いまなぜ朝鮮人強制労働被害者補償立法か

       矢野秀喜さん(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク)の講演の要約
           

             2012年9月23日、文責 人権平和・浜松


 

浜松のみなさん、こんにちは。強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワークの事務局長の矢野秀喜です。

強制連行・企業責任追及裁判全国ネットは企業を相手にしての朝鮮人や中国人の強制連行裁判がはじまるなかで1996年に結成しました。

強制連行裁判全国ネットの活動の柱は3つです。1つめは国際労働機関(ILO)への申立てです。これはILOの条約勧告適用専門家委員会で、強制労働を禁止した29号条約違反の認定をかちとり、日本政府に対する被害者救済勧告を引き出すことが目的です。2つめは、強制連行企業に対する責任追及をおこない、解決交渉を通じて「和解」を迫るということです。3つめは、裁判の相互支援です。しかし、裁判は終わりましたから、一昨年からは「朝鮮人強制労働被害者補償のための財団設立法」を検討し、その立法化運動に軸足を移して活動しています。

 今回の報告では、強制連行裁判の経過、強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワークの取り組み、韓国における過去事清算の取り組み、韓国大法院判決の歴史的な意義、強制労働被害者補償法の制定の順に話していきたいと思います。

 

● 強制連行企業裁判の経過と司法判断

では、韓国人強制連行被害者が日本で起した訴訟とその経過についてみていきます。日本の朝鮮人関係の企業裁判は10件あります。

最初に起こされた裁判は、1991年9月提訴の金景錫さんの日本鋼管訴訟でしたが、一審は敗訴し(97.5)、控訴審段階で、日本鋼管(NKK)と和解を実現しました(99.4)。

わたしが主に関わった裁判に、日本製鉄釜石訴訟があります(1995.9提訴)この裁判は、一審審理段階で新日鉄と和解を実現しました(97.9)。日本製鉄での供託金の史料が発見され、その名簿から関係者に連絡するという作業がおこなわれてきました。遺族は遺骨を返してほしいと求めました。しかし、多くは艦砲で死亡し、遺骨は石応禅寺の多宝塔に合葬されていました。そこで新日鉄は弔慰金を支払うことにしたのです。このような裁判での企業との和解は初めてのできごとでした。

この訴訟では、国に対する訴訟は継続し、最高裁で敗訴が確定しました(07.1)。また、関連して供託金返還訴訟を提訴しましたが、敗訴となりました。日鉄では他に大阪訴訟があります(1997.12提訴)この裁判は一審から最高裁まで敗訴しましたが、原告は敗訴確定後、韓国・ソウルで新日鉄を被告として提訴し、闘いを継続しました。

このほかの裁判をみてみましょう。金順吉さんの三菱長崎訴訟(1992.7提訴)では一審から最高裁まで全て敗訴しました。金さんは厚生年金脱退一時金を請求し、35円を受けとりました。三菱広島訴訟(1995.12提訴)は一審で敗訴しましたが(99.3)、最高裁で被爆者援護の差別については違法とする部分勝訴をかちとりましたが、請求自体は棄却されました(07.11.1)。そのなかで、2000年5月には韓国の釜山で三菱重工を被告として提訴しました。2012年5月24日に出された大法院判決はこの三菱広島訴訟と先に述べたソウルの日鉄大阪関係のものなのです。

また、朝鮮女子勤労挺身隊関係の裁判が4件あります。

不二越第1次訴訟(1992.9提訴)では、時効適用により、一・二審で敗訴しましたが、最高裁段階で、不二越と和解しました(2000.7)。他の連行被害者が不二越第2次訴訟(2003.4提訴)をおこしましたが、一審から最高裁まで敗訴となりました(2011.10.24)。

東京麻糸紡績沼津工場関係をみれば、関釜裁判では元日本軍「慰安婦」と東京麻糸の元女子勤労挺身隊の被害者が山口地裁下関支部に提訴し(1992.12)、元「慰安婦」被害者の訴えについては認めるという一部勝訴判決が出されましたが、強制労働被害者の請求は棄却され(98.4)、最高裁でともに敗訴が確定しました。みなさんも支援された静岡での東京麻糸紡績訴訟(1997.4提訴)では、一審から最高裁まで敗訴となりました。しかし、04年に東京麻糸紡績の後継会社である帝人が連行被害者10数人に対し20万円の「見舞金」を支払うことになりました。

