解放74年、強制動員問題の過去、現在、未来 

強制動員問題の解決のための国際会議、開催

 

●8・14ソウル強制動員問題国際会議

2019814日、ソウルの曹渓寺国際会議場で、「解放74年、強制動員問題の過去、現在、未来」と題して、強制動員問題の解決のための国際会議がもたれた。主催は強制動員問題解決と対日過去清算のための共同行動であり、強制動員被害者2人と遺族1人が体験を語り、15人が報告した。

金正珠(キムジョンジュ)さんはつぎのように語った。富山の不二越に13歳で女子勤労挺身隊員として全羅南道の順天から連行された。朝5時に起床させられ、軍歌を歌い、工場に向かって歩いた。小さな体で箱の上に立って鉄を削る仕事を強いられ、仕事が遅れると叩かれ、給料も支払われなかった。挺身隊のレッテルを貼られ、「慰安婦」とみなされ、家庭は破綻した。解放後も人間扱いされてこなかった。このように話し、最後に金さんは朴槿恵による裁判への介入と安倍晋三のウソを糾弾した。

金ヨンファさんは日本製鉄八幡製鉄所に連行された。金さんは八幡に動員され、力仕事をさせられたが、帰国し、大学を出て、牧師になったことを話した。そして、日本には賠償の義務がある、身体は死んでも、心や思想は死なない、戦争のない国に向かってすすもうと訴えた。

遺族の崔洛(チェナックン)さんは、父の一枚の写真から日本の支援者が貝島大之浦炭鉱に連行された事実をつきとめたこと、その跡地を今年、家族とともに訪問し、父を追悼したことを話し、戦争被害者の人権回復に向けて、共に歩もうと呼びかけた。

会議で報告されたテーマは、大法院判決の意義と日本の動きの批判、日韓請求権協定の問題点、国際法からみた大法院判決、国際連帯運動、女子勤労挺身隊問題、遺骨問題解決の行動、遺骨の奉還運動、沖縄戦での朝鮮人遺骨の発掘計画、韓国の原爆被害者の被害状況、朝鮮学校の無償化裁判、サハリン同胞の現状、仏教界と労働界の取組み、過去清算に向けての共同行動、強制動員問題解決の課題などである。

さまざまな問題提起が以下のようになされた。

○大法院判決は強制動員慰謝料請求権を認めた。請求権協定では個人の賠償請求権は消滅していない。韓国の判決は日本への攻撃ではない。判決を、未解決の問題の解決の機会とすべき。

○日韓両政府とも大法院判決に手をつけることはできない。被告企業は政治的環境、条件が整えば和解、判決を受け入れる意思があるとみられる。企業に判決を受け入れるよう迫るとともに、包括的解決として財団基金構想を具体化する必要がある。

○強制動員人権財団法を制定し、被害者支援財団の改善を図る。強制動員委員会の調査資料を財団に移管できるようにする。ILOなど国際機構にこの問題の広報をすすめる。国際学術会議の開催、強制動員の共同行動などをすすめる。

○日本政府は判決を国際法違反とし、自らを被害者とみなし、韓国を屈服させようとしている。日本政府が植民地支配の不法性を認め、植民地責任をとることが第1である。日本政府は判決を認め、企業と被害者との協議に介入すべきでない。

○強制動員は国際人権法違反である。国際的な人権基準である2005年の国連の被害者権利章典にのっとり、賠償と被害回復がなされ、再発防止がなされるべきだ。被害の回復は金銭だけでなく、真実の公開、不明者の所在把握、名誉回復のための公的宣言、公的謝罪、責任者への制裁、記念と追悼、教育などを含むものである。

○労働組合は強制動員問題を自らの問題ととらえ、強制徴用者像を設置した。日本での丹波のマンガン記念館に続き、韓国の龍山、仁川、済州、蔚山、釜山などに建て、今後は大田や全南地域にも建てる。平壌にもできるだろう。

○強制動員共同行動結成から1年、過去史と強制動員に関する市民の認識を高め、被害者中心の解決をめざす。被害者との連帯が運動の出発点である。

○2018年に遺骨奉還宗教者市民連絡会が結成され、壱岐の遺骨問題に取り組んだ。祐天寺、長生炭鉱、北の遺骨、沖縄本部など各地に遺骨がある。遺骨の返還では、経緯の調査、政府と企業の歴史的責任、遺族の慣習・信念に従うことが大切である。

○これまで沖縄戦の戦場で死亡した朝鮮人遺骨の返還はすくない。2018年12月に韓国政府の行政安全部に遺骸奉還課が設置された。発掘を検討している本部の健堅の朝鮮人軍属の遺骨返還をすすめたい。

○日本の戦没者遺骨収集推進法では、日本人の戦没者に限定している。「韓国人遺骨を韓国に返せ、遺族に返せ」の世論化をすすめる。

○曹渓宗の民族共同体推進本部は、南北和解に取り組むとともに、福岡で現地巡礼をおこない、壱岐や長生での追悼会に参加した。動員犠牲者が故国に返ってくる道を拓きたい。

○韓国被爆2世患友会は貧血、心筋梗塞、慢性病、精神病、さまざまなガンなどの疾病で苦しんできた。被爆者支援特別法が制定されたが、被爆1世のみが支援対象であり、被爆2世・3世は排除された。陝川平和の家に2世の憩いの場ができた。韓・米・日政府は原爆2世に対し、「先に支援、後に究明」の立場で、生存権と生命権を保障すべきだ。

○サハリン韓人は約2万5千人が居住している。1995年からの韓日赤十字による永住帰国事業は新たな家族の離散をもたらすなどの問題を生んだ。韓国政府はサハリンなどの韓人の地域代表の決議に応じ、サハリン同胞支援特別法を制定して、支援すべきである。

