福島原発事故の真実2 放射能汚染の実態
2011年5月22日、「福島原発事故の真実2 放射能汚染の実態」というテーマで河田昌東さんを招いて学習会を持った。河田さんは名古屋大学や四日市大学などで職を持ちながら、チェルノブイリ中部で活動し、チェルノブイリ周辺での支援活動を担ってきた研究者である。以下は講演の要約である。
「福島原発事故と放射能汚染の実態 ―チェルノブイリ事故から学ぶ―」
河田昌東
浜松のみなさん、こんにちは。チェルノブイリ救援中部の河田昌東です。きょうは福島原発事故と放射能汚染の実態をテーマに、チェルノブイリ事故の経験をふまえ、福島の現状と課題について考えてみたいと思います。先日、飯館村に行きましたが、写真のように線量計では毎時23.63マイクロシーベルトを示す場所があり、汚染は深刻なものになっています。
●福島事故の概要
さて、1986年4月26日の深夜、チェルノブイリ4号炉が爆発しました。核暴走による爆発と火災がおき、懸命の消火作業が続けられましたが、ソ連政府はその事実をすぐに公表しませんでした。世界各地で反原発の動きが高まりますが、日本の電気事業連合会は「わが国ではこのような事故は起こりません」と宣伝しています。その25年後、今度は福島第1原発で地震と津波によって炉心溶融と爆発事故が起きたわけです。
福島原発周辺地域では放射能汚染のために遺体の収容作業ができずに、集中的な捜索は45日後におこなわれました。チェルノブイリ原発の石棺内には、作業員ホデムチェクが取り残されてしまいました。かれの遺体は収容されていませんが、強い放射線のなかでバクテリアが生存し得ないため、遺体は腐敗することなく残っているともいわれます。
原子力発電というと、その仕組みは難しく思われていますが、火力発電と同様に、蒸気でタービンを回して発電するというものです。その燃料が石油ではなく、ウランというわけです。事故が起きると、火力では燃料の供給を停止すればいいわけですが、原子力の場合、2つの対応が必要になってきます。一つは緊急自動停止、もう一つは炉心冷却の確保です。今回は、自動停止はできましたが、余熱を除去する炉心の冷却に失敗したわけです。
チェルノブイリ事故と比べてみますと、チェルノブイリは制御の失敗で核暴走が起き爆発しました。福島では炉心と使用済み燃料貯蔵プールの2つの冷却に失敗し、水素爆発などの事故が起きたわけです。福島のような沸騰水型の原子炉の弱点はタービンを回すために汚染された蒸気が、配管を通じて格納建屋の外に出されることにあります。
核燃料は放射性物質がある限り発熱します。炉心では崩壊熱の冷却が必要になり、燃料プールの冷却も必要になります。100万キロワットの原発を例にみれば、停止の翌日には熱出力は15800KW,放射線量は3840キューリー、15日後で5090KW,1210キューリーと発熱しています。1年たっても、599KWの熱出力があるわけです。燃料被覆管のジルコニウムは高温になると水と反応して水素を出します。炉水の温度は通常は300度ですが、燃料棒が露出し、高温になりました。水素が発生し、それが爆発につながりました。ウランのペレットも溶融しています。
燃料棒といっても大きさは直径1センチです。ジルコニウムの被覆管は1ミリです。写真にあるように、燃料棒は太い鉛筆ほどの大きさで、燃料ペレットは手のひらに乗せることができるものです。この燃料棒が2000度を超える高熱のなかで溶融しました。報道記事にあるように1・2・3号機の炉心が溶融し、水素爆発を起こし、建屋や格納容器が破壊されたわけです。とくに3号機の爆発の規模は大きく、大きな黒雲を立ち昇らせた爆発直後の映像が配信されました。
