べにはこべ

 

 

セミの声が響き渡る 真夏の柿畑

枝葉を広げた柿の木の下は

それでも

時折り 涼風が通り

草を刈る母の背を 日陰がおおう

カゴを背負い 急な坂を何往復もして

ようやく堆肥を運び終えると

秋の準備も一段落

 

ようやく

子どもたちが待ちに待った 恒例の楽しみ 磯遊びだ

隣のおじいさんが 岩場で滑らないようにと

いつも ワラジを新調してくれる

朝から にぎり飯やゆでジャガイモ トウモロコシの弁当を持ち

近所の皆と連れ立って

1時間以上も 浮き浮き歩き ようやく海

岩場には カニやフナムシが走る

潮の引いた水辺の岩に張り付いた沢山の巻き貝を採る

岩の間のウニは ちょっと触ろうものなら

体中の針で力一杯ふん張り

採ろうとしてもビクともしない

瀬だまりの小さな魚たちの 何ときれいなこと

遊び疲れて 岩に腰掛け 足を深く水中に垂らす

冷たい心地良さと一緒に

足をまさぐり 寄せ返す

まるで意思をもっているかのような波に

幼い私は恐怖した

海辺で育ち 波と一体となれる暮らしだったら

楽しい感覚だけですんだことか

 

遥か東の地

あらゆる命を 生活の場を飲み込み 連れ去ったあの海

そして

今も続く 大地の蠢き

地球の隅っこで 大自然のほんの一部として

生かされてきたはずの人間たち

気付いてみれば いつしか尊大に

土に還れぬ物をつくり続けている

自らも やがては土に還ることを

知ってか 知らずか

本当に豊かな行く末は

まだ 間に合うのだろうか

 

米づくり     べにはこべ

 

 

いつの頃からだったろうか

田んぼに植えられた早苗が 青々と育つと

まるで トラ刈りの坊主頭のように

不ぞろいな模様の田んぼが

そこ ここに見られるようになった

子どもの頃から慣れ親しんだのは

苗が見事に真平らにそろって 天を向く田んぼ

代かきも 苗づくりも 昔より技術が劣っているはずもない

どうしてなのかと ずっと思い続けた

 

私の耕作する畑の向かい側

春には 一面にレンゲの咲く田んぼだった

レンゲの種を播かなくなり

花は毎年減り続け そのうち咲かなくなった

次第にヒエが増え ほとんど実らない場所もある

 

農民は高齢化で 農作業は年々きつくなる

そんな農家から 沢山の田んぼを請け負い

片手間で 耕作するのだとか

いつの間にか 田植えが終り

いつの間にか刈り取られている

手塩にかけられることも無く 水の管理もされず

自然のままに放置されているかに見える

基盤整備とやらで広くなった田んぼを

平らにすること自体 難しいことなのだろう

その結果が トラ刈りか

反当り収穫量を競った その昔を思う

でも

芦原となって荒れるよりは まだましか

それにしても 広い田んぼを

動力なしで平らにした農民に 今さらながら感心する

 

こうして 稲作の手法は忘れ去られ

確実に来るだろう食糧危機に

一体 どう備えるのか

平和も投げ捨て どう生き延びようというのだろう