○朝鮮女子勤労挺身隊は未成年女性児童に対する人権侵害であった。しかし韓国政府による被害者への支援は少ない。政府による真相究明、歴史教育、勤労挺身隊支援法の制定が必要である。

○同化と排除による朝鮮学校の消滅がすすめられてきた。第2次安倍政権は朝鮮学校の高校無償化に関し、省令を変えて指定を遮断した。幼稚園・保育園での無償化からも除外した。官制ヘイトに支えられた民間ヘイトの動きに対抗し、世界の良心に訴える。

このように強制動員関連の問題の解決に向け、さまざまな問題提起がなされた。日韓請求権協定では、強制動員問題は解決されていないのである。未解決の問題に取り組むことが求められる。

日本政府は韓国の大法院判決を「国際法違反」と宣伝している。植民地支配は合法であり、強制労働はなく、経済協力で請求権問題は解決した。にもかかわらず、企業に賠償を命じたのは請求権協定違反というのである。

しかし、判決では、反人道的不法行為としての強制動員への慰謝料請求権が存在し、企業は支払うべきであるとしたのであり、ありえる解釈である。国際法違反という宣伝は、日本を被害者にすりかえるものである。

問題の解決とは、真相の究明、被害者の尊厳回復、正しく歴史の継承がなされることである。20198月、愛知トリエンナーレでの「平和の少女像」の展示中止という事件は、この問題が解決していないことを示している。

 

●8・15強制動員ソウル市民集会

815日の昼にはソウル市庁前の広場で、解放74年、日帝強制動員問題解決のための市民集会がもたれた。集会は、強制動員問題解決と対日過去清算のための共同行動の呼びかけによるものであり、2000人ほどが参加した。

集会は黙祷ではじまり、主催者側の強制動員問題の解決への取り組みの訴え、日本からの連帯の挨拶がなされた。日本製鉄釜石に連行された李春植さんと三菱重工名古屋に連行された梁錦徳さんも壇上で訴えた。支援団体からの連帯アピールののち、強制動員下の望郷を想起し、アリランが歌われた。

雨は次第に強まり、土砂降りとなった。そのなか、動員被害者と遺影を先頭に日本大使館に向かってデモ行進が行われた。集会プログラムには「強制動員 謝罪賠償」と大きく記され、人々はそれを掲げ、謝罪せよ!記憶しろ!安倍糾弾!正義は勝つ!解決せよ!と喊声をあげた。日本大使館が入るビルの前では立ち止まり、強制動員問題を解決せよ!と抗議した。

朝鮮の植民地支配と強制労働を認知しようとしない安倍政権は、韓国大法院判決を国際法違反とみなし、経済報復をおこない、韓国社会を屈服させる動きをとるようになった。そのような動きは、韓国社会の反発を生み、強制動員問題を主テーマとする市民集会の開催に至った。

 

●8・15ソウル・安倍糾弾汎国民キャンドル文化祭

 

815日の夜には、ソウルの光化門前の広場に数万人が集まり、安倍糾弾市民行動の集会がもたれた。この市民行動は750余の団体で組織されたものである。集会では、巨大なスクリーンに参加者の姿を映しながら、集団ダンス、バンドの演奏、安倍糾弾のスピーチ、日本からの連帯挨拶、三菱の強制動員被害者の訴えなどがなされた。主催者がマイクを会場に向けると数万の参加者がNO!安倍の声をあげた。

最後にはNO!安倍や歴史をテーマにした歌が演奏された。曲とともに、NO!安倍のボードが揺れ、若者が振り付けに合わせて躍る。NO!安倍のプラカードの裏面には韓日軍事協定の破棄と記されている。クレーンから吊るされた数個のスピーカからの音響は抜群だ。老若男女,さまざまな層が結集し、特に青年層が元気だ。闇が深まるとキャンドルに火がともされ、広場を埋める。

集会が終わると光化門からソウル市庁までデモが行われた。安倍NO!経済報復を止めろ!強制動員に謝罪・賠償せよ!朝鮮日報は閉館せよ!わたしたちが勝つ!正義が勝つ!などのコールが続き、歌も流される。日本大使館や朝鮮日報社のビル前では立ち止まり、怒りの喊声をあげた。

ソウル市庁周辺には文在寅政権の成立以後、朴槿恵を擁護するアメリカと韓国の旗を掲げた右派のテントがめだつ。安倍糾弾行動に対抗してデモもする。しかし、その表現は冷戦期の旧態であり、冷戦期の対立構造や植民地主義を克服する方向性はみられない。

それに対し、3・1運動から100年、安倍糾弾市民行動は、強制動員判決を契機に安倍政権が始めた経済報復に対抗する、キャンドル革命を経ての新たな運動である。それは植民地主義を克服し、南北分断を終わらせるという時代の風をつくるものである。安倍政治を終わらせる表現を、この日本でこそ創らなければならない。

帰途、全羅北道の益山に行き、そこから参礼に向かい、東学農民蜂起の記念広場に行った。そこで大地から突き出した鍬を持つ腕を見た。それは民主の地下水脈の存在を示すものだった。益山の駅には平和の少女像があった。その少女像は201512月合意の紙を右足で踏み砕いていた。被害者との合意がなく結ばれ、少女像を撤去するという裏約束がついたものは許されない。
 韓国大法院判決は日韓請求権協定で解決済みの論を打ち砕いた。日韓条約は韓国では戒厳令下で結ばれた。政治が民主化されれば、当然見直されるべきものだ。植民地支配を合法と居直り、大法院判決を国際法違反と非難して自らを被害者のように示してやまない政治を変える時だ。        (T)