2・14,15袴田再審・第8・9回公判

2024年2月14日、15日と静岡地裁で袴田事件再審第8回・第9回公判がもたれた。傍聴希望者は100人弱、傍聴席48のうち、18は記者席である。記者は交替で入室するが、市民は交替できない。荷物の預けや金属チェックなされ、傍聴人は犯罪者扱いである。

2月14日の第8回公判では弁護側が過酷な取り調べによって袴田さんが自白を強要され、それにより証拠がねつ造されたとした。弁護団は5点の衣類をこのようなねつ造の集成とみている。逃走経路として裏木戸を通過したとされるが裏木戸は上の留め金がかかったままだった。これではくぐれないが、検察は通過できるとする。事件後、袴田さんが奪った金を知人に預けたとされるが、郵便局で番号が焼けた警察宛の紙幣が発見された。そこには「イワオ」の文字があった。これも不自然である。ねつ造とみられる。検察は、自白は誘導されずに供述と反論、複数犯説も否定した。

2月15日、検察は1日かけて味噌漬けで1年以上たっても血痕が赤く残る可能性を示そうとした。棒読みの冒頭陳述と内容のない主張がだらだらと続いた。それは撮影光量やみそ発酵での酸素減少などで赤みが残る可能性があるとするだけであり、犯行着衣であると示しえる立証ではなかった。弁護側は、赤みは残らない、赤みが残る可能性を示すだけでは反証にならないと指摘した。

検察は7人の御用学者を使って共同鑑定書を出したが、それは実験もなく会議のみで作成されたものである。当日の検察側の議論の展開は、最高裁が示す基準を捻じ曲げての展開であり、検察側の議論の行き詰まりを感じた。検察は実験で示した写真も、赤みが残ると言いながら黒く変色したものであった。黒いものを赤みがかかっていると語る検察の議論はごまかしであり、無残だった。

今後は、証人尋問が3月25,26,27日、その後4月17日、24日と続き、5月22日に結審となる。検察の反証では可能性が示されるが、それだけでは証拠とはなり得ない。自白調書は使えず、5点の衣類も証拠にならない。検察は立証ができない。立証できないのに議論が続いている。

裁判官の訴訟指揮と過剰な警備に問題がある。もう裁判自体を打ち切り、判決とすべきである。無罪判決あるのみ。(t)

 

はじめての再審傍聴記(2・14第8回再審公判報告)

 

2024年2月14日の第8回再審公判で、クジ運の悪いわたしがなんと傍聴券を引き当てた。ところが、裁判所に入ってみると噂に違わぬ物々しさだ。「壁に沿って一列に並べ!」など、まるで囚人扱い。ペンと紙以外の荷物はケータイも含めて全て取り上げるという異常さである。過日の傍聴席拡大要請行動の時もこのことは問題になった。

再審公判では、傍聴席48のうち記者席が22振り当てられている。一般傍聴席は26しかない。初日は300人ほどの人が詰めかけたので、傍聴出来たのは極々ひと握りの人だった。これでは市民の傍聴権が保証されているとは言い難いというわけで、事務局では折に触れて傍聴席拡大の要請をしているが、一向に改まる様子はない。かてて加えて、クジに外れた者は「周辺の施設及びほかの来庁者の安全のため」速やかに帰宅せよという張り紙すら出される始末。袴田さんの支援者を危険人物視しているとしか思われない。こうした裁判所の姿勢が、傍聴人の扱いにも反映している。「静岡地裁の全ての法廷でこういう扱いをしているのではなかろう。或る法廷ではそうする他の法廷ではしないというその扱いの違いはどんな法律や規則を根拠としているのか答えよ!」とその時も迫ったが言葉を縦横にして答えない。まさにいまも変わらぬ「天皇の司法」ぶりである。

再審裁判の眼目は、犯行着衣とされている5点の衣類が捏造されたものであることを証明することにある。この日はその前段階として、①侵入経路の捏造 ②侵入脱出口・再侵入再脱出口(=裏木戸)関連の捏造 ③封筒入りの焼けたお札の捏造 ④黒皮財布の捏造等について論証をした。

①では、4本の鉄条網を廻らせた高さ1・22から1・55mの鉄道防御柵を越えることは不可能なこと。隣家の庭に入り、真夜中に楓の木によじ登って屋根づたいに専務の家の中庭までゆき、水道の鉄管を伝って降りるなどということが不可能なことを具体的に立証した。

②では、上の留め金がかかったまま裏木戸をくぐることは不可能であり、警察の再現実験写真には故意に上の留め金が写してないことを指摘した。

③では、いつ発行したか分かってはまずいため番号を全て焦がしたお札にわざわざ「いわお」と容疑者の名前が書いてある証拠品の荒唐無稽さを指摘。

④では、③を預かっていたとされる袴田さんの知人女性が警察の脅しにも屈せずそのことを認めなかったため、今度はそれとほぼ同額(8万円余)のお金が入った黒皮財布がバスの座席から遺失物として現れた事件に関して、金額は微妙に異なり、金種も違うこと、③との関係は全く不明なことを指摘した。

弁護団は、警察は始めから袴田さんを犯人だと決めつけ、辻褄を合わせるために次々と捏造が繰り返され、「これらの行為の集大成が5点の衣類の捏造だ」と強調した!

