9・24内田聖子講演
「浜松水道民営化 PPP/PFI推進施策とその問題」

 

 2018924日、浜松市内で、内田聖子さんの講演会「浜松水道民営化 PPP/PFI推進施策とその問題」を持った。参加者は50人。以下は内田さんの講演の概要である(文責 人権平和・浜松)。

 

 内田聖子「浜松水道民営化 PPP/PFI推進施策とその問題」

 

 浜松のみなさん、こんにちは、NPOアジア太平洋資料センターの内田聖子です。お集まりくださり、うれしいです。

 ●水の民営化とオルタナティブ

 世界では、グローバリゼーションによる民営化・規制緩和の動きが強められ、1980年代から水の民営化がすすんできました。水道料金が上げられ、支払わなければ、水を止めることも起きました。そのため、「水は命、停止は殺人だ!」と抗議するプラカードにみられるように、民営化NO!の運動が拡がりました。マニラやコチャバンバをはじめ、各地で抵抗運動が生まれました。

水企業としてはフランスのヴェオリアやスエズなどが有名です。ヴェオリアは世界最大のグローバル水道企業です。パリに本社を置き、水事業部門のほかに廃棄物処理事業も展開しています。水道サービス供給人口は13000万人以上、最大の供給国は中国での4300万人です。スエズも同様で、11000万人に供給しています。ほかにもアメリカのGE,ドイツのシーメンスなどがあります。日本でも水ing(スイング)イングやウォーターエージェンシーなど国際的に進出できるような水企業を育てようとする動きがあります。

民営化すれば、すべてうまくいくかのような宣伝はうそです。企業の投資が期待通りにおこなわれなかった、利益追求のために料金が値上げされた、漏水や水質、サービスの低下など失敗があり、民衆が反発しました。世界銀行は債務に苦しむ途上国にお金を貸す際の条件として水の民営化をすすめましたが、水道サービスの拡大のためにおこなったわけではないのです。

この民営化に対するなかで、公営水道をどううまく機能させるのかという問題意識をもって、ブラジルのポルトアレグレ、スペインのコルドバ、インドのケーララ州のようにオルタナティブを模索する動きも生まれました。

20107月、国連が「人権および安全な飲料水と衛生に対する利用権」に関する宣言を採択、201512月には「安全な飲料水と衛生に対する人権」に関する決議をあげています。この決議では、安全な飲料水を得ることが人権であるとし、国家にはそれを保障する責任があることを明記されました。水の権利を求める民衆の闘いがこのような決議につながったのです。

 

●PPP/PFI推進施策の問題

PPPはパブリックとプライベートのパートナーシップの頭文字で、官民連携と訳されています。民間資本を公共サービスに参画させることです。PFIはプライベートなファイナンスのイニシアティブで、民間財力の主導、つまり民間資本による公共事業の運営管理です。PPPのひとつです。水道民営化でのコンセッションはこのPFIによるものです。

国交省の資料にPFIの法的経済的スキームを示す図がありますが、SPC(特別目的会社)、浜松の下水道でいえば、浜松ウォーターシンフォニーですが、金融機関や出資者から資金を得るとしています。イギリスでは出資に際の抵当権が金融商品とされ、売買され、問題になりました。SPCへの出資状況は不明の点が多いでしょう。

PFIではVFMが強調されます。VFMとは総事業費の削減割合です。PFIのデメリットとして、政府でさえ、公共サービスの質の削減、監督・牽制効果が薄まる、住民への不利益、事業進捗や収支での損失、将来世代への過度の負担などをあげています。PFIには問題があるのです。コンセッションなどを推進する側が出す事業費の圧縮の図をよくみれば、運営費と設計費が削減され、提案経費や金利は増加しています。図では、都合よく、魔法のように総事業費が圧縮されます。

民間資本の参入は安倍政権のアベノミクスの柱とされ、20136月、民間投資の成長戦略としてPPP/PFIにより10年間で12兆円の事業の達成を計画しました。2014年にはインフラ老朽化を名目に固定資産台帳・公共施設等総合管理計画の策定を要請し、PPP/PFIの活用を求めました。

2015年には「PPP/PFI優先的検討規定」の策定を自治体に要請しました。PPP/PFI手法の導入を優先し、トータルコストが安いときには外部コンサルタントを起用しなければならないとしたのです。自治体の自主的判断をゆがめるような政策なのです。 2017年、浜松市はこの動きのなかで「民間活力導入に関する基本方針を出し、優先的検討規定を導入しています。

2018年には、政府はPPP/PFI推進アクションプランを出し、公的不動産における官民連携の推進を掲げました。その方針をみると、「新たな投資やビジネス機会の創出」とあります。これが本音で、PPP/PFIの宣伝はインフラ老朽化対策ではなく、新たな投資とビジネス機会の創出であることがはっきりとします。水道民営化の本質もここにあります。

