別法の審議が始まり、20042月に特別法が国会で決議され、3月に特別法が公布された(法律第7174号)。特別法は3年の時限立法だった。この特別法によって20049月に特別法施行令が公布され、11月には国務総理の傘下機関として強制動員被害真相糾明委員会が発足した。

このような動きのなかで200412月、日韓首脳会談において韓国側が日本側に対し未帰還の遺骨調査を依頼した。

糾明委員会は20052月から被害申告と調査申請の受付を始め、6月に第1次申請を完了し、同年12月からは第2次申告の受付を始め、20066月に受付を終了した。被害申告の受付総数は20万件を超えた。

この動きに対応して日本では20057月に強制動員真相究明ネットワークが発足した。

20042月には韓国での韓日会談文書の公開を求める裁判で原告が勝訴し、20051月には外交通商部が会談関係の外交文書の公開を始めた。このなかで韓国政府は被害者支援が不十分であったことを認め、200711月に太平洋戦争前後強制動員被害者支援法を制定することになる。それにより支援委員会が20086月から活動を始めた。

糾明委員会の活動は時限立法によるものであり、活動は2年とされていたが、2年延長された。政権交代による過去清算に関する委員会の統廃合の動きの中で、2008年末には糾明委員会の存続も危うくなったが、活動はさらに6ヶ月延長され20099月までとなった。再延長を望む関係者の声も強い。

 

●糾明委員会の活動と収集資料、検索システムとワークショップ

糾明委員会には行政課・企画総括課・調査1課・2課・3課の部署があり、2課には記録管理室がある。施行令当初の分担内容は活動の中で変更され、調査3課が新設された。活動の主な柱は1真相糾明と審査、2遺骨の収集と奉還、3資料館建設である。

現在では真相糾明委員会が被害者支援委員会の活動も担い、被害申告の処理活動を中心にすすめている。 

遺骨問題では祐天寺にある704体のうち、1回目に101体、2回目に59体の計160体が奉還されたが、544体が残されている。今後の奉還が課題である。遺族の海外追悼の巡礼もおこない、年3回実施するようになった。資料館は釜山の南区の公園への建設を予定しているが、資料館は展示・記録・教育・追悼の4点をテーマにしている。

2課には記録管理室があり、管理室では国内外の関連資料・文献の収集保存をおこない、記録情報センターの役割を担っている。また、検索システムを構築し、名簿などのデータベース化をすすめ、分析にも活用できるようにし、原文や写真・博物なども検索できるようにしている。

糾明委員会は、収集した資料については「真実に向かう窓 強制動員の記録」を発行して紹介してきた。ホームページを作成し、発見された写真類を、顔などを拡大して見ることができるようにして公表し、情報を収集している。日本での遺骨調査の地図も作成し、日本のどこに遺骨があるのかをホームページで公開した。

収集資料類を利用して2007年、2008年に展示会も実施した。委員会はソウル鐘路区新門路1街の世安ビルの8・9階にあるが、両階の廊下には2007年・08年に使用した展示パネルが掲示されている。真相糾明委員会が2008年におこなった展示は色刷りの冊子(26頁)にまとめられている。ここには軍務や労務へと強制動員された人々の写真や名簿類がまとめられ、日本語の記載もある(20088月刊)。

ワークショップでは、強制動員関連の供託金・名簿・遺骨についての報告と討論の会がもたれた。

韓国側真相糾明委員会による名簿分析の報告から、「樺太抑留同胞帰還希望者名簿」から2500人ほどの強制動員者を推定し、「倭政時被徴用者名簿」(285771人分)から新たに「検証−倭政時被徴用者名簿」(118520人分)を作成したことを知った。

真相糾明委員会が作成した『所蔵名簿現況』をみると、300を超える名簿資料が掲載されている。未見のものも多く、数多くの課題があることがわかる。

供託金については、全てではないが軍人軍属のものが日本政府から韓国政府に渡されている。しかし、労働者関係の名簿については明らかにされていない。この労働者関係資料の発掘が課題である。

今回のワークショップで真相糾明委員会の所蔵資料の実態、データベース化や資料検証の状況などを知ることができた。糾明委員会の資料やデータベースが広く活用されるようになればと思う。

 