 これに対して検察は何の論証もできず、イタズラに過去の袴田さんの供述書から引用したものを棒読みするのみで、単調かつ何の説得力もない。検察が特にターゲットとしたのは袴田さんの供述が警察の誘導によるものだとする浜田鑑定書である。浜田鑑定書の証拠の取り上げ方は恣意的であり、例えば録音テープのこんなところは全く取り上げていない、といいながら袴田さんと専務の妻との間には内々の関係があり「古くなった家を燃して欲しい!」という専務の妻の依頼のもとに袴田さんが犯行に及んだかのような下卑た内容の供述や録音テープを出して来る始末である。

これは45通もある供述調書(採用されたのは1通のみ)のうち不採用となり破棄されたものを印象操作のために蒸し返したものである。やればやるほど、袴田さんの無実が明らかとなるような検察の陳述といえる。こんな茶番は即刻中止して、速やかに袴田巖さんを無罪とすべきだ!                        (進)

 

 

 

静岡地裁に対する第4回目の要請書

 

静岡地方裁判所刑事部 

國井 恒志 裁判長 殿

静岡地方裁判所

    永淵健一 所長 殿             2024年2月6日

                袴田巖さんの再審無罪を求める実行委員会

 

第1、はじめに

私たちは、貴職に対してこれまで9月12日、11月16日、12月7日の3度「『袴田事件』の再審公判にあたって、公判傍聴の拡大を求める要請書」を提出しました。

世界的にも注目されると同時に歴史的な「袴田事件」の再審公判にあたって、貴職が憲法に保障された「裁判を傍聴する権利」を実質的に保障するため、公判が開かれる予定の法廷の傍聴席の他に、ビデオリンク方式で空き法廷と結び視聴できるようにするなど、貴庁の設備や人員を最大限活用して傍聴席を拡大することを強く要請しました。

また、11月16日には2回の公判の結果を踏まえ、午後の法廷に欠員が目立つので、中途退出する者と退出する者との交代を認めるようリストバンド方式の見直しに加え、遠方からの傍聴希望者の利便のために、傍聴整理券の交付時間と締め切り時間を30分遅らせるよう要請致しました。

さらに、11月10日の第2回公判でパトカーが出動する事態に至ったことに関し、抗議をしました。これ以外にも当裁判所の傍聴人に対する対応は目に余るものが多々あり、敷地と歩道の境界線上に片足が掛かっただけで職員から注意を受けたり、携帯電話を預け忘れて所持品検査で見つかると傍聴券をはく奪されたりすることには納得できません。

本年1月17日の公判の際には傍聴整理券交付場所への入り口付近の看板に以下の文章を確認しました。

「傍聴券の交付について 4,傍聴券に当選されなかった方は、周辺施設及びほかの来庁者の安全のため、速やかにご帰宅ください。静岡地方裁判所刑事第1部」

この文言には傍聴希望者に対する悪質な偏見が含まれていて、到底容認することはできません。貴職に対し断固抗議するとともに、撤回と謝罪を要求します。

次にこれまで要請行動で、毎回要望してきた「裁判を傍聴する権利」の保証について、何も改善していないことに対し抗議し、改めて傍聴席の拡大を要請します。

さらに公判傍聴要請に関連して、11月20日に貴庁に提出した「司法行政文書開示申出書」に対して、12月26日に「通知期限の延長について」として、さらに3か月以上先送りする通知がありました。「文書の探索及び精査に時間を要しているため、ご了承ください」と言われても、全く了承することはできません。当初、年度内結審を目標にしていた再審公判の進捗状況からして、大方公判が終了してから回答されても全く意味を成しません。貴職が情報公開に後ろ向きで、やる気のないことが露呈されました。そういう姿勢を改めて、迅速に対応することを強く要請します。

 

第2、要請事項

   1⃣「傍聴券の交付について 4(以下略)」の撤回と、謝罪を要求する

   2⃣貴庁の設備や人員を最大限活用して、傍聴席を拡大すること

   3⃣「申出書」に対して迅速に対応し、すべての関連文書を公開すること             

                

第3、要請の理由

1⃣について

1,この文章を普通に読めば「傍聴券に当選しなかった者が周辺施設及び来庁者の安全を脅かす」と読み取れ、おおよそ裁判所の職員が書いたとは思えない極めて短絡的で偏見に満ちていること。

2,「周辺施設及びほかの来庁者の安全」とは具体的にどういう事を指しているのか。まるで暴力団の抗争事件を想定しているとしか思えない不適切な表現であること。 注)毎日新聞2023/9/13工藤会裁判の厳戒法廷

