2004.9.11
イラク派兵を問う連続講座のまとめ ・
         基本的な視点の理解のために


WTO・FTAの問題点とオルタナティブにむけて

 

                         
佐久間智子さんの発言のまとめ

皆さんこんばんは、環境・持続社会研究センターの佐久間です。神奈川に住んでいます。

● WTOの問題点

最初にWTO(世界貿易機関)の特徴についてみていきたいと思います。WTOGATTの後身として1995年に発足しました。WTOには現在147カ国(044月現在)が加盟しています。WTOの成立によって扱う分野が拡大し、これまでの鉱工業品・林水産物に加え、農産物が自由化の対象とされ、サービスや投資・知的所有権などについての国際ルールも協定が発効しました。 

WTOの一般原則には内国民待遇と最恵国待遇があり、これに基づいてWTOは貿易の自由化を進めているのですが、枯渇天然資源や人体・動植物の生命、あるいは安全保障に関わるものなどについては例外規定があります。WTO協定とは、こうした一般原則や、分野ごとの協定、紛争解決や補助金削減などに関する分野横断的な取決め、および複数国間だけで締結した協定など、数多くの協定を束ねたものです。最高意思決定機関は2年に一度の閣僚会議ですが、その下に一般理事会があり、さらにたくさんの理事会・委員会や作業部会があります。紛争解決では、貿易制裁も発動することができるため、WTOが世界で一番強制力の強い国際協定となっています。自由化交渉は複数分野で同時進行し、最近では「ドーハ開発アジェンダ」という「ほぼラウンド形式」の交渉となっています。

さてWTOの問題点ですが、第一に意思決定プロセスが不透明であり非民主的であることを挙げることができます。コンセンサスとは名ばかりで、一部の国の決定が自動的に採択されており、議事録は非公開が多く、採決は長いこと行われていません。このように実質的に密室で意思決定を行っているにもかかわらず、WTOは強大で広範な権限を持ち、各国内の法規制に大きな変更を求め、基準を国際整合化するというやり形で強国に有利な協定内容を押し付けています。結局、意思決定がグローバル化すると、経済が優先され国民の生活権は侵害されてしまうということです。

また、その決定は強国の得意分野に有利なものであり、競争力のある世界企業の意向が反映されている、ご都合主義の不均衡ルールです。実態は市場と資源の争奪戦なのです。WTOの決定は強い強制力をもち、その力は南の国々の政治力を縮小させるために利用されています。国家主権が侵され、貧困が拡大されていくことになっています。

そして、このWTOの意思決定では、グローバル企業や大国の求める経済拡大以外の価値がすべて犠牲にされています。たとえば環境や人権、地域での食料自給、食品の安全性などはほとんど無視されています。人間性が剥奪される状況がうまれています。

現在のドーハ交渉では、2000年に再交渉開始が決められていたサービス、農業などの分野での交渉に加えて、鉱工業製品・林水産物の関税引き下げ・漁業補助金の削減、特許薬へのアクセス改善、環境物品やサービスの自由化などが交渉されてきています。しかし農業分野での対立や知的所有権での企業利益の優遇、サービス・投資分野での急進的な自由化など多くの問題点をかかえ紛糾しています。

サービス部門での自由化は、教育も福祉も医療もすべてが利潤追求の対象になることであり、きわめて問題です。

● FTAの問題点

FTA(自由貿易協定)は貿易での取り決めを、2国間や数カ国間で結んでいくものです。WTOがうまく動かないために、急速に広まってきており、すでに世界に約190FTAが成立しています。シンガポールとメキシコがFTAのハブ化を目指しています。アジアではASEANを中心に日・中・韓・AUNZが交渉のテーブルについています。ASEANが、中国に奪われた優位性を取り戻すための戦略の核としてFTAを使っています。FTAが広がれば、日本国内の工業・農業もさらに空洞化が進むでしょう。