三菱名古屋・女子勤労挺身隊訴訟では(1999.3.提訴)、一審から最高裁まで敗訴しましたが、敗訴確定後、三菱重工に対し金曜行動等を展開しました。その結果、2010年11月から解決に向けての協議を開始しました。しかし、2012年7月に交渉は決裂し、あらたな闘いがはじまっています。

ではこれらの裁判で、日本はどのような司法判断をしたのでしょうか。

企業に対しては、時効・除斥や別会社論を採用して免責にしています。戦後、旧日鉄、三菱重工等は一旦分割され、別会社として出発した経過があることが口実とされています。日本政府に対しては、国家無答責論や時効・除斥で免責にしてきました。そして、最終的には、「日韓請求権協定で原告の請求権は消滅している」として請求を棄却するにいたりました。日本政府は日韓条約後の法律144号で韓国人の日本での財産を消滅させ、それをもって請求できなくさせていたのです。しかし請求権自体がなくなったわけではありません。

また、BC級戦犯被害者訴訟における最高裁判決では(2001.11)、“戦争によって生じた犠牲・損害に対する補償は憲法の予想しないところ”と受忍論を展開し、“敗戦に伴う国家間の財産処理といった事項は、憲法の予定していないところ”とし、責任を放棄しています。

このような判断により、裁判で強制連行問題を解決していく道は閉ざされました。新日鉄、日本鋼管、不二越訴訟などで実現した「和解」についても、2000年以降は途絶えたままです。

 

強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワークの活動

 先に述べましたように、強制連行裁判全国ネットは国際労働機関(ILO)への申立て、強制連行企業に対する責任追及、裁判の相互支援をおこなってきました。このような司法による判断のなかで、あらたに立法化運動へと軸足を移すことになったわけです。

 ここでILOへの申し立て経過についてみておきます。ILOへの申し立ては1997年12月におこないました。その結果、1999年3月には、条約勧告適用専門家委員会が、日本がおこなった「戦時産業強制労働」について、29号条約違反と認定し、被害者が満足するかたちで問題を解決するように促す意見を公表しました。大阪のOFSET労組(英語教員の労組)が「慰安婦」問題について、強制労働禁止条約違反であると申立て、条勧委が条約違反と認定したという経緯をふまえて、この申し立てをおこなったわけです。

これに対し日本政府は、戦時適用除外やサンフランシスコ講和条約及び二国間条約で解決済みなどと語り、反論しています。しかし、条勧委は29号条約違反であるとの事実認定を維持し、一貫して被害者の早期救済を促す立場を堅持しています。けれども、日本政府は条勧委の意見には法的拘束力はないとして、勧告を無視する態度をとり続けているのです。

全国ネットは、ILO総会の条約適用委員会で「個別審査」ケースとして取り上げ、日本政府を追及し、勧告を受入れざるを得ない状況に追い込んでいくことを目標に、ロビー活動等を継続的に展開しました。しかし、日本の政労使の妨害に遭い、目標は達成できていません。

 

韓国での過去清算の取り組み  

1975年に韓国では対日補償法が制定され、死亡者分の30万ウォンが8千人ほどに支給されました。しかし、すべての死亡者に渡されたわけではなく、生存者への補償はありません。このなかで太平洋戦争犠牲者遺族会が結成され、日本に対し賠償を求める運動を開始していますが、軍事政権の下で請求運動は抑圧され、監視の対象とされました。対日賠償請求の運動が本格化したのは、1987年に軍事独裁体制が崩され、民主化が達成されてからです。このなかで韓国からの海外渡航も自由化されました(1988年)。

1990年代に入ると、金学順さんの日本軍「慰安婦」証言があらわれるなど被害者団体の活動がさかんになり、「慰安婦」・軍人・遺族訴訟の提訴を皮切りに、ソウル、江原道、釜山、平澤、光州などから次々に戦後補償裁判が起こされたというわけです。しかし、日本での裁判では請求が棄却されました。このなかで、被害者たちは日本だけでなく韓国内での闘いに乗り出しました。

2000年5月には、釜山で三菱重工を相手に、2005年2月には、ソウルで新日鉄を被告として損害賠償請求訴訟を提訴したわけです。金大中政権に続いて誕生した盧武鉉政権に対しては、強制動員の真相糾明や日韓外交文書の公開などを迫る運動を強化していきました。日本側が日韓協定で解決済みと主張しているため、原告側は韓国政府にその内容を明らかにせよと求めたわけです。

