戦争法制定の問題点と反対運動の現状・課題

 

今日919日の未明、2時半ころに戦争法案(安保法案)は参議院の本会議で可決されました。しかし、この戦争法は違憲であり、非民主的な強行採決によるものです。その廃止にむけての闘いが、いまから、ここからはじまるとすべきでしょう。

ここでは、この戦争法制定をめぐる動きをまとめます。これからの活動に向けての認識を共にできればと思います。

 

  グローバル戦争 

さて、はじめにみておきたいことはグローバル戦争の性格です。戦争法案はこのグローバル戦争に日本が積極的に参戦するためのものですから、現在の戦争の特徴をみておくことが必要です。

1980年代になって、グローバル資本主義は新自由主義の政策をすすめ、金融と労働部門などで「規制緩和」をすすめてきました。それにより、プルトノミーとプレカリアートの形成、あるは「1%と99%」と呼ばれるような階級の形成、貧富の格差が形成されてきました。この格差が各地での紛争の根にあり、アメリカは対テロ戦争の名で、グローバルな軍事展開をすすめ、各地で戦争を煽ってきました。

この戦争の特質は、1に宇宙の軍事化です。宇宙の軍事利用をすすめ、地球(グローブ)全体を支配して戦争を遂行するのです。かつては、海の支配から、空の支配へとすすんだわけですが、今では、宇宙の支配です。宇宙空間の軍事利用をすすめるわけです。第2に、このグローバルな支配によっての、予防先制攻撃とミサイル防衛がすすめられています。第3に、平時の戦時化がすすみます。「切れ目のない」(シームレス)状態になるわけです。

「テロ」対策を口実に、全情報を管理する動きがすすめられ、宇宙衛星を利用し、ロボット兵器を使っての攻撃が日常的におこなわれています。倫理の解体がすすみます。空自浜松基地のAWACSPAC3は、このような戦争のための装置となっています。

 

  2015年・改定新ガイドライン

 

 このようなグローバル戦争に向けての日米の軍事対応を、よりいっそう強化するための臨戦指針が2015年の改定新ガイドラインです。日米の共同の軍事行動の展開に向けて、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)が再改定され、そこでは、平時から有事まで日本の平和と安全を切れ目なく確保する、アジア太平洋地域とこれを越えた地域の安定に寄与する、平時にも活用できる同盟調整メカニズムを設置するとされています。

ここに示されているように、平時と戦時を切れ目なくつなぎ、全世界に軍事展開し、同盟軍として共同・調整するというのです。この改定新ガイドラインの項目を見れば、何がねらわれているのかわかります。

説明上、番号をふってみますが、@ 平時、グレーゾン事態の協力(情報収集、警戒監視、偵察、弾道ミサイルへの対処、警戒監視や演習を通じた日米のプレゼンス強化、互いの装備品を防護、2国間・多国間で訓練・演習、補給や整備・輸送など互いに後方支援)。A 放置すれば日本に重要な影響を及ぼす事態における協力(非戦闘員の退避・船舶検査など、日本に難民が流入する場合の対応、捜索、救難)。B 日本有事における協力(空域・海域を共同防衛、弾道ミサイル攻撃に共同対処、島嶼部含む陸上攻撃に共同対処)。C 警戒監視・宇宙サイバー・特殊部隊・NBCなど(日米それぞれが警戒、監視体制を強化し、情報を共有、打撃力は米軍が実施、自衛隊は必要に応じ支援、両国の緊密な調整によって作戦を実施、宇宙・サイバー防衛で協力、特殊部隊による作戦で協力、化学・生物・放射線・核に関連した事案や攻撃に対して協力)。D 日本以外の国に対する武力攻撃への対応(日本が集団的自衛権を行使、日本への弾道ミサイル攻撃を警戒する両国の艦船を互いに防護、機雷掃海を含めシーレーン防衛で協力、船舶検査で協力、弾道ミサイルの迎撃で協力、互いに後方支援を提供)E 国際的な活動における協力(国連平和維持活動に参加した際に日米で協力、活動に参加する国連職員などの後方支援や保護で協力、国際的な人道支援・災害支援で協力、海洋安全保障・海賊対処や機雷掃海で協力、国際的な活動に参加した際に情報収集や装備品の防護で協力、日米相互に後方支援で協力)。