FTAも問題点は第一にWTO以上に弱肉強食の関係が現れるということです。交渉当事国の政治力の差が結果に極端に反映されます。また、貿易品目の90パーセントが10年以内に関税ゼロとされなければならないというのが原則なので、極端な自由化が進行します。WTOでは引き下げなのですが。さらに地域のブロック化が基準資格の相互認定・投資サービス・人の移動・貿易円滑化・経済協力など多方面での幅広い交渉内容を経て促進されます。地域のブロック化は経済厚生を悪化させ、ブロック間の軋轢さえ生みかねません。

企業のトランスナショナル化がすすみグローバル企業が形成され、そのなかで「高度な人材」のみ厚遇されようになり、その他の労働力は安さがとことん追求されるようになります。労働人口でみると3パーセントの上層部のみが自由化の恩恵を受け、残りの97パーセントの労働者や農家は置いていかれることになります。同時に、社会のセーフティネットは崩壊していくでしょう。海外から介護士や看護師などを国内労働市場に参入させる動きもありますが、国内の労働条件の悪化や待遇格差の拡大が助長される結果を招くでしょう。

● オルタナティブにむけて

このようなWTO/FTAの動きは商品作物生産の拡大と主食生産や自給率の縮小をうんでいます。農産物の関税が引き下げられ、あるいはゼロ化する中で、地域農業が崩壊するところも出ています。また、移民労働者の劣悪な労働条件が、国内労働者の労働条件を相対的に引き下げる効果もあるでしょう。外資への依存が高まり、投機によって地域経済が破綻することもあり得ます。過剰生産・過剰消費・過剰投棄のパターンのグローバル化をも伴っています。廃棄物の貿易も拡大していきます。

そのようなグロバリゼーションの拡大のなかで、オルタナティブ(別のもうひとつの道)を求める動きも始まっています。911以後、グローバル経済に対する運動は若干拡散している傾向がありますが、労働・人権・環境などさまざまな分野でアンチテーゼが出されています。自由貿易による市場の拡大・資源の収奪に対して、食糧主権が提示されて地域での食糧生産の意義が提起されています。また、外国人労働者の流入によって労働者の権利が侵されていく中で、排斥ではない形での連帯が取り組まれてもいます。自由貿易では土や水などの環境は守れないという視点も現れています。

現在の経済的利潤追求のなかで剥奪され切り捨てられている人間性の復権こそ求められているといえるでしょう。追い詰められ、その結果ナショナリズムが煽られて、外国人を排斥したり自衛隊を海外に派兵したりという形ではなく、私たち自身の人権意識の確立をすすめ、社会の普通の人々がつながっていく取り組みをすすめたいと考えています。

  (2004911日浜松「イラク派兵を問う連続講座」での発言の要約) 

   アメリカ軍の再編成の動きから         都裕史

佐久間さんの発言を受けてミリタリズムの現状について紹介します。佐久間さんの言われたような、経済的利権をめぐる欲望のむき出しの政策の中で、いま、その利権を守るための暴力装置としての米軍の再編成がすすんでいるといえます。ミリタリズムの新たな姿がここにあります。
 米軍の数は約260万人ですが、そのうち海外展開しているのは41万人です。アメリカは「対テロ」を軍拡の口実にしていますが、それは、多国籍企業に対峙する抵抗を「テロ」扱いしているともいえます。
 
韓国での動きを見ると38度線近くに展開していた約12千人の陸軍を後方に撤退させようとしていますが、これは世界的な米軍の再配置戦略からきていますが、一方で、韓国民衆の反基地運動による結果でもあります。アメリカは日本・イギリス・イタリアを主要な恒久的拠点として位置づけています。あとは米軍のための機動展開地としているわけです。
 
日本を見れば座間へと米陸軍第一軍団の司令部を配置して、それまでの駐日米軍の司令官が空軍中将だったのに替えて、陸軍大将を置いて拠点化しようとしています。アジア中東に向けての指揮が座間でとられていくわけです。
 
現在、沖縄辺野古での米軍基地建設をめぐる攻防が続いています。米軍は歓迎されないところには基地をおかないと発表しています。ですので、米軍としては絶対に辺野古というわけではないのですが、日本政府がごり押しで進めようとしています。日本の面積の0.6%であり、1%の人口をもつ沖縄とどう手をつなぐのかが課題だと思います。人権や命そして環境を切り捨てる動きに負けてはならないと思います