このような動きのなかで 盧武鉉政権下で民主化への弾圧や米軍犯罪を含め、過去事の清算がすすみました。2004年3月には日帝強占下強制動員被害真相糾明特別法が制定され、04年11月には政府機関として強制動員被害真相糾明委員会が発足します。2005年1月には日韓外交文書の公開がはじまり、同年3月には盧武鉉大統領の「真心をもって謝罪して、賠償することがあれば賠償し、そして和解」、「韓日協定と被害補償問題に関しては、政府も不足な点があった」、「今からでも政府はこの問題を解決することに積極的な努力をする」といった発言が生まれます。日韓関係外交文書の韓国側文書はほぼ公開されることになりましたが、日本側の公開では動員数や未払い金など、請求権の算定に関する重要部分のほとんどが黒塗りにされています。

2005年8月には、韓国の韓日会談文書公開・後続対策関連民官共同委員会が日韓請求権協定に関する評価を明確にします。それは、「韓日請求権協定は基本的に、日本の植民地支配賠償を請求するものではなかったし、サンフランシスコ条約第4条に基づいて韓日両国間の財政的・民事的債権・債務関係を解決するためのものだった」、「日本軍慰安婦問題など、日本政府・軍など、国家権力が関与した反人道的不法行為に対しては請求権協定によって解決したと見ることはできず、日本政府の法的責任が残っている」、「サハリン同胞、原爆被害者問題も、韓日請求権協定対象に含まれなかった」というものです。ここでは強制動員問題については触れられていなかったわけですが、今年の大法院判決で、強制動員も不法であり、損害賠償請求権はあるとされたのです。

 2007年12月には太平洋戦争前後国外強制動員犠牲者支援法が制定され、翌年6月に支援委員会が発足し、9月から強制動員犠牲者慰労金等の申請受付がはじまりました。2010年3月には対日抗争期強制動員被害調査及国外強制動員犠牲者等支援特別法が制定されました。

 韓国での真相究明と被害者支援について、2012年9月段階での処理状況についてみておけば、被害申告は22万6583件なされ、そのうち21万8639人が認定されています。その内訳は軍人が3万2千、軍務員が3万6千、労務者が14万8千人(百以下切り捨て)などです。国外動員の5分の一が申請し認定された状況であるとみていいでしょう。史料がないため労務者の5000人ほどが判断できていません。真相調査は32件がなされ、報告書が出されています。支援の状況では10万人ほどが申請し、決定は8万5千人です。決定の内訳をみると、死亡行方不明が1万7千人、負傷障害が1万8千人、未払い金が2万4千人、医療支援金が2万4千人です。このように、調査と支援が具体的になされているわけです。

2011年6月にはこの被害調査支援特別法の一部が改正され、第37条の中に、「強制動員犠牲者支援財団」を設立することができる旨の規定を挿入しました。それにより、支援財団づくりに向けての準備が開始されたわけです。このような動きの背景には、支援法による支援が死亡者、遺族に“厚く”、生存犠牲者に“薄い”ことに対する不満があります。生存犠牲者は日本に残された未払い金の1円につき2000ウォンという還付レートの改善を求めました。また、日韓請求権協定資金により設立されたPOSCO(元・浦項製鉄)に対しては“損害賠償”を求めるという訴訟を起したのです。このような動きのなかで既存法の条文改正ということになりました。POSCO、KT(元・韓国通信)などの企業と政府が出捐して財団を構成していく方向性は確定しています。

今後の焦点は、日本の企業にこの財団に出捐させるか否かということです。日本がどう動くかが、問われているわけです。

 

● 5.24韓国大法院判決の歴史的意義

2011年8月には、韓国憲法裁判所が日本軍「慰安婦」、原爆被爆者の訴えを認めて、韓国政府には不作為があるとしました。それにより、韓国政府は2回にわたり外交上の解決を求める口上書を日本政府に送達し、李明博大統領が野田首相に「慰安婦」問題の解決を要求するに至りました。同年9月には韓国政府と国会が、強制動員企業を一部の政府機関と地方自治体等の入札から排除することを決定しました。このなかで「戦犯企業リスト」も公表されています。

このような過去清算をめぐる動きのなかで、2012年5月24日に韓国の大法院が、三菱重工、新日鉄訴訟での被害者原告の賠償請求を棄却した下級審判決を取り消し、高等法院に差し戻すという判決を出したのです。その大法院判決の概要をみて、この判決の歴史的な意義について考えてみます。

