2010.7.30韓国強制併合100年浜松行動報告

 

韓国が強制併合されて100年、今も課題となっている強制労働問題をテーマに人権平和・浜松が地域での1日行動を企画した。この日の行動は、1スズキ、2日通浜松支店、3静岡法務局浜松支局、4浜松市への要請行動だった。

1スズキ

事前の会見要請をスズキ広報部が断ったため、高塚のスズキ本社前にあるスズキ歴史館にいき、そこで歴史館の館員に要請書と史料を手渡した。この歴史館の所轄は広報部である。スズキへは100人を超える朝鮮人が朝鮮北部から連行されている。

歴史館の3階の展示には1937年に軍需品の生産を始めたこと、1945年に空襲を受けたことなどが記されていたが、軍需品の具体的な内容や朝鮮人連行についての展示はなかった。展示には自動車製造が軍需化で中止された記述があるが、ここではスズキは被害者である。

2階にはグローバル化のなかで、スズキは「私たちにできる恩返しをしよう」と貢献を謳っている。ならばフォルクスワーゲンのように過去の清算をすすめるべきだろう。

歴史館で手渡した要請書は以下である。

 

スズキ社長様                         2010年7月30日

                               人権平和・浜松

 

朝鮮人強制労働の実態を明らかにし、補償立法の制定に向けて行動することを求める要請書

 

 スズキは戦時中には鈴木式織機として兵器生産をおこなっていました。その生産のために100人を超える朝鮮人を朝鮮半島の北部の寧辺から連行しました。その連行者名簿は、1990年代に厚生省の書庫から発見された厚生省勤労局「朝鮮人労務者に関する調査」名簿の静岡県分のなかに含まれており、その名簿は韓国政府に送られています。また、浜松在留の朝鮮人も鈴木式織機に動員され、二俣等での鈴木式織機の地下工場建設工事にも朝鮮人が動員されています。

 韓国では2004年に強制動員被害真相糾明委員会が設立され、被害申告とその救済にむけての活動が始まりました。2010年には強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者等支援委員会が新たに設立され、調査と被害者の支援がおこなわれていますが、資料の不足が問題になっています。多くの資料が連行された企業に残されているとみられます。

 厚生省勤労局調査の鈴木式織機の朝鮮人名簿は当時存在していた従業員個票などの名簿から作成されたものです。スズキには当時の朝鮮人強制労働関係の資料が今も所蔵されているとみられます。今年は日本が韓国を強制占領して100年目になりますが、友好にむけての具体的な意思表示が大切です。

韓国での真相調査と被害者支援に協力するためにも、スズキは社内での歴史的資料の調査をおこない、関係資料を韓国側に提供すべきです。また、その歴史を社史に記し、歴史館で展示することなどを通して継承していくべきです。さらに、日本政府と強制労働関係企業は過去の清算にむけて被害者補償のために基金を設立すべきですが、スズキは関係企業として補償立法の制定に向けて政府に要請するなど、尽力すべきです。

スズキは近年、ドイツのフォルクスワーゲン社と提携をしました。フォルクスワーゲン社も戦時中兵器生産を行い、万余の外国人を強制労働させましたが、ドイツ企業の代表的存在として、「記憶保存の企業文化」を提唱し、強制労働の調査とその補償を進めてきました。この活動は高く評価されています。

具体的に紹介すれば、外部の専門家に委託しての軍需生産と強制労働の記録・社史編纂、社の敷地内に強制労働の記念碑の建立、社内に強制労働記念の地の設定、強制労働に関する「記憶保存資料館」を建設しての文書管理と継承、強制労働者の所在地への助成金の支出、強制労働被害者の社への訪問などへの人道的支援、カタログや強制労働関係資料の出版などの活動を積極的におこなってきました。ここには、強制労働を過去のものではなく、現在にまで及ぶものとする歴史認識があります。

さらに、フォルクスワーゲン社はドイツによる強制労働被害者への補償基金である「記憶・責任・未来基金」設立にもイニシアティブを発揮しました。その基金設立により、ドイツ企業は、強制労働が歴史的な人権侵害であり、自らその歴史的責任を取ることを示しました。