4月6日時点では、1号機は炉心が70%の損傷ということでしたが、5月に入ると大部分が溶融していると、公表されました。地震から16時間後には、1・2・3号機で本格的なメルトダウンがはじまっていたのです。今も汚染蒸気の放出と汚水の流出が続いています。原子炉建屋内には毎時2000ミリシーベルトの場所もあり、数分の作業で被ばく限度を超えてしまう場所があります。5月12日の記事をみますと、1号機ではメルトダウンにより、高熱で圧力容器に穴があき、水漏れが続いているとあります。水棺作業はできないことになります。
●被曝と環境への影響
はじめに放射線と被曝の単位についてみておきましょう。ベクレルとは放射性物質の量を示すもの、レントゲンは出される放射線の強度、グレイは生物の放射線の吸収エネルギー、シーベルトは放射線の生物への影響を示すものです。
放射能とは通称語であり、放射線を出す能力のことを指しています。かつてはレムやラドの単位が使われました。100レムが1シーベルト、100ラドが1グレイです。吸収線量をグレイ(ラド)、被曝線量をシーベルト(レム)というわけです。生物への影響を示す単位として、被曝線量を示すシーベルトが使用されています。吸収線量と被曝線量の関係をみると、アルファ線・中性子線は吸収線量1ラドを被曝線量10レムに,ベーター線・ガンマ線・エックス線は1ラドを1レムに換算します。
さて、福島第1原発での空間線量をみてみましょう。地震の翌日の12日の6時42分には中央制御室で通常の1000倍の線量でした。12日の16時30分の1号機の水素爆発、13日の11時1分の3号機の水素爆発を経て、線量は増加し、18日には1号機建屋地下で毎時500ミリシーベルトを計測されるに至ります。原発正門近くでは15日の4号機の火災、16日の3号機の白煙の際には、毎時10ミリシーベルトを超える放射線量を計測していますから、放射性物質の大量放出が続いたことがわかります。
東京都の放射線測定記録をみると、15日に大きな増加があります。これは放射能の雲が東京を通過したことを意味します。以前、チェルノブイリの放射線を1986年に名古屋大学の古川路明さんが大学の屋上で調査した際にもセシウムを検出しています。福島の放射能は世界を汚染しました。
チェルノブイリの汚染地図をみれば、汚染が一様ではなく、風向きや雪・雨などで左右されたことがわかり、200キロ先、400キロ先にも高濃度の汚染地帯があります。
チェルノブイリ救援・中部が支援活動をしているウクライナのジトーミル州はチェルノブイリの南西にあり、70キロから200キロほど先の地帯です。このジトーミル州のナロジチで土壌改善などの活動をしています。
●チェルノブイリの放射能汚染
広島・長崎では外部被曝の問題が中心であり、投下後に救援に入った人は放射性物質を吸い込んで内部被曝しました。チェルブイリなどの原子力発電所の事故の教訓は、内部被曝です。広島・長崎のデータではこの内部被曝の問題がみえてきません。
ウクライナ各州の集積線量の表がありますが、チェルノブイリ救援中部が関わっているジトーミル州では1万シーベルト・人を超えています。そのうちの約7割以上は内部被曝によるものです。外部被曝とは体外から放射線を受けることで、内部被曝とは放射性物質を体内に取り込み、体の中から被曝することです。外部被曝と内部被曝とでは放射線の密度が違ってきます。分裂が盛んな細胞ほど被曝の影響は大きくなります。放射線が細胞内分子を切断し、突然変異や細胞死などを起こします。それがガンや個体の死をもたらすわけです。
放射能は目には見えない粉塵です。チェルノブイリ事故後にキエフを旅行していた女性のスカートに付着していた放射性物質をバーミンガム大学がレントゲンフィルムに現像したものがあります。粉塵は呼吸すれば、体内に入ります。このような放射性微粒子を「ホットパーティクル」と呼んでいます。この「ホットパーティクル」が内部被曝をもたらします。
ナロジチ地区のセシウム137の体内放射能の統計表では、7400から18500ベクレルの人が最も多くなっています。中には10万ベクレルや20万ベクレルを超える人もいます。日本人の平均は20ベクレルですから、事故による放射性物質の吸収、内部被曝が大きな問題であることが理解できるでしょう。福島でも同様な状況がすすむでしょう。