ここにあげられている事柄が、今回の戦争法の平和安全法制(10法の改定案)、国際平和支援法の形でだされてきたわけです。

さらに、改定新ガイドラインでは、多国間協力、宇宙に関する協力、サイバー空間に関する協力、防衛装備・技術の協力、情報協力・情報保全などがあげられています。

それにより、宇宙空間の安定利用に影響を与える事象について情報を共有、宇宙関連の装備や技術で協力、サイバー空間の安定利用のために脅威や脆弱性に関する情報を共有、訓練など能力向上に関する情報を共有、自衛隊と米軍の活動に欠かせない重要インフラやサービスの防護で協力、日米それぞれネットワークとシステムを監視、共同研究や開発・生産などで協力、共通使用の装備品の整備機関の強化、秘密情報の保護を強化、他のパートナー国との情報共有を推進することなどが決められているわけです。

 秘密保護法、マイナンバー法、武器輸出促進、宇宙基本法などは、このような軍事化の路線に乗ってすすめられてきたわけです。

 

  戦争法案(安保法案)

 

戦争法案安保法案)はこの改定新ガイドラインの具体化です。

10の法改定案をまとめて、平和安全法制整備法案とし、新法案が国際平和支援法案です。10の法案は、安全保障・武力攻撃事態法改正案、重要影響事態法案(周辺事態法を改正)、PKO協力法改正案、自衛隊法改正案、船舶検査法改正案、米軍等行動円滑化法案(米軍行動円滑化法を改正)、海上輸送規制法改正案、捕虜取扱法改正案、特定公共施設利用法改正案、国家安全保障会議(NSC)設置法改正案などです。国際平和支援法案は、恒久派兵をめざす法案です。

そこには、存立危機事態、重要影響事態などの用語があり、解釈改憲をする政府の恣意的な判断で、いつでもどこでも戦争ができるようになるというわけですから、反対論が広範に形成されてきました。

安全保障関連法案に反対する学者の会が簡潔にまとめているように、この法案は、@ 日本が攻撃を受けていなくても他国が攻撃を受けて、政府が「存立危機事態」と判断すれば武力行使を可能にする、A 米軍等が行う戦争に、世界のどこへでも日本の自衛隊が出て行き、戦闘現場近くで「協力支援活動」をおこなう、B 米軍等の「武器等防護」という理由で、平時から同盟軍として自衛隊が活動し、任務遂行のための武器使用を認めるというものです。

平和安全、国際平和協力などと命名していますが、戦争法であることは明らかです。政府の側が、「戦争法案はレッテル張り」と声高に反論したのは、それが至当であることを示すものです。

より具体的には、防衛庁の官僚だった柳澤協二がこの法案を、自衛隊の海外派兵、武器使用、米軍への物品提供、罰則の4点にまとめて、反論しています。専守防衛の立場にあり、海外派兵されても生きて帰還させることを望んできた防衛官僚からみても、今回の法案は自衛官のいのちを奪うことになるものであり、反対を明言するようになりました。

とくに平時での米艦船の防護、現場判断での武器使用、戦闘現場以外での弾薬提供、多国籍軍への参加・支援、PKOでの駆けつけ警護、防衛出動時の罰則の国外適用などの点での問題を指摘しています。

自衛官が海外で武器を使用して相手を殺傷しても公務員による殺傷となり、軍による殺傷とみなされない、捕虜になっても軍人としてみなされないという指摘もあります。このことは戦争法の制定後、国軍化をめざす動きにつながりかねません。

平時と有事を切れ目なくつなぎ、地球規模で米軍を支援し、集団的自衛権をも行使するということは、自衛隊の幹部や隊員につよい抵抗感を持たせるものです。同盟調整メカニズムによる「軍・軍間での同盟調整所」の存在を示す文書が、反対運動の側にリークされたことに、自衛隊の内部での批判的な動きが示されているといえるでしょう。反対運動の存在がそのような反対の声をいっそう強めることになります。

グローバル戦争とその戦争への対応力の強化は、朝鮮半島では、20156月に、韓国軍と米軍との新たな「作戦計画5015」の作成の形ですすんでいます(ハンギョレ2015.8.28の記事)。これは、朝鮮半島の有事を想定し、北朝鮮による局地的挑発に共同で対応し、大量破壊兵器の脅威にも備えるというものです。既存の「5027」計画よりも迅速・積極的 といいます。