フォルクスワーゲン社の「記憶保存の企業文化」とはこのような活動の総称です。

7月14日、当会はスズキに対して、スズキの厚生省名簿を提供し、今後の資料調査の依頼をするための会見を要請しましたが、7月17日、スズキは「会えない、受け取れない」と回答しました。広報部によれば、その理由は「そのころの在籍者の資料はない」「当時のことがわかる社員はもういない」「資料を見ても判断できるものがいない」とのことでした。スズキは、その行動憲章で「広く社会に対し正確、公正な情報を開示」と記し、CSR(社会的責任)では「積極的な地域社会とのコミュニケーション」を謳っていますが、このような対話拒否のあり方はそのような謳い文句が形だけのものであることを示すものです。

スズキは自社内にスズキ歴史館を建設しましたが、そこには朝鮮人強制労働についての具体的な展示はありません。

スズキの連結売り上げは2009年には3兆円を越え、従業員数は連結で5万人を越えています。スズキは今後のグローバルな経済展開の中で、「記憶保存の企業文化」を企業内にもち、それによって強制労働問題の解決に努めることが課題であることを自覚すべきです。スズキはフォルクスワーゲン社の「記憶保存の企業文化」に学び、強制労働の歴史的責任をとる活動を積極的におこなうべきです。

 以上の主旨から、以下をスズキに要請します。

一 当時の企業資料を調査し、連行者氏名、出身地、仕事内容、未払い金、厚生年金未給付など厚生省名簿に示された記事を調査し、朝鮮人連行とその動員実態を明らかにすること

一 従業員名簿、賃金個票、厚生年金関係名簿を調査し、動員の申請、割当、連行状況について明らかにすること

一 厚生年金保険給付未済の実態について明らかにすること

一 逃亡者の未払い金は「なし」とされているが、その実態について明らかにすること

一 朝鮮人が労働を強制された現場と朝鮮人が収容された場所を明らかにすること

  一 それらの関係資料を被害者認定用資料として韓国側に提供すること

  一 朝鮮人強制労働の史実を歴史館に具体的に展示し、関係文書を管理すること

  一 関係企業として被害者補償基金を設立するための補償立法の制定に努めること

  一 外部の専門家による軍需生産と強制労働の記録と社史編纂をおこなうこと

  一 社の敷地内に強制労働の記念碑を建立すること

  一 企業の社会的責任を自覚し、市民団体と対話する場を設定すること

 

2 日通浜松支店

日通浜松支店は浜松市神田町にある。日通は戦時下、全国各地で荷物の積卸のために朝鮮人を連行して配置している。名簿や供託の状況の一部が明らかになっている。浜松の場合は名簿と供託について判明しているため、浜松支店を訪問した。あいにく、責任者が不在のため、事務員に要請書を手渡した。日本通運は本社対応でこの問題の解決をすすめるべきだ。

日通浜松支店で手渡した要請書は以下である。

 

日本通運社長様                       2010年7月30日

日本通運浜松支店長様                     人権平和・浜松

 

朝鮮人強制労働の実態を明らかにし、補償立法の制定に向けて行動することを求める要請書

 

日本通運は戦時中軍事物資の輸送を担い、朝鮮半島からも数多くの朝鮮人を連行し、労働を強制しました。厚生省や労働省などの資料をみると、浜松をはじめ小樽、釧路、函館、大湊、宇都宮、土浦、汐留、川崎、横浜、横須賀、秋田、酒田、長岡、新潟港、富山、松本、静岡、熱田、大曽根、大阪、津田、岸和田、舞鶴、伊丹、湊川、相生、姫路、和歌山、広島、呉、益田、下関、若松、博多、浦崎、長崎など各地に連行され、強制労働がなされたことが判明しています。戦時に日本通運の現場へと連行された朝鮮人の数は判明箇所分だけでも2000人を超えるとみられます。