ナロジチでの2002年上半期の食物のセシウム137を測定した結果の表(ガンマ線)があります。きのこでは6万9千ベクレルを超える値が検出され、森のベリー類では8400ベクレル、肉・肉製品では1万4千ベクレル以上、魚・魚製品では800ベクレルが検出されています。半減期30年のセシウムの汚染は、事故から20年を経た今も続いているわけです。
風下へと放射性物質が運ばれることで大規模な汚染がおこります。一つは飛散した放射線による外部被曝があります。それから農作物や飲料水、海産物からの内部被曝があり、また、汚染された土壌からの外部被曝と内部被曝も重なります。このような被曝によってさまざまな病気が引き起こされます。
チェルノブイリ周辺では心臓病、脳血管病、糖尿病、先天異常、ガン、免疫力低下などの症状がみられます。セシウムは取り込まれるとはじめに心臓に入ることがわかってきました。ですから、心臓や血管への影響が出るわけです。ガンや白血病だけが放射線による病気ではありません。ウクライナでの甲状腺ガンの統計からは0歳から14歳までの発症率が高く、女性の発症率は男性の3倍ほどとなっています。
ナロジチ地区の成人の健康状況の統計をみると、新生物(ガン)や内分泌、血液の疾患者が年々増加し、2008年には10万人あたりで6万人ほどがこれらの病気に罹患するに及んでいます。事故前は10万人のうち1万人ほどですから、20年で6倍の増加です。0歳から17歳の子どもたちの状況はさらに悪く、新生物の罹患は21世紀にはいってから急増し、心臓血管系、血液疾患も増加しています。100人中1900人ほど、2000人近い人々が罹患しています。つまり、一人で複数の症状を抱えているわけです。放射能汚染は次の世代に大きな影響を与えるのです。
●福島事故での放射能汚染地帯
今回の福島原発の事故では北西へと汚染地帯が広がっています。チェルノブイリの居住禁止区域を超える汚染地帯が現出しています。ウクライナでは55.5万ベクレル以上で居住禁止区域にしています。福島北西方面では福島市で60万ベクレルを超える個所もあります。
日本政府は空間線量で規制していますが、内部被曝の問題が放置されています。33万ベクレル以上は稲作作付けを制限するとしていますが、野菜の作付けは今のところ制限はありません。外国のシミュレーション、例えば、ノルウェー気象研究所の拡散シミュレーションをみれば、南東に風が吹き、太平洋側へと拡散していますが、風向きが途中で変わり、北西へと流れていきました。
福島事故の放射能は地球レベルでの汚染をもたらしています。ハワイではウラン238が検出されています。カルフォルニア州でのヨウ素131の汚染図がありますが、福島からの放射性物質が到着して、牧草を汚染しました。
福島事故でのSPEEDIによる甲状腺の内部被曝量の試算があります。3月12日から24日までの積算値ですが、福島原発周辺は10シーベルトに及び、10キロ圏内では1シーベルト以上のところが多くなります。飯館村は100ミリシーベルト以上です。チェルノブイリ事故の甲状腺への平均被曝量はベラルーシで193ミリシーベルト、ウクライナで69ミリシーベルトですから、福島の汚染がいかに深刻なものであるのかがわかります。
3月17日の福島周辺でのモニタリングをみると、福島北西で放射線値が高いことがわかります。風向きや放射線値からホットスポットは確認されていたわけですが、飯館村など汚染地の高い所への対策はなかったのです。飯館村のホットスポットをみれば、3月16日・17日には調査地点サイト32では毎時170マイクロシーベルト近い値を示していることがわかります。1日で3ミリシーベルトを超える被曝になります。
●放射能汚染の実態