 まず、「請求権協定で解決済」論を否定しています。「日本の国家権力が関与した反人道的行為と植民支配に直結した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定の適用対象に含められていたとみることはできない」、「請求権協定によって個人の請求権が消滅しなかったことはもちろん、大韓民国の外交保護権も放棄されなかったと見ることが相当である」としています。

 つぎに、消滅時効の完成も否定しました。原告が訴訟を起こすまでにはさまざまな困難があったので、時効の起算点は2005年5月1日となる。被告企業が消滅時効完成を主張するのは、信義誠実の原則に反し、権利濫用であるとしています。さらに、「別会社」論による免責も否定しました。新旧会社は実質において同一であり、会社経理応急措置法、企業再建整備法などの法をもって別会社とし、その免責を図ることは、韓国の公序良俗に反するというのです。

 また、日本の司法判断の既判力も否定しました。日本の司法は韓国強占を合法と見、国家総動員法・徴用令の韓国民への適用を適法と見なす立場で判決を出しているが、このような判断は3.1独立宣言、4.19精神に基づく大韓民国憲法の核心的価値に真っ向から衝突するものであり、その既判力を認めることは大韓民国の公序良俗に反するとしたのです。

 この大法院判決には大きな意義があります。

 それは、1965年の日韓基本条約第2条の「1910年8月22日以前に日韓の間で締結された条約及び協定はすでに無効」の解釈が判決で確定されたわけです。日韓間の玉虫色の解釈を乗りこえ、韓国支配は不法であり、その下での動員も不法行為としたわけです。金昌禄・慶北大学教授は「これにより『1965年体制=植民地責任の棚上げ』はその生命力を失った」、「韓日間の『植民地支配責任』追及は新しい出発点に立った」と評価しています。

先にあげた、2005年民官共同委員会見解(決定)も再解釈されることになります。大法院は、不法な強占の下で日本の国家権力が関与した不法行為に対してはすべて損害賠償請求権が残っているという判断したのですから、強制動員に対する損害賠償請求権も存在するというわけです。この判決を受け、韓国外交通商部も従来の見解を変更する可能性があります。

 この判決により、「慰安婦」、被爆者、サハリン残留者だけでなく、すべての強制動員被害者に対する補償立法の制定が問われるという情勢になったのです。

 

●  今こそ強制労働被害者補償立法を

 全国ネットは2010年の段階で、強制労働問題の司法解決の道は閉ざされたと判断し、強制労働被害者補償立法によって問題の包括的解決を追求していく方針を決め、取り組みをはじめました。

立法化を進める理由は、日本の司法も認定したように強制連行・強制労働の不法行為の事実があること、ILOは1999年以降一貫して、戦時産業強制労働は29号条約違反であり、被害者の早期救済が必要と勧告していること、韓国内の被害調査と犠牲者支援だけでは問題は解決しえないと考えるからです。このような理由で、全国ネットの仲間や研究者、韓国の被害者団体等に提案して、「朝鮮人強制労働被害者補償のための財団設立法(案)」を作成してきました。そして、強制労働被害者補償立法を求める署名運動をおこない、全国で2,274団体、63,959筆の署名をあつめました。

今後の行動計画案では次のようなことを考えています。

立法要請署名に続き、強制労働被害者補償立法を求める日韓1000人アピール運動を進める。秋の臨時国会冒頭までに、1000人の賛同を集め、日本社会にアピールする。国会議員に5.24韓国大法院判決の内容、その意義について伝え、植民地支配責任を果たす必要性について理解を広げていく。弁護士、研究者、自治体関係者、被害者支援団体等を結集し、立法化促進の運動母体をつくる。国会、日弁連、経団連、政府等に立法化を求める申入れや集会を開催する。日韓議連をはじめ、日韓の国・地方レベルの議員の間でつくられているさまざまな議連に対し、立法化を要請していく。メディア対策を強める。

このようなことを計画しています。日本の政治状況は立法をすすめるような状況にはありませんが、韓国での大法院判決や被害者救済にむけての財団設立の動きをみるならば、日本の側でその救済にむけての立法をなすべき状況にあるわけです。

2001年のダーバン会議(反人種主義・差別撤廃世界会議)では、「植民地主義が人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容」をもたらしたとし、「植民地主義が起きたところはどこであれ、いつであれ、非難され、その再発は防止されねばならないことを確認」しています。つまり、植民地主義の克服、その再発の防止と清算は世界の課題であるわけです。