3,「速やかに帰宅せよ」と個人の自由を制限するような指示とその言外に傍聴希望者を迷惑視しているこの記述は許せません。

私たち袴田さんの再審無罪を求める実行委員会は公判当日は早朝から準備し、西門橋付近でのアピール活動、弁護団・袴田ひで子さんの法廷への送り出しを行い、午後は傍聴券に外れた支援者が集い、袴田事件に関する学習会などをして夕方の記者会見に備えます。

遠方からの参加者は前日から静岡市内に宿泊し、丸1日この公判のためにスケジュールを開けて参加される方々がほとんどです。何故そこまでするのか、分かりますか?

個人の思いは様々ですが、こんな酷いえん罪事件を2度と起こしてはいけない。袴田巖さんに早く完全無罪の判決を聞かせてあげたい。その法廷を自分の目で見てみたい。それが皆の共通の願いです。それをちょっと散歩に来たかのように、用が済んだら早く帰れとはあまりにも無神経で怒りすら覚えます。

そもそも、27席しかない傍聴券を求めて、毎回100人以上が並ばれる訳ですから、大量の外れ組が出るのは当然です。私たちは、再三傍聴席の拡大、空き部屋を使ってのモニターの活用を要請してきましたが、やればできることを一切行ってこなかったのは、裁判所の責任ではないでしょうか。

毎回群馬県の田舎町から参加される男性がいます。不自由な体で前日から泊りがけで、これまで7回の公判に参加していますが、彼は1度も当選していません。

彼の母親が証人尋問で袴田さんに不利な証言をしたことを悔いて、毎回足を運ぶ裁判の関係者です。それでもこの男性に「抽選に外れたら、早く帰れ」と言うのでしょうか?

2⃣について

繰り返しになるので省略しますが、もとより裁判の公開は憲法の要請であり、これに反する場合は絶対的控訴理由となります。したがって本規則の解釈運用は、無用に傍聴を制約するなどして、これら憲法及び刑事訴訟法の定めに反しないよう、厳格になされるべきであると考えます。

記者クラブ加盟の記者と一般傍聴者との差別的な対応も問題です。一般傍聴者には極めて厳しい持ち物規制や、座席指定などを強制しながら、他方記者は優遇され、自由に行動しています。そのためもあって、午後の法廷は空席が目立つのが現状で、傍聴整理券落選者の救済のため、空きが出た場合の補充を可能にする方法をぜひ検討するよう要請します。

3⃣について

私たちの「申出書」に対して、「文書の探索、精査のために」さらに3か月以上もの時間が掛かる理由が全く理解できません。情報公開は国民主権の下で行政に文書の開示を求めるもので、国民の民主的権利の行使であるとともに、その対応には格差があって、行政機関の民主的な到達度を測る指標でもあると思います。情報公開に後ろ向きな貴職の姿勢は再審公判が始まってからの裁判体として異常な対応の根っこであり、国民の傍聴する権利を奪って当たり前という感覚がずれています。

最後に

袴田巖さんは死刑囚として48年監獄に収容されて、2014年静岡地裁の再審開始決定、拘留の停止によって帰還しました。

釈放後、10年が経過しましたが袴田巖さんの心の内はあまり変化しておりません。日常の風景の移り変わりや支援者との会話に笑顔を見せることは多くなりましたが、今でも妄想の世界から解放されていません。

最近の口癖は「(裁判は)もう終わったんだ」ですが、昨年の3月13日の再審開始決定の後、周囲からの祝福にご本人は長い裁判闘争に「勝った」ことを自覚したと思いますが、終わったはずの裁判がまだ続いていることにいら立ちを隠せないようです。

進行中の再審公判は当事者はもう袴田巖さんしかおりませんが、いちばん再審開始を待ち望んでいた巖さんのいない法廷で、57年前に生まれてもいなかった検事たちが検察に都合の良い証拠をつなぎ合わせ、想像だけで無実の袴田巖さんを再び死刑にしようとしています。間もなく米寿を迎える『無実の老死刑囚』をまだ苛め抜くのか、検察の罪は深いというべきです。

2014年静岡地裁、2023年東京高裁と2度の再審開始決定を経て、この再審公判は信じ難いほど酷いえん罪を生み出した我が国の司法制度が裁かれなければなりません。であるからこそ、後世の批判に耐えうる歴史的な再審公判として結審を迎えられることを願ってやみません。

 

袴田巖さんの再審無罪を求める実行委員会

(構成団体は以下のとおり、五十音順)

日本国民救援会/日本プロボクシング協会袴田巖支援委員会/袴田巖さんの再審を求める会/袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会/袴田巖さんを救援する静岡県民の会/袴田さん支援クラブ/浜松・袴田巖さんを救う市民の会/無実の死刑囚・袴田巌さんを救う会