事故後の3月21日のヨウ素131の汚染状況をみれば、茨城県のほうれん草からは1キログラム54100ベクレル、栃木県のほうれん草からは5700ベクレルが検出されています。原乳では福島で5300ベクレルが検出されました。そのために福島など4県の農産物は出荷停止となります。文科省が3月20日に摂取した雑草からは、飯館村では265万ベクレルものセシウムが検出されました。いわき市でも69.17万ベクレルが検出されています。家畜に食べさせたら危険な量です。遠く島根県でも定時降下物から微量ですがヨウ素が検出されています。
3月20日の雨によって、大気中の放射性物質が地上に降り注がれました。20日の雨の24時間中の放射能をみれば、茨城ではヨウ素131が93000ベクレル、セシウム137が13000ベクレルとなり、東京ではヨウ素131が2900ベクレル、セシウム137が560ベクレルとなります。飲料水の汚染も始まり、3月17日には原発から北西40キロの福島県川俣町で、1キログラムあたり308ベクレルのヨウ素131が検出されました。
原発から200キロ離れた東京都新宿区百人町での3月21日から22日までの放射能降下量は、1平方メートルでヨウ素131が32300ベクレル、セシウム137が5300ベクレルに達しています。これらの放射性物質が水道水にも流入していくわけです。東京都の水道でも3月23日に基準の2倍のヨウ素が検出され、乳幼児には飲ませないようにという指示が出されます。
この頃、「直ちに影響はない」宣伝が繰り返されますが、汚染が放置されれば、ナロジチの健康調査のように10年、20年後に深刻な被害状況がもたらされるわけです。水道水が汚染されれば、下水も汚染され、その汚泥から高濃度のセシウムが検出されるようになりました。福島市の汚泥からは1キロあたり44万6千ベクレルものセシウムが検出されています。福島県産の野菜での高い濃度の汚染が分かり、政府は、ほうれん草、ブロッコリー、小松菜、カリフラワーほか、多くの野菜の摂取制限をおこないました。
3月21日に採取された飯館村のブロッコリーではヨウ素131が17000ベクレル、セシウム134が7000ベクレル、セシウム137が6900ベクレル、川俣町の信夫冬菜ではヨウ素131が22000ベクレル、セシウム134と137がともに14000ベクレルが検出されています
ここで、政府が3月17日に出した暫定基準値なるものについてみておきますが、事故前はチェルノブイリ事故時対応の輸入食品基準しかなかったのです。それはアメリカをまね、すべての食品で370ベクレル(1キロ毎)というものでした。新たに設定した暫定基準値では、セシウムでは水や牛乳では200ベクレル、野菜や肉類では500ベクレル、ヨウ素では水や牛乳で300ベクレル、野菜類で2000ベクレルという高めの設定です。
この日本の暫定基準値とウクライナの基準値(1997年の改定値)を比較すると、セシウムでは飲料水はウクライナ2、日本200、パンはウクライナ20、日本500、肉でウクライナ200、日本500、野生イチゴ・キノコでウクライナ500、日本500となります。日本の基準が大量の汚染を前提とした高いものに設定されているのかがわかります。
高い基準値が設定したうえで、基準値以下であり、安全である、微量であり、直ちに健康には影響はないと宣伝されたわけです。なお、シイタケの基準値みておけば、日本では1キロあたり、ヨウ素が2000ベクレルですが、EUの乳児食品基準は100ベクレル、アメリカは輸入基準が170ベクレルです。セシウムでは日本では1キロあたり、500ベクレルですが、EUの乳児食品基準は200ベクレル、アメリカは輸入基準が1200ベクレルです。飯館のシイタケには13000ベクレルものセシウムが検出されたのです。
