日韓弁護士会共同シンポジウム

2010年12月11日には東京で日韓弁護士会共同シンポジウム「戦争と植民地支配下における被害者の救済に向けて」がもたれ、250人が参加した。今回のシンポジウムは、日本弁護士連合会と大韓弁護士協会が今年の6月にソウルで「法の支配と日帝被害者の権利救済」のシンポジウムを開き、「慰安婦」問題や強制連行問題などの解決に向けて共同して取り組むことを確認するなかで開催された。

基調報告では、鄭載勲弁護士が解決すべき課題として「慰安婦」、強制動員被害、未払い供託金、日韓会談文書の公開と請求権認識などの問題あげ、今後の共同の活動として、基金・財団設立、供託金返還、厚生年金などの研究テーマをあげ、企業と政府への公式要請、広報活動などをおこなっていくことを提起した。

シンポジウムでは、日本軍「慰安婦」問題、強制動員、日韓両国での未解決課題の順に討論がなされた。討論にあたり映像や遺族の訴えもおこなわれた。

「慰安婦」問題については、両弁護士会から最終的解決に向けての提言が出された。その提言では、日本政府による被害救済のための立法(重大な人権侵害であることを認めての謝罪、補償、被害者からの意見聴取を含むもの)、国会・行政による調査機関の設立、真相の定着のための広報・教育、政府による否定言説への反論などを求めている。

最後に共同宣言が発表された。そこでは、日本軍「慰安婦」問題の立法による解決、日韓会談文書の全面公開、強制動員被害者への真相究明・謝罪・賠償をおこなう措置と基金を設立するなどの一括解決を求め、これらの問題の解決のために共同の委員会を設立し、持続的な協働をすすめるとしている。

●現在の人権侵害としての日本による戦時の奴隷化

シンポでの発題に対してのコメントで印象に残ったものは以下である。

国際法の理解は国家中心から人間中心へと転回し、とくに女性への暴力や人身売買を認めないという潮流や人種差別や植民地主義という不正義を認めずに過去の不正義を是正するという潮流が強まり、モノの見方が根本的に変化している。このなかで人間の立場から過去事をもう一度、国際法における現代の問題としてとらえ直す動きが強まっている。その動向は、過去に重大な人権侵害があり、それが放置されていて調査されず、訴追されず、未処罰であるならば、それは現在における人権侵害であり、放置された被害は救済すべきであるという国際法の解釈を生んでいる。この動きは日本での裁判でも、過去の強制労働問題において時間の壁を突破し、安全配慮義務違反や不法行為を認める判決を生んでいる。また、個人の権利や請求権は、国家間の取り決めで放棄することはできないという国際的な理解が形成されてきた。ギリシャやイタリアでは「外国主権免除」を認めずに、戦時下のドイツの強制労働問題などを国内の裁判所で訴えることができるようになった。企業の責任に対しても個人が直接請求できるようになってきた。

このようなコメントは、現在の日本での戦争被害者の個人賠償権を確立するうえで、重要な視点を提示していると思う。

2007年4月の中国人連行の西松組最高裁判決は、賠償請求権は裁判では主張できないとしても、上告人を含む関係者において被害救済にむけての努力を期待するというものであった。そのことから、当事者間の直接交渉がすすめられ、和解が成立した。この事例は、被害者の賠償請求権が存在することを示すものである。シンポではこのような経過から強制労働被害者の権利回復にむけての両国政府の取り組みの必要性が語られた。

日韓の弁護士による共同宣言は意義あるものである。日本軍「慰安婦」、強制動員被害者の尊厳回復、情報公開にむけてのいっそうの取り組みが求められる。