「私たちの『表現の不自由展・その後』」

 ーまたも奪われた表現の自由、取り戻すのは市民の力ー

                     

 20198月あいちトリエンナール企画展「表現の不自由展・その後」が、開始後3日めで相次ぐ抗議や脅迫のため中止に追い込まれたことは多くの人の記憶に新しいことだろう。 見に行こうと計画していた私は地団太を踏む思いだった。 ヘイトクライムとも言える攻撃、脅迫行為にこんなに簡単に屈していいのかと、悔しい思いでいっぱいだった。

そして今回やっと見られる!と初日の76日、会場がある名古屋栄に出かけた。 想定通り建物前の歩道で不自由展阻止グループ10数人が並び、そのうちの数人が交代で「反日左翼の展示は中止せよ」「正しい歴史を学べ」などと叫んでいる。 ぷっ!笑ってしまう。 事実に基づいた”正しい”歴史を学ばなければならないのはそちらでしょう。 主催者側の人たちが彼らの対面でスタンディングをしていたので、連帯の意を表して15分ほど一緒に立った。 「ありがとね」と声をかけて行く人がいて、勝手ににわか支援をしていただけなのに久々にいい気持ちになった。  

 会場は1時間50人という入場制限を設けていたが、それほど待たずに入ることができゆっくり鑑賞できたことは幸いだった。 展示作品は3点―彫刻「平和の少女像」、リトグラフ「遠近を抱えて」と作品を燃やすシーンを挿入した動画「遠近を抱えてPartⅡ」、写真「重重―中国に残された朝鮮人日本軍『従軍慰安婦』の女性たち。 それぞれの作品が、見る者に語りかけてくるメッセージは本当に重いものがある。 作品に直接向き合うことで感情が揺さぶられる感覚は、会場に足を運ぶからこそ得られるものであろう。 来てよかった!「平和の少女像」の踵は地についていない。 故郷にもどっても安心して暮らせない状況を表しているという。 像の下に描かれているハルモニの影は一生癒されることのない人生を訴えているのだろうか。 

 「重重」というタイトルが付けられた12人の女性の写真も多くを語りかけてくる。 白水社の辞書によると「重重」は中国語で「困難な状況,不愉快な心境などが幾重にも重なっている」という意味だ。 敗戦後中国に置き去りにされた被害女性たちは私たちの想像を超える「重重」な苦難を味わったことだろう。 写真の中のひとり一人に時間をかけてじっくり向き合ってみた。 起きたことをなかったことにしてはならない、私たちはこのおぞましい歴史的事実を語り継がねばと身が引き締まる思いがした。 

 「遠近を抱えて」については動画も含めて、反対派は天皇を侮辱している、不敬に当たるなど猛反発しているようだが、過剰反応としか思えない。 好き嫌いは別として作品を燃やす動画も表現方法の一つであろう。 余談だが路上芸術家として知られるイギリスのバンクシーはエリザベス女王をモデルにいくつもの作品を描いているが、なんとチンパーンジ―の顔をした肖像画もある。 それに対して批判の声が上がったとは聞いたことがない。 

  

 展示を見終わって気持ちよく浜松に帰って来たのだが、78日にまたもや展示が中止されたという報道を聞き、全身の力が抜けてしまった。 会場になにやら爆竹が入った郵便物が送られてきて破裂音がしたというのだ。 名古屋市は安全上の理由で施設利用を中断。 2年前と同じことが起きてしまった。 主催者の市民団体はただちに抗議声明をWeb上に掲載し、再開を求めたが残念ながらたった2日間の開催で終わってしまった。 ただ2日間で入場制限を超える827人の来場があり、初日はメディア関係者の姿も相当数見られ、多くの人たちが高い関心を寄せたことは間違いない。

 東京での開催は未だに会場提供がなく宙に浮いたままだが、うれしいことに大阪は16日から不自由展を開催している。 6月末には抗議が相次いだことを理由に予定していた会場の予約を取り消されたが、実行委員会はただちに大阪地裁に予約取り消しの無効を申し立て認められた。 施設側は恥ずかしげもなくこれを不服として大阪高裁に即時抗告。 高裁は抗告を退け会場利用が認められたという経緯があり、久しぶりに司法がスカッとした判断を下してくれた。 開催は18日までとたった3日間であるが無事に終了してくれることを切に願う。 理不尽な脅しに屈しなかった大阪の実行委員会のメンバー、不本意ながら中止に追い込まれたが、多くの困難と闘いながら開催を実現した愛知実行委員の皆さん、東京でまた全国で闘い続けている市民の皆さんに敬意を表しながら拙文を閉じることとする。 

 

なお不自由展についてもう少し詳しく知りたい人は下記のURLを参考にしていただきたい。
 https://www.outermosterm.com/freedom-of-expression-re-exhibition2021/         (EA)