 

●水道民営化・コンセッションの問題

厚労省は水道事業について、人口減による水需要の減少、水道施設の老朽化、職員数の減少などをあげ、給水原価が供給原価を上回るとしています。そして、水道法を改正し、水道の基盤強化と広域化、水道施設の適切な管理をするというのですが、ここに、官民連携の推進、公共施設等の運営権(コンセッション)の導入が入り込んでいます。

コンセッションとは運営権を売却し、民営化する手法です。水道での新たな投資とビジネス機会の創出がねらわれているのです。経営権を持ったうえで包括委託することはあっても、経営権を売却する手法はまだ行われていなかったのですが、20184月から浜松市が下水道ではじめたのです。

麻生太郎は2013年、ワシントンのCSIS(米戦略国際問題研究所)で水道をすべて民営化すると語り、パソナ会長となった竹中平蔵はコンセッション方式を大きな新規のビジネスチャンスとし、成長戦略の柱のひとつとしています。

いったい誰のための施設運営権の設定、コンセッションなのでしょうか。

2018年のPFI法改正では、公共施設などを管理する民間事業者や行政の長が首相に照会し、首相が回答するようにし、首相が助言もできるとしました。森友・加計問題のような動きがPPP/PFIでも起こりかねません。

東京都では下水道の民営化・コンセッションや包括的民間委託の検討を始めました。東京都下水道局の資料には、浜松の西遠浄化センターのコンセッションの経過を示す表があります。静岡県から浜松市への移管が決まると、2011年からコンセッション方式の検討をしたようです。そして2014年にはコンセッション方式を決定したとあります。

浜松市によれば、下水道でのコンセッションは西遠処理区の西遠浄化センター、阿蔵ポンプ場、浜名中継ポンプ場で、下水道管は含まないとあります。20年間、コンセション会社に運営権を委ねるとしています。公募は20165月でした。どれだけの市民が知っていたでしょうか。ヴェオリア・JFEエンジニアリング、オリックス、東急建設、須山建設のグループが選定され、201710月にこのグループが設立した浜松ウォーターシンフォニー株式会社が運営権実施契約を結びました。

20年間で約86億円のコスト縮減効果があると報じられています。これは事業者側の提案ですが、本当でしょうか。下水料金は市が一括して徴収し、利用料金部分を事業者に支払うとしています。今後の料金がどうなるのか、情報は公開されるのか、モニタリングが市にできるのか、いろいろな問題があるでしょう。

イギリスでは、水は完全民営化されましたが、多額の配当金が投資家に、利子が金融機関に支払われていることが問題とされています。責任ある供給者が不在であること、長期契約のため公共の関与が希薄になること、知識や経験のある人材が確保できなくなること、災害時の広域連携が困難であること、事業者の倒産のリスクなど、多くの問題が出ています。

20181月のイギリス会計監査院の報告書をみると、公共と比べPFIの資金調達率は24%高い、長期スパンでは費用がかさむが、短期・中期には負債を圧縮できるので魅力的にみえ、PFIのVFM評価が甘くなる、イギリス財務省はPFIのメリットとして事業リスクの民間移転・長期的ランニングコストの軽減をあげていたが、おおむね実現されず、予見できなかったコストをカバーしたことから、PFIは高くついたと記されています。

 

おわりに

浜松市はホームページで水道のコンセッションについてQ&Aを作成していますが、「運営委託方式(コンセッション)」というように記載しています。「運営委託方式」というのは見慣れない言葉です。正しくは「コンセッション」ですが、それを「運営委託方式」と表記していいのでしょうか。運営権の売却、経営権が公から民に移るという民営化の本質を隠すものです。Q&Aは、コンセッションはいいものだとミスリードさせるためのものでしょう。

浜松市の報告書の概要も示されていますが、本編を読みことも大切でしょう。2011年ころにはコンセッションの導入が計画され、2016年度、政府は上下水道のコンセッション支援事業をおこないましたが、浜松市はそれに応募し、国が全額を補助しました。民間会社への意向調査もおこなわれていますが、地元企業の回答が少ないと思います。

水道では再公営化がすすんでいます。パリ、バルセロナ、アトランタなど、現時点で267の水道事業が再公営化されました。水道だけでなく、ゴミ、エネルギー、交通、教育など公共サービスの再公営化がすすんでいます。それにより事業の透明性も向上しています。

公共性の意味、意義を真剣に考え、民主的に議論するときです。地域の自治、自主的判断をゆがめる制度を導入すべきではありません。PPP/PFI優先的検討規定には問題があります。世界での再公営化の動きをふまえ、地域の議員や行政と議論していきましょう。

政府の支援の下で、市民の知らないところで、官民連携の名による民営化がすすんでいます。外国での再公営化の動きやPFI事業への批判的見解に学び、コンセッションを止めていきましょう。