さて、このような汚染食品の放射能はどのように被曝線量に換算するのでしょうか。換算はつぎのようにおこないます。ヨウ素131の場合、被曝線量(mSv)=(汚染度Bq/kg)×摂取量(kg)×(F=2.2)×(‐5乗)、という式を使います。この式で、300ベクレルの水を毎日2リットル10日間飲むとすると、被曝線量は300×2×10×2.2×10(‐5乗)=0.132mSv=132μSvとなります。セシウムの場合、F=1.3を使用します。ヨウ素131が5000ベクレル(1キロあたり)含まれる牛乳を毎日1リットル10日間飲むと1100マイクロシーベルトの被曝線量となるというように計算するわけです。
原発北西40キロメートルの飯館村で3月20日に採取した土壌からは1キログラムあたりヨウ素131が117万ベクレル、セシウム137が16万3千ベクレル、検出されています。3月21日に採取された第1原発南放水口から100メートルの海水からは1リットルあたりヨウ素131が5066ベクレル、セシウム134が1486ベクレル、セシウム137が1484ベクレル検出されています。このように土壌と海の汚染がはじまっています。
加えて、4月4日からは汚染水の大量放出がなされました。「低レベル」といわれていますが、集中廃棄物処理施設の汚染水1万トン、5・6号機地下ピット内の汚染水1500トンが放出されました。それ以外にも高レベルの汚染水が既に流出していますから、魚介類の汚染は必至です。
ヨウ素131の海水の濃度をみれば、すでに4月2日の2号機排水口付近では1ミリリットルに30万ベクレルが検出されています。これは基準値の750万倍にあたります。4月4日の2号機の近くの海水では1立方センチに20万ベクレルが検出され、これは基準値の500万倍の値です。
魚の汚染をみれば、4月4日の北茨城市沖のコウナゴから1キロあたりヨウ素131が4080ベクレル、セシウム134が250ベクレル、セシウム137が197ベクレル検出され、福島県内では5月13日に、シラスでセシウムが850ベクレル、川魚のアユからもセシウムが720ベクレル検出されています。いわき市での4月13日でのコウナゴの最大検出値は、ヨウ素は12000ベクレル、セシウムは14400ベクレルです。EUでの幼児の食品基準はヨウ素では100ベクレルですから、120倍の値です。
このように汚染の拡大が問題になってきたわけですが、政府が福島の事故をレベル7と認めたのは事故から1カ月後の4月12日のことでした。政府による海水の汚染状況の測定は不十分なままです。
●事故処理作業員の被曝
事故処理現場では大量の作業員の被曝が生まれています。事故処理に向けての作業が続いていますが、政府は事故時の被曝限度を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトへと倍増させました。作業現場は過酷であり、足を放射性物質で汚染され、2人の作業員が搬送されるという事故が起きています。40〜50分で170ミリシーベルトを超える現場での作業がおこなわれました。
チェルノブイリの事例をみると、石棺完成までに投入された人々は85万人といいます。そのうち事故処理に関わった作業員で被曝量が多かった人びとの内、1カ月以内に31人が死亡し、その後これまでに5万人以上が亡くなっています。
1号機建屋近くでは毎時40ミリシーベルト、3号機周辺のがれきでは900ミリや300ミリシーベルトのものが見つかり、3号機の配管表面では160ミリシーベルトなどの現場も発見されています。このような現場で作業すれば、すぐに限度の250ミリシーベルトを超えることになります。敷地内の土壌からは3月末にはプルトニウムも検出されています。
現場では過酷な被曝労働が続いています。3月末の報道では、朝食はビスケットと野菜ジュース、夜食は非常用の五目飯と缶詰、宿舎はすし詰で雑魚寝状態といいます。
福島県外で働く福島県出身の原発労働者から内部被曝が4766件発見されていることも重要です。原発で働く労働者はホールボディカウンターで被曝検査を受けますが、その際に発見されています。どこで被曝したかといえば、事故後に福島県内に立ち寄って放射性物質を吸い込んだことによります。当然一般の住民も放射性物質を吸い込み、内部被曝をしているわけです。住民への被曝検査が急務です。