 厚生省勤労局調査資料によれば、日本通運浜松支店には朝鮮人50人が割り当てられ、1945年3月に忠清南道礼山郡から37人が連行され、積卸労働を強制されています。このうち22人が逃亡し、空襲による死者も1人います。解放後の1947年2月5日には浜松支店の未払い賃金1834円79銭が静岡供託局浜松出張所へと供託されています。さらに全国各地の現場で供託がなされていますが、これらの供託金は未払いのままです。

 韓国では2004年に強制動員被害真相糾明委員会が設立され、被害申告とその救済にむけての活動が始まりました。2010年には強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者等支援委員会が新たに設立され、調査と被害者の支援がおこなわれていますが、資料の不足が問題になっています。多くの資料が連行した企業に残されているとみられます。2010年に韓国政府に供託金の資料が送られましたが、日本通運浜松支店の資料は含まれていませんでした。

 厚生省勤労局調査の日本通運浜松支店の朝鮮人名簿は当時存在していた従業員個票などの名簿から作成されたものです。日本通運には当時の朝鮮人強制労働関係の資料が今も所蔵されているとみられます。今年は日本が韓国を強制占領して100年目になりますが、友好にむけての具体的な意思表示が大切であり、それらの資料の開示も課題です。

韓国での真相調査と被害者支援に協力するためにも、日本通運は支社をはじめ社内での歴史的資料の調査をおこない、関係資料を韓国側に提供すべきです。また、その歴史を社史に記し、その歴史を記憶すべきです。

日本政府と強制労働関係企業は過去の清算にむけて被害者補償のために基金を設立すべきですが、日本通運は関係企業として補償立法の制定に向けて政府に要請するなど、尽力すべきです。今日、日本通運はグローバルな展開を進め、企業の社会的な責任についても熱心です。そのような企業は過去の強制労働の歴史的責任をとる活動も積極的におこなうべきです。

 以上の主旨から、以下を日本通運に要請します。

一 当時の企業資料を調査し、連行者氏名、出身地、未払い金、厚生年金など厚生省名簿に示された記事を調査し、朝鮮人連行とその動員実態を明らかにすること

一 とくに従業員名簿、賃金個票、厚生年金関係名簿を調査し、動員の申請、割当、連行状況について明らかにすること、

  一 朝鮮人が労働を強制された日本通運の全現場と連行者数を明らかにすること

  一 全国各地での供託金の状態を調べ、供託者の名簿を収集すること

  一 それらの関係資料を被害者認定用資料として韓国側に提供すること

  一 朝鮮人強制労働の史実を社史に記録し、関係文書を管理すること

  一 関係企業として被害者補償基金を設立するための補償立法の制定に努めること

3 静岡法務局浜松支局

日通浜松支店の未払い金は静岡法務局浜松出張所に供託されている。その額と年月日は判明していて、連行者名簿も存在する。しかし、2010年3月に日本政府から韓国政府に手渡された供託明細書の資料には日通浜松支店のものは含まれていなかった。そのためその文書の所在を追及して、法務局浜松支局を訪問して要請した。

要請文は以下である。

 

静岡法務局浜松支局様                     2010年7月30日

                                人権平和・浜松

 

静岡法務局浜松支局内の朝鮮人供託金資料の調査の要請

 

韓国では2004年に強制動員被害真相糾明委員会が設立され、被害申告とその救済にむけての活動が始まり、2010年には強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者等支援委員会が新たに設立され、調査と被害者の支援がおこなわれています。被害認定用の資料として2010年3月には日本国内の法務局の供託金の資料が韓国政府へと送られています。

しかし、静岡法務局管内では沼津支局の東京麻糸紡績分の供託金名簿のみが資料として送られ、静岡の日本通運静岡支店、浜松の日本通運浜松支店の資料はそこに含まれていません。日本通運の静岡・浜松関係で、静岡司法事務局や静岡供託局浜松出張所[当時]に供託がなされたことは、国立公文書館の開示文書(「韓国105[労働省・大蔵省文書」)で明らかになっています。また連行朝鮮人数や未払い金の存在は厚生省勤労局[当時]の資料(「朝鮮人労務者に関する調査」名簿)から明らかになっています。