東アジアで日本の植民地責任を問い、その清算をすすめることは、真の和解と平和にむけての歩みにとって欠くことのできないものです。最近では日韓、日中の領土問題によって、ナショナリズムが煽られています。全国ネットでは「独島(竹島)問題に関する全国ネット声明」をだして「今問われているのは、切り捨てられてきた植民地支配の清算問題を正面から外交的に解決することだ。その中でしか竹島領有権問題を根本的に解決することはできない」と呼びかけています。冷静に植民地主義の下での領有の歴史的な経過を考察し、対立を煽る者たちの本質を見極め、東アジアの共同性の確立に向けて、過去の清算をふまえての行動をすすめるべきと考えます。

浜松のみなさんの、「朝鮮人強制労働被害者補償のための財団設立法」実現にむけてのご協力を呼びかけて、話を終わります。発言する機会をくださり、ありがとうございました。

 

資料1

独島(竹島)問題に関する全国ネット声明

 8月24日衆議院本会議で韓国の李明博大統領の竹島(韓国では独島)上陸と、香港の活動家の尖閣諸島上陸に対する抗議決議が採択された。29日には参議院本会議でも同様の決議を採択。竹島問題では、韓国側が引いた経済水域(いわゆる「李承晩ライン」)に抗議した1953年の「日韓問題解決促進決議」以来、59年ぶりである。
 決議は「(竹島は)わが国固有の領土であるのは歴史的にも国際法上も疑いはない」「不法占拠を韓国側が一刻も早く停止することを強く求める」と強調する。そして、外務省は、国際法上の根拠として1905年1月28日の閣議決定及び2月22日の島根県告示による竹島の島根県への編入を「近代国家として竹島を領有する意思を再確認したものであり…有効に実施されたものである」(外務省ホームページ)としている。しかし、当時すでに日露戦争が開始されており、日本は朝鮮に対し、1904年2月23日にはソウルを軍事的に制圧した上で、内乱鎮圧を目的とした日本軍の展開の容認とそのための「必要の地点の臨検収用」を認めさせた(第4条)「日韓議定書」に調印させ、8月21日の「第1次日韓協約」調印後は外国人を外交顧問として送り込み、外交案件について事前に日本政府と協議することを認めさせた。このように、竹島の島根県への編入の閣議決定等は事実上朝鮮が外交権を剥奪された中で強行されたものであり、植民地支配の歴史と密接不可分の問題なのである。カイロ宣言は「日本国は又暴力及貪欲に依り日本国の略取したる他の一切の地域より駆逐されるべし」としている。1905年の島根県への一方的編入こそ「略取」以外のなにものでもなく、日本政府がポツダム宣言と同時に受諾したカイロ宣言に従えば、このような主張は無効と言うべきだ。
 戦後補償を拒否し続けている日本政府が、閣議決定等をもって竹島の領有権を主張する姿に未だに植民地支配の反省をしない日本政府の姿を見て、韓国の人々が怒りを感じるのは当然のことである。
 一方、15年に及んだ日韓国交正常化交渉(日韓会談)で日本政府は一貫して「植民地支配は合法」と主張した。結局、日韓両政府は竹島問題を含む植民地支配の清算を棚上げし、被害者を切り捨て、日米韓の軍事同盟を最優先させて1965年に日韓条約・請求権協定を締結し、「経済協力」の名の下に独占資本に莫大な利益を供与してきた。そして、両国政府は自国民に向けて竹島を「固有の領土」と宣伝し、民族排外主義をあおり、政権維持、アジアの緊張激化、軍事力強化に利用してきた。李明博大統領の独島訪問は、大統領選を11月に控え、レームダック化している政権維持を狙ったパフォーマンスでしかない。領土問題をめぐる対立激化は戦後補償問題の解決にも深刻な影響を及ぼしている。韓国・朝鮮・台湾の元BC級戦犯者の補償立法は今国会に上程さえできなかった。マスコミを巻き込んだ挑発合戦は即刻中止すべきだ。
 しかし、このようにエスカレートするに至った原因は日本政府にある。韓国では2005年に日韓会談文書が全面公開され、日韓請求権協定で未解決となっている問題の見直しを進めてきた。昨年8月30日、韓国の憲法裁判所は、「慰安婦問題、被爆者問題は日韓請求権協定で解決していないと政府が公式に表明したにも関わらず、日韓請求権協定に基づく交渉や仲裁による解決に踏み出さないのは韓国の憲法違反である」と勧告した。その勧告に基づき、昨年末の日韓首脳会談では歴代大統領としては初めて、李明博大統領が野田首相に慰安婦問題の解決を申入れ、韓国政府としても正式に日韓請求権協定に基づく再交渉を日本政府に申入れたが、現在まで日本政府は無視し続けている。協定に基づく外交的解決にも応じない不誠実な日本政府に対する韓国民の怒りのマグマが、領土問題という形で噴出したのだ。
 今問われているのは、切り捨てられてきた植民地支配の清算問題を正面から外交的に解決することだ。その中でしか竹島領有権問題を根本的に解決することはできない。
         2012年9月4日 強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク

 

資料2

朝鮮人強制労働被害者補償のための財団設立に関する法律(案)

(注:2010.9.9 強制連行全国ネットワーク事務局作成・試案)

 (目的)

第1条 この法律は、戦時中朝鮮半島より労働力として日本国内等に移入され、劣悪な環境の下で使役された朝鮮人元労働者が、現在もなおその被害回復を求めている特別の事情等にかんがみ、及び強制労働禁止条約並びに国際人権法の今日的発展を踏まえて、その被った肉体的・精神的苦痛を慰藉する補償金を支給する等の事業を実施するための一般公益財団を設立すること、並びに以ってわが国と大韓民国との間の友好及び信頼関係を深めるとともにわが国の国際社会における地位を高めていくことを目的とする。

(定義)

第2条 この法律において「朝鮮人強制労働被害者」とは、日本政府が国家総動員法に基づき策定・実行した「労務(国民)動員計画」及び国の関与により日本国内等に移入され、日本企業・事業所で使役された朝鮮人労働者をいう。

 2 この法律において「労務(国民)動員計画」とは、1939年度から1945年度までの間、企画院(のちの軍需省)により立案され、日本内地、樺太、南洋群島などの企業・事業所に計画的・集団的に朝鮮人の労務動員を行った計画をいう。

 3 この法律において「国の関与」とは、労務(国民)動員計画以外で国家総動員法を根拠法として行われた労働動員の計画、例えば女性労務動員を行った女子勤労挺身隊令などをいう。

 (財団の設立及び事務所)

第3条 朝鮮人強制労働被害者に対する補償金を支給する等の事業を行うため、公法上の権利能力のある一般公益財団を設立する。財団の名称は「朝鮮人強制労働被害補償財団」(「強制労働補償財団」と略称する)とする。

 2 この財団の事務所を、東京都内に置く。

 (財団の目的)

第4条 財団の目的は、強制労働により肉体的・精神的苦痛を被った元朝鮮人労働者及びその遺族に対する慰藉を行なうとともに、戦時下で行われた労務動員とそれによる被害の実態をつまびらかにし、かつそれを後世に伝えることによって未来に過ち無きことを期すことにある。

 (財団の事業)
第5条 財団は次の事業を行なう。

  (1)強制労働被害当事者及びその財産継承者たる遺族に対する補償金の支給

  (2)いまだに判明していない戦時労務動員及びその被害の実態に関する調査

  (3)強制労働被害者が被った被害、労苦について日本及び韓国国民の理解を深め、及びその植民地支配並びに戦争被害としての体験の次代の国民への周知・継承を図るための事業

 (財団の発起人)

第6条 財団の発起人は、政府及び戦時中に政府が策定した「労務(国民)動員計画」及び国の関与に基づき自己の事業所内に朝鮮人労働者を移入し、使役した企業(以下、「企業」という)とする。

 (財団の財産)

第7条 財団は次の財産で構成される。

  (1)財団の設立に際し、政府が出資する金額(○○○億円)
  (2)財団設立発起に参加した企業が出資する金額(○○○億円)
  (3)財団は、第三者からの寄附を受けることができる。財団は、さらにその他の寄附を得るよう努める。この寄附は、相続税及び贈与税を免除される
 2 政府の出資する金額と企業が出資する金額の比率は1対1とする。
 3 なお、財団は必要あるときは、内閣総理大臣の認可を受けて、政府、企業に出資金の増額を求めることができる。
 4 財団財産による収益及びその他の収入は、財団の目的にのみ使用されなければならない。

 (財団の機関)
第8条 財団には、次の機関を置く。

(1)評議員会 (2)財団理事会 (3)監事 (4)会計監査人

 (評議員会)

