2011116 たちかぜ訴訟横浜地裁判決

2011126日、横浜地裁で、「護衛艦たちかぜイジメ自殺訴訟」の判決があった。

  

横須賀の海自の軍艦たちかぜに200312月に配属されたAさんは、先輩隊員による人権侵害によって200410月に鉄道での自死に追いやられた。遺族は自衛隊側の対応に怒りを持ち、200645日に提訴した。たちかぜでは先輩隊員がAさんに対し、指導という名で殴る蹴るの暴行を働き、艦内でガスガンや電動ガンの標的にし、アダルトビデオの購入まで強要して金銭を脅し取っていた。そのような行為が艦内で放任されていた。追い込まれたAさんは先輩隊員を呪い殺してやると記し、列車に飛び込んだのだった。21歳の若さだった。その後、自衛隊の警務隊が調査に入り、先輩隊員はAさんとは別の後輩隊員たちを被害者とするかたちで起訴され、20051月、横浜地裁横須賀支部で懲役2年・執行猶予4年の判決を受けた。

今回の裁判では、防衛省・自衛隊の隠蔽体質が明らかになった。自衛隊が行った調査記録のほとんどが黒塗りされていたため、原告側はその公開を求め、2年ほどの期間をかけてほぼ公開させた。裁判では、自衛隊側はいじめと自殺とは無関係とし、証言では、幹部らは事実と異なる証言もおこなった。それに対し、原告側は現職自衛官の証言も得ながら事実認定と尊厳回復を求め、自衛隊内での人権確立にむけての弁論をくりひろげてきた。

この裁判の法的な論点は、国の賠償責任を認めるか否か、先輩隊員の賠償責任を認めるか否か、いじめと自殺との因果関係を認めるか否かであった。職務の関連する行為での公務員個人の責任は問わないとするこれまでの流れに対して、原告側はその責任を真正面から追及したのである。

判決当日、傍聴には90人近い人々が詰め寄せ、65人が傍聴席でその判決を見守った。裁判長は被告らが連帯して原告に330万円と110万円の計440万円を年五分の利子を加えて支払うことを求めるが、その他は棄却すると述べ、判決主文を読みあげた。

主文では、いじめた先輩隊員Sによる暴行・恐喝については認め、不法行為への責任があるという。また、分隊長・先任海曹・班長の安全配慮義務違反も認めるという。さらにいじめと自殺との因果関係においては、自殺がSによる暴行と恐喝が今後も続くと予想してのものとし、その事実的な因果関係を認めた。しかし、国は自殺についての予見はできず、相当因果関係はないとした。国とSは連帯債務関係にあって、いじめについては440万円と利子を支払わねばならないが、他は棄却するという。また、裁判費用の30分の1は国側が支払うべきというのである(費用のほとんどは原告)。

裁判での法的な論点である、国と先輩隊員の賠償責任は認め、自殺との因果関係も認定されたわけだが、裁判所はこの裁判の主要な争点ではない「予見可能性」を持ちだして、予見可能性がなかったからと、いじめについての賠償金の支払いを命じるにとどまったのである。

裁判の判決文を聞いていると、原告側の主張の多くが認定されているが、最後の部分でいじめのみの賠償金の額を提示し、自殺に追い込んだ国の賠償責任については不問にするというものだった。しかし自殺についての予見ができれば、自殺は阻めることができるわけである。この判決のように、その兆候が見られなかったから予見不能とし、免責とする論理では正義の実現にはつながらない。自殺するような状況に追い込まれていること、その心理的負荷の増加の状況があきらかにされること、それをもって自殺の予見は可能であるとみなさなければ、自殺はなくせないし、救済もできないとみるべきだろう。

今回の判決は、いじめに対しての国側のAさんの品格を貶めるかのような反論は採用せず、原告の主張に沿って事実認定をおこなった。また上官の安全配慮義務違反を認め、いじめに対する連帯しての国と個人の賠償責任も認めている。今後は、自殺の「予見可能性」を以て、国の賠償責任を免責した横浜地裁判決の不当性を糾弾し、国の賠償責任をきちんと認定させていくことが求められると思う。

報告集会の会場には「自衛官一人一人の命を軽んじるな」の横断幕が広げられた。集会には札幌、横須賀、浜松、佐世保など各地の自衛隊人権裁判の原告が結集した。そこでは今回のたちかぜの判決で勝ちとった面を評価しつつも、判決文の不当性を問う発言が続き、「無念を晴らし、名誉を回復しよう」「自殺者が無くなるように自衛隊の体質を変えよう」「奮い立とう」と、今後の活動への決意をわかちあった。                               (T