●民族問題研究所訪問

426日、ソウルの清涼にある社団法人・民族問題研究所を訪問した。この研究所のビルには太平洋戦争被害者補償推進協議会の事務所もおかれていて、代表の李熙子さんの案内で研究所内を見学し、そこで軍人軍属裁判関係の資料についても閲覧した。

民族問題研究所は宣伝用に『ただしい記憶のための闘争』というイラスト入りの小冊子を作成していて、日本語版もある(2008年刊)。この冊子から、この研究所が過去清算の運動に与えてきた影響力を知ることができる。

民族問題研究所の設立は1991年のことである。この研究所は親日問題の研究者であった林鐘国の遺志と解放後に活動し弾圧された反民族行為特別調査委員会の精神を継承して活動している。設立時から「親日人名事典」の編纂をすすめ、研究と実践をすすめ、行動する研究所を指向した。1995年には社団法人となり、親日問題をはじめ、強制動員、植民地支配など歴史清算の運動をすすめ、独島問題や日本大衆文化全面解放反対の活動もおこなった。1997年の経済危機のなかで財政難になったが、親日人名事典の発行は財団を設立しておこなうことにした。2001年に統一時代民族文化財団を設立し、その下に親日人名事典編纂委員会が組織された。

研究所は日本の強制占領下の文献を収集するなど研究部門を強化し、朴正熙記念館設立阻止運動なども担った。2001年の日本の歴史教科書の歪曲問題に際しては日帝侵略歴史歪曲展を開催し、以後親日芸術や戦争美術などをテーマに展示会をおこなった。また、親日問題や強制動員をテーマに学術行事をもった。研究所は歴史文化運動を担い、歴史正義の実現に向けての活動を強化した。辞典の基礎作業である日帝団体人物研究への支援予算削減問題に対しては、ネチズン募金が11日間で5億ウォンを超える額を集めている。

民族問題研究所が生まれて18年になる。韓国では光州や済州島などでの民衆抗争の被害者の名誉回復がすすめられ、強制動員被害真相糾明委員会、親日民族行為真相糾明委員会などが設立されたように、この研究所がすすめてきた過去の清算が社会的なテーマして共有されるようになった。

研究所は日帝期の新幹会や統一戦線、解放後の左右合作、民族統一運動の理念を評価し、歴史認識を共有し、東アジアでの人権と平和の実現に向けての市民間の国際連帯を希求している。そして、歴史の真実をみつめ、反省したうえでの和解と寛容の道を探っている。また研究所は収集資料の展示場を作る予定である。

このような行動する研究所と被害者団体の力によって過去清算の運動がすすめられるなかで、強制動員被害真相糾明委員会のような政府機関が設立されるようになったわけである。過去の強制占領下での強制動員による被害、冷戦下での分断と戦争による民衆被害、民主化運動への弾圧による被害、これらの被害の真相を糾明しその尊厳を回復する作業は、民衆が政府を動かす形ではじまっている。

この民族問題研究所も関わるなかで、2009425日にソウルで「真実と未来・国恥100年事業共同推進委員会」が設立された。この委員会は韓日過去事の清算と和解・平等・平和の東アジア形成に向けての活動をすすめることを目標とし、三大事業として、植民地犯罪での真実糾明・謝罪・賠償・名誉回復・再発防止による過去事の清算を実現する、南北和解に向けて共同して植民地支配の過去清算を行い平和統一の基盤を作る、東アジアの市民と連帯し過去清算を通じて平和な未来を開く共同の実践の契機とすることなどをあげている。委員会は国際活動を通じて、日本による植民地支配下での犯罪を問い、歴史の歪曲と真実の隠蔽を糾弾し、在日朝鮮人への差別の中止をもとめていくという。

韓国内でのこのような動きをきちんと受け止め、アジアの共同に向かう関係をつくってくべきだろう。過去の清算の運動は民衆が歴史を獲得し、民衆にとっての民主・人権・平和を実現する過程である。その動きはグローバルな戦争状況に転機をもたらす、グローバルな平和にむけての歴史的潮流にほかならない。

なお、日韓の過去清算をめぐる動きをまとめたものには、金昌禄「韓国における韓日過去清算訴訟」(『現代韓国民主主義の新展開』御茶ノ水書房2008年)、韓国での運動としての過去清算については、許尚秀「市民社会と民主主義、そして過去清算・済州43抗争真相糾明運動を中心に」(立命館国際地域研究222004年)があり、参考になる。

                             20095月 竹内