第9条 評議員会は、次の○○名の評議員で構成する。

  (1)内閣総理大臣が指名する評議員長

  (2)財団に出資する企業が指名する4名の評議員

  (3)国会(衆議院・参議院)が指名する各1名の評議員

  (4)内閣府・厚生労働省・財務省の代表各1名

  (5)韓国の強制労働被害者が指名する○名の評議員

  (6)大韓民国政府の代表1名

 2 評議員会は、財団の事業計画、予算・決算等について決定するとともに、財団理事会の活動を監督する。

    3 評議員の任期は2年とし、再任を妨げられない。また、任期切れ前に退任するときは、残りの任期につき後任者を指名することができる。

    4 評議員会は、評議員の過半数が出席したとき議決することができる。評議員会は決議を単純過半数で行い、可否同数の場合は評議員長の票により決定する。

    5 評議員会の評議員は無給とする。ただし、必要な経費は補償される。

 (財団理事会)

第10条 財団理事会は、1名の理事長と○名の理事の理事で構成される。財団理事会の理事は評議員会が指名し、評議員は同時に理事会に属することはできない。

2 財団理事会は、日常業務を執行し、評議員会の決定事項を実行に移す。理事会は業務を執行するための事務局等を置き、そのための要員を雇用することができる。

3 理事会は、事務の執行、機関の運営等のため必要な規則を定めることができる。

 (財団監事)

第11条 財団に2名の監事の監事を置くこととし、評議員会で選任する。

 2 監事は次に掲げる業務を行なう。

  (1)財産及び会計を監査すること

  (2)理事の業務執行状況を監査すること

  (3)財産、会計及び業務の執行について不整の事実を発見したときは、これを理事会及び評議員会又は内閣総理大臣に報告すること

 (会計監査人)

第12条 財団に会計検査人を置くこととし、評議員会で選任する。

 2 会計検査人は財団の会計帳簿及び附属明細書を監査し監査報告書を作成する。

 3 会計検査人は職務を行なうに際して理事の職務執行における不正又は法令若しくは定款に違反する事実を発見したときは監事に報告しなければならない。

 (監督、予算、会計監査)

第13条 財団は、内閣府・厚生労働省・財務省の法的監査を受ける。

 2 財団は、毎事業年の開始前に予算を編成しなければならず、予算は財務省の承認を受けなければならない。

 3 財団は、会計検査院の検査を受ける。

 (財団の事業実施期間)

第14条 第4条に規定する財団の事業のうち(1)の事業は、この法律の施行された日から平成○○年3月31日までの間に実施する。

2 前項の期間内に(1)の事業の請求をしなかった者は、その権利を喪失する。

       3 前条事業の(2)及び(3)の実施期間については、別に定める。

 (補償金受給権者)

第15条 次のいずれかに該当する者は、この法律による補償金を受給する権利を有する。

  (1)朝鮮人強制労働被害者本人

  (2)死亡した強制労働被害者の遺族であって、配偶者、子、父母、孫及び兄弟姉妹並びにこれらの者以外の三親等内の親族

 2 補償金受給権は譲渡することも差し押さえることもできない。

 (補償金受給権の審査)

第16条 補償金の支給を受ける権利の審査は、これを受けようとする者の請求に基づいて、財団理事会が行なう。

2 理事会は受給権審査の事務を行うために、第18条に規定する調査委員会を設置する。

 (不服申立手続)

第17条 審査の結果受給権を認められなかった者で、その認定に不服のある者が不服申立を行うことができるよう、財団理事会は不服申立受理機関を設置しなければならない。

2 不服申立受理機関は、申立てを受理したときは、調査委員会に再審査を命ずるものとする。

 3 不服申立受理機関は○名の委員で構成し、委員は理事会から独立し、その指示を受けない。

 (調査委員会の設置)

第18条 財団理事会は第5条に規定する(2)の事業を実施するとともに、第14条の補償金受給権の審査、認定事務を行うため調査委員会を設置する。

2 調査委員会は、前項に規定する事務・事業を行うために、日本政府及び関係企業並びに地方公共団体など関係団体に対し戦時労務動員計画等に基づく朝鮮人労働者移入に係る資料の提供を求めることができる権限を有し、政府・企業・関係団体はそれに可能な限り応える義務を負う。

3 調査委員会は、受給権認定事務を行うに当たって、韓国政府及び関係機関との連携を密にするものとする。

4 調査委員会は、学識経験のある者及び関係行政機関の職員で構成する。

 (補償金の支給手続)