ウクライナでの汚染地域の労働者の脳血管症は、事故時の1986年には1000人あたり5人でしたが、事故から6年後の1992年には45人ほどとなり、9倍に増加しています。
さて、事故から2カ月後に、東電は地震と津波による炉心の冷却機能の失敗のため、直後にメルトダウンが発生していたことを認めました。1号機では16時間後に大半が溶融したというのです。3号機の温度は冷却しているにもかかわらず上昇をしています。何がおきているのでしょうか。東電は2号機と3号機の内部状況を把握できていません。炉心が溶融し、溶融した塊が一定の大きさになると再臨界が起こり、制御不能になります。福島ではそのような再臨界の可能性もあります。
二本松市役所のデータをみるとヨウ素の値は4月はじめまでに低下しています。しかし、セシウムの値は一定です。これはセシウム134の半減期が2年、セシウム137の半減期が30年と長いためです。チェルノブイリでもこのセシウムの除去が課題です。
チェルノブイリ救援中部では原発事故から4月26日までの累積外部被曝線量を算出してみました。1日24時間放射線を浴び続けたものとしての数値ですが、北西約60キロの福島で4ミリシーベルト、白川で1.1ミリシーベルト、いわき市で0.8ミリシーベルトになります。しかし問題は内部被曝による汚染です。食べ物や水、空気からの放射性物質の取り込みが被曝を増加させるわけです。
文科省も累積線量を予想しています。来年3月までの累積線量は福島原発周辺では200ミリシーベルトを超え、飯館村では50ミリシーベルトを超える場所もあり、福島市や二本松市、郡山市の一部では10ミリシーベルトを超えます。北西に向かって汚染地帯が形成されています。
友人が送ってくれた奇型の菜の花の写真があります。3月15日にいわき市内の土手で発見されたものですが、放射能汚染の影響かもしれません。チェルノブイリでの数多くの奇型の植物が発見されています。ある研究者の2008年の論文にはチェルノブイリ30圏内で発見されたカメムシの奇型の写真も収められています。今後の汚染と生物への影響が懸念されます。
●浜岡原発の廃炉へ
最後に浜岡原発についてみておきましょう。政府は5月6日に中部電力に対して浜岡原発の停止を要請し、中電はそれを受け入れ、稼働していた4.5号機を停止しました。しかし、運転停止作業中に、冷却用の海水の配管が復水器内で破損し、復水器に海水400トンが流入し、圧力容器内へと5トンの海水が流入するという事故がおきています。汚染水が海に放出された可能性もあります。
浜岡原発は東海地震の震源域の中央にあり、そこは震度6から7の地震が起きる場所です。早急に止めるべきですし、このような場所に原子力発電所を建設し稼働してはなりません。三重県の芦浜では反対運動で原発を阻止しました。中電管内での原子力発電への依存度は2009年では12.3%です。中電は原発なしで十分な電力を供給できるわけです。今なら浜岡原発を止めることができるわけです。
今後は、福島での汚染状況の測定のために測定ボランティアを募り、南相馬などで測定をすすめていく計画です。
ナロジチでは菜の花を植えてセシウムを除去するプロジェクトをすすめています。地中のセシウムを菜の花はカリウムとして吸収します。その菜の花から燃料を取り、そのなかのセシウムを取り除くという計画です。20年から30年をかけての除染活動です。チェルノブイリではストロンチウムは地下40センチ、セシウムは20センチ付近まで沈下しています。
福島では早急に汚染された土壌を取り除き、セシウムなどの土壌への沈下を防ぐ作業が必要と思います。菜の花やヒマワリを植えればいいというものではありません。今のうちなら、除染できるでしょう。
(2011年5月22日 浜松での講演の要約、文責 人権平和・浜松)