 

  戦争法案反対運動 

 

自民党が憲法を変える動きを強めるなかで、憲法9条を守る運動が形成されてきました。この段階では憲法の平和主義を守るという立場での運動が主流でした。

しかし、20147月に安倍内閣は、閣議決定で集団的自衛権の行使を容認しました。内閣法制局はこれまで集団的自衛権の行使を違憲としてきたのですが、その長官を変え、内閣の解釈によってその行使を容認するという手口は、立憲主義を無視するものです。これまで改憲論を語ってきた憲法学者のなかから、反安倍の声が出るようになります。それが、2015年に入って、与党側が立てた参考人が安保法案を違憲とする発言につながります。解釈改憲によるクーデターという認識が共有されるようになりました。

安倍は訪米中に20158月までに安保法を制定すると宣言しました。それは、国会・主権者を無視するものでした。また、10の法案をまとめて平和安全法制整備法案とし、60日ルールの利用を想定し、衆議院での強行採決をおこなっていきます。議会での質問に対し、政府側はまともに答弁できません。言葉が軽く無内容であり、説得性がありません。知性なしとみられるようになりました。そして、安倍政権の強権性、暴走があらわになりました。

このようななかで、改定新ガイドラインにある同盟調整メカニズムの下で、軍・軍間の調整所がすでに設置され、共同作戦計画もすすめられていることが明らかにされたわけです。 

戦後70年談話問題では、諮問会議の報告書は帝国主義による侵略や植民地支配を認めるものでした。しかし、侵略と植民地支配を否定し、過去の戦争を肯定するという日本会議の影響のもとにある安倍政権は、みずからの侵略と植民地支配を認めることができず、他人事のように表現しました。天皇アキヒトの言葉の方が、反省の意があり、まともに見えるわけですから、ますます信用を失うことになりました。

改憲論の学者も戦争法案を違憲と規定し、元首相、元内閣法制局長官、元最高裁長官なども反対の意思表示をおこなうようになりました。学生、高校生、学者、女性、市民などが反対運動に立ち上がりました。揺れていた民主党などの野党も断固反対の姿勢を示すようになります。総がかり行動の蓄積のなか、国会前を軸に、地域での運動が形成されました。830日には、12万人という国会包囲がなされました。全国で抗議行動がおこなわれ、100万人を超える人々が参加したといいます。

戦争法案反対運動は、新たな反安保闘争の様相を呈してきました。昨日の18日夜に国会前に行きましたが、今すぐ廃案!の声が響き、制定されても反対し続けるとする発言が続き、熱気にあふれていました。

参議院の特別委員会での採決がすすまない中、与党側は、委員長席の防衛隊をつくり、採決の強行を策しました。野党の抗議と騒然とした中での採決は、非民主的であり、参議院の規則にも反するものでした。この国の議会の民主主義の破壊が世界に流されました。法案の内容が違憲であり、見ているものに判断できないような、また議事さえ取れない委員会の採決は、瑕疵があり、無効です。

 今回の戦争法は、「平和」のレッテルを使って戦争をおこなうという、ウソ・偽りによってすすめられました。その制定は、平和主義、立憲主義、民主主義を破壊しながらすすめられました。また、法案は違憲であり、非民主的な採決によって制定されました。戦争は国内の民衆への弾圧からはじまります。その意味で、この法の制定は、日本民衆に対する政府による戦争宣言です。このような戦争法の発動の阻止し、それを廃止する動きを、地域から小さな力を重ねながら作っていくことが課題です。法律が施行される6か月後に向けての活動が重要でしょう。

 浜松駅前でも、浜松の総がかり行動の呼びかけで、914日から18日と連日の行動が取り組まれました。150100100350200人とのべ900人ほどが参加しました。足りない面はあるものの、市民参加の枠組みをつくることができたことは事実です。今後の課題をあげれば、幅広い市民の参集の場を設定すること、そのためにどのような表現が必要なのかを考えること、個人としての発言を重視すること、主旨をふまえ、多様な表現を認めるという寛容性をもつこと、視野を広くし、自らの政派・団体だけの表現に終わらず、他の団体・個人等に配慮して表現することなどをあげることができるのでは、と思います。

           (2015919日夜の浜松集会での問題提起に加筆、T)