第19条 補償金の支給を受けようとする者は、所定の請求書に、要求される証明書類を添えて提出しなければならない。

 2 財団理事会は請求書及び証明書類を審査し、受給権が認められる者に対して、補償金を支給する。なお、理事会は請求書及び証明書類の受理、審査事務並びに支給事務の一部又は全部を韓国政府又は関係機関(非政府機関を含む)に委任することができる。

 (財団の解散)

第20条 財団は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第202条1項打1号から第3号までの規定によるほか、理事会及び評議員会において4分の3以上の議決を経、かつ内閣総理大臣の認可を受けて解散することができる。

 (附則)

第1条 この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

     第2条 この法律の施行に当たって、必要な事項は別途政令で定める。

(理由)

 戦時中に労務動員によって日本国内企業の事業所に移入され、強制的な労働を強いられた被害者が戦後65年を経た今もなお、被った肉体的・精神的苦痛の被害回復を訴え続けているという事情にかんがみ、日本政府及び関係企業がその歴史的責任を自覚し人道的精神に則った措置を講ずることが必要であるため。

 

資料3

各 位                              2012年8月

「朝鮮人強制労働被害者補償立法実現を求めるアピール」への賛同について(お願い

 

                     強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク

                      

 強制連行問題の解決、戦後補償実現の運動へのご支援・ご協力に感謝いたします。

 私たち、強制連行全国ネットは昨年より、強制労働問題の解決に向けて被害者補償立法の実現をめざし運動を進めてまいりました。その第一歩として、内閣総理大臣宛の署名運動に取り組み、2,274団体、63,959筆の署名を内閣府に提出しました。そして、第二ステップとして、強制労働被害者補償立法の必要性について、日本政府、国会議員、多くの国民に認識していただくために標記の「アピール」(別添)運動を日韓両国を結んで取り組むことといたしました。日本、韓国社会に影響力を有する方々の連名でアピールを発していただき、立法化の機運を高めていくことがこのアピール運動の目的です。当初、8月10日を目ざして運動を進めましたが、昨今の独島=竹島問題等をめぐる日韓間の緊張の高まりなどを踏まえ、この運動を継続することといたしました。

李明博大統領の独島=竹島上陸(8月10日)、天皇謝罪要求発言(8月14日)に対し、日本国内で反発が高まっています。政府は領土問題の国際司法裁判所(ICJ)提訴を打ち出し、国会は抗議決議を採択しました。しかし、このような対応で問題が解決することはありません。「韓国国民と親密な友誼を結んでいくこと」(8月24日、国会決議)もできません。李大統領の行動の背景には、日韓間の「歴史問題」があるからです。李大統領は、昨年8月30日の憲法裁判所決定以降、日本政府に対し繰り返し日本軍「慰安婦」問題の解決を求めてきました。韓国大法院は、5月24日、三菱重工・新日鉄が戦時中に行った強制連行・強制労働を不法行為と認定し、被害者には今も加害企業に対する損害賠償請求権が残っているとの判決を出しました。しかし、これに対し日本政府、企業は何ら誠意ある対応をしていません。日本の朝鮮植民地支配責任はいまだに清算されないままなのです。これを放置したまま、日韓の間に信頼と友好を回復することはできず、真の未来志向の関係を構築することもできません。

今こそ、日本政府は「慰安婦」問題解決を決断すべきであり、同時に、強制労働被害者補償のための立法を図るべきなのです。そうすることによってのみ、平和・連帯の日韓−東アジアをつくっていくことができると確信しています。多くの皆さまの「アピール」運動へのご協力をお願い申し上げます。なお、この運動は以下のようなスケジュールで進めていくことを予定しています。

【アピール運動の展開】

 6月中旬  強制労働被害者補償立法実現を求めるアピールの呼びかけ人確定−運動開始

 9月中旬  賛同者 第3次集約      10月中旬  賛同者 最終集約

 10月下旬  強制労働被害者補償立法実現を求める日韓アピール 日本・韓国で同時発表

 ご賛同いただける場合は、別紙「賛同書」にて、10月14日までにご回答をお願いいたします。                   (連絡先:事務局fax:03-3234-1006)

 

 

「朝鮮人強制労働被害者補償立法実現を求めるアピール」

賛     同     書

 

お 名 前

 

所属・肩書き等

 

ご 住 所

 

連絡先(メール等)

(mail)                            (fax)

 

ご賛同いただいた場合は、必ず公表いたします。公表する日時は、2012年10月下旬。公表の時間、場所等については別途ご案内いたします。賛同書は、事務局あてにファクス03-3234-1006でご送付ください。