具体的にみれば、日本通運浜松支店には1945年3月に37人の朝鮮人が忠清南道から連行され積卸労働を強制されています。空襲による死者もいます。解放後の1947年2月5日には未払い賃金1834円79銭が静岡供託局浜松出張所へと供託されています。これらの供託金は未払いのままです。

 このような実態から、静岡法務局浜松支局内には日本通運浜松支店関係の朝鮮人供託金資料が今も存在しているとみられます。この資料を調査し、それを日本政府に提示し、韓国に送ることを要請します。また、破棄されたならば、その経過を明らかにすることを求めます。

4 浜松市

 浜松市には20世紀末からアジアやブラジルからの移民労働者が集住し、外国人の居住を巡って行政の対応もすすんだが、不況による日系ブラジル人等の大量解雇が進んだ。在日コリアン処遇問題は外国人の権利問題として第1に取り組むべきものである。浜松市に対しては、植民地支配期の浜松の在日コリアンの歴史についてまとめ、関係史料を公開することを求めた。要請文は以下である。

                               2010年7月30日

浜松市長様

                               人権平和・浜松

 朝鮮半島の植民地支配期など浜松での歴史に関する調査を求める要請書

 

今年は日本が朝鮮半島を強制的に「併合」して100年目となります。その中で、韓国の植民地支配を問い直し、新たな友好に向かう取り組みがすすんでいます。

また、韓国内では2004年に強制動員被害真相糾明委員会が置かれ、2010年には強制動員被害調査・被害者支援委員会が置かれるなど、戦時の強制連行問題の解決に向けての活動がおこなわれています。

浜松市の歴史をみると、植民地支配以後、朝鮮半島から浜松地域への移動が増加し、浜松での基地建設関連工事や鉄道・河川関連工事での就労がみられるようになりました。戦時期には鈴木式織機、日通浜松支店、古河鉱業久根鉱山、日本鉱業峰之沢鉱山などに朝鮮人が強制連行され、その数は1000人を超えています。ほかにも基地拡張工事、地下工場建設工事、兵士や軍属に多数の朝鮮人が動員されています。その実態は未解明のものが数多くあります。

真の友好は過去の清算の作業から始まります。私たちは浜松市が以下の取り組みをすすめることを要請します。

一 浜松の外国人の人権政策の一環として、浜松市内の在日コリアンの歴史を調査する組織を設立し、その歴史をまとめること

一 浜松での渡来人の遺跡や朝鮮通信使の歴史についてまとめること

一 戦後の外国人登録関係資料と帰国についての資料をまとめること

   一 特に、戦時の強制連行(強制動員)問題についての調査をおこなうこと

一 強制連行企業であるスズキ(鈴木式織機)、日本通運、JX日鉱日石金属(日本鉱業)、古河機械金属(古河鉱業)などから、関係資料を取り寄せること、またそのほかの連行実態についての調査をおこなうこと

一 政府厚労省・法務省から強制連行者名簿や供託金など関係資料を取り寄せること

一 戦時の社会保険名簿を調査し、動員されていた朝鮮人名を集約すること

一 浜松市が保管する埋葬火葬関係資料と戸籍受付帳を調査し、戦時の朝鮮人関係のものを集約して公開すること

一 浜松空襲での朝鮮人死亡者の状態について調査すること

一 韓国の強制動員被害調査・被害者支援委員会と連絡し、被害認定に必要な資料を提供すること

一 戦時の性的奴隷制度問題の解決に向けて、日本政府が取り組みを進めるよう意見具申すること

一 強制労働問題の解決に向けて日本政府と企業が歴史的責任を取るための立法をすすめるよう意見具申すること

一 市長の支持者でもあるスズキの社長に対して、フォルクスワーゲンの行動に学び、スズキの強制労働への歴史的責任を取るような行動をすすめることを助言すること

以上文書での回答を求めます。

 2010年7月30日の要請行動は以上の4つの文書を関係者に手渡して終了した。

韓国強制併合から100年、企業の社会的責任を提示しながら、戦時下の強制労働問題の解決を中心に各地での行動が積み重ねられていくこと、それによって関係企業と政府に、その不法性への賠償のための基金を設立させていくこと、そのための立法が求められている。         (T)