2024年8月13日、高田健さん(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)を招いて浜松市内で講演会「「戦争できる国」から「戦争する国」へ、改憲と戦争の阻止を!」がもたれた。主催は浜松・憲法九条の会、講演会には80人が参加した。集会後、浜松駅前までのデモがもたれ、40人ほどが参加、戦争反対をアピールした。
高田さんはつぎのように話した。
浜松の皆さん、こんにちは。高田健です。1990年代後半に無党派の市民運動「許すな!憲法改悪・市民連絡会」を作り、戦争法に反対するなかで2014年12月に、市民連絡会と平和運動センター、憲法共同センターなどと総がかり行動を結成しました。また市民連合にも参加してきました。きょうはこの7月の東京都知事選挙の教訓と「戦争をする国」へと転換したこの国の平和運動の方向、展望について話したいと思います。
●無党派層獲得の選挙戦略の必要性
はじめに7月の東京都知事選挙の分析をします。東京は有権者1100万、有効投票総数700万という日本最大の選挙区です。自公与党に支えられた小池支持票300万、民主・共産など左派リベラル票100万という基礎的な対立構図があります。そこに300万の無党派・中間層をどう引き付けるかが問われた選挙でした。左派リベラル側は、既成政党不信の強い無党派層(いわゆるZ世代)獲得の選挙戦略に欠けていたとみます。結果は、小池百合子291万8015票、石丸伸二165万8363票、蓮舫128万3262票でした。石丸候補は、支持低落の自民党政治、一騎打ちの対決構図に割って入り争点を隠す役割を果たしました。石丸伸二には具体的な政策はないのです。既成の政治に対する不満、不信、絶望に対して「冷笑による抵抗」(冷笑主義、シニシズム)をもちい、真の闘うべき対象をあいまいにして「無党派層の受け皿」となることをねらったといえます。
彼を支えた小田全宏(選対本部長)は松下政経塾出身で、TOKYO自民党政経塾塾長代行(塾長は萩生田都連会長)です。選対事務局長は藤川晋之介、いくつかの政党の選対畑を渡り歩いてきた政治屋です。コアな幹部には改憲派・田村重信という統一協会・世界日報のインターネット番組「パトリオットTV」のキャスターで、国家基本問題研究所客員研究員がいます。統一協会などを使って運動員のコア部分を固め、都内240カ所の街頭演説と有料拡散のユーチューブで無党派層を引き付けるという特異な運動をしました。その形態は一様ではないのですが、新しいファシズムが台頭しています。蓮舫候補に対する女性差別と人種差別(中国人・台湾人)は多くの中間層を反蓮舫に持って行きました。
市民と野党の共闘派も立憲との共同が壊れることをおそれ、選対を立憲に任せてしまったのです。その結果、市民や野党の共闘の力が発揮できず、敏速に運動方向の選択や修正ができなかった。立憲に対する市民の活動家の批判と不満の噴出は当然です。問題は立憲との共同を壊さないで、どう軌道を修正し、前に進んでいくのかということです。都知事選の過程で生まれた3000人と700か所での「ひとり街宣」は市民の自立した運動であり、希望の灯です。「ひとり街宣は統制を乱す」などという言説は克服すべきです。
●「戦争のできる国」から「戦争をする国」への転換
では次に最近の「戦争のできる国」から「戦争をする国」への転換とそれへの闘いの展望についてみてみます。
安倍政権による安保法制(2015年9月)と、その路線を受け継いだ岸田政権による「安保3文書の改定」(2022年12月)、および2024年の訪米と日米共同声明は、「専守防衛」から「戦争のできる国」へ、そこからさらに「戦争する国」へと向かう動きでした。
2015年の戦争法は「専守防衛」を捨てて「戦争のできる国」とし、米国とともに海外で戦争することを可能にしたものでしたが、2022年12月、岸田内閣は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の「安保3文書」を閣議決定しました。それは「敵基地攻撃能力」の保有と軍事費をGDP(国内総生産)の2%へと倍増するという大軍拡でした。それは「戦争をする国」への転換です。
それにより2024年4月10日に行われた日米首脳会談は日米軍事同盟の歴史的大転換となりました。両国が結束して対中国など国際的な覇権争いの正面に立つことを確認したのです。今回の日米首脳会談は、先の安保3文書にそっておこなわれ、激動する世界情勢のもとで米軍と自衛隊の指揮統制を飛躍的に連携強化させるというものであり、「不滅の日米同盟」により「国際秩序の維持」のために立ち向かうと宣言したのです。米国で岸田首相は「今日のウクライナは明日の東アジアだ」とのべ、日本が米国とともにグローバルな規模での覇権争奪戦に加わり、「日米が先頭にたって国際秩序をリードする」とし、バイデン大統領への全面協力のメッセージを送ったのです。岸田首相が「日本は米国と共にある」と演説すると、米国議会はスタンディングオベーションで応えました。
「日米共同声明」では「日米同盟は前例のない高みに達した」とされますが、それは「戦争する国」への日米軍事同盟の歴史的大変質を確認するものです。
このなかで米日の対中国戦争の共同作戦計画が進んでいます。7月29日、日米両国の外務・防衛の閣僚協議、「2プラス2」が行われました。そこで、自衛隊が来春までに、陸海空の部隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を設けるのにあわせて、米国が在日米軍を再編し、統合軍司令部を新設する方針が示されました。そして、迎撃ミサイルなどを共同で生産し、サイバーセキュリティーに関する協力を強化し、「核の傘」を含む米国の戦力で日本への攻撃を思いとどまらせる「拡大抑止」をすすめるというのです。
オースティン国防長官は「きょう日米同盟の歴史で防衛関係において最も重要な進展を明らかにした。日米同盟はかつてなく強くなっており、地域の平和と安定をさらに強化していくことを期待している」と述べた。ブリンケン国務長官は「70年以上にわたり、日米同盟はインド太平洋における平和と安定の礎となっており、今やそれ以上のものになっている」と述べ、日米同盟はかつてないほど強固だと話しています。これが日本の戦争国家化の現状です。
●岸田改憲の破綻と今後の展望
戦後の自民党保守本流勢力と安倍政権以降の新自由主義潮流の立憲主義への向き合い方には大きな差異があります。自民党の改憲論は転換したのです。従来、歴代政府は曲がりなりにも「専守防衛」を「国是」とすることで、憲法との決定的な対立・破綻を回避してきたのですが、現在の日米同盟をはじめとする欧米各国などとの軍事協力体制と自衛隊の軍備拡張の実態は、すでに違憲の状態です。この憲法違反の状況を改めるために、安倍・岸田は改憲を画策してきました。
安倍政権以降は「軍事大国の実態を作った」うえで、それに合わせて憲法を変えようとするのです。安倍と岸田には相違もあります。安倍は「美しい国日本を作る」ことを政治目標とし、「戦後レジーム(体制)」からの脱却を目指したのですが、岸田は何がやりたいかではなく「首相になる」ことが目標のようです。その岸田首相は、2012年「自民党憲法改正草案」から変更された安倍晋三前首相の自民党改憲4項目案を受け継ぎました。
しかし、改憲派はこの「改憲4項目案」ではまとまらなかったのです。「自衛隊の明記」は自民党の右翼岩盤支持勢力が主張しましたが、公明党は9条への自衛隊の明記に消極論です。このなかで改憲派は突破口として4項目のうちの「緊急事態条項」、その一部分にすぎない「総選挙困難事態に国会議員の任期を延長する」という改憲に絞りました。岸田首相は誕生以来、約3年、「任期中の改憲」を言い続けました。しかし立憲野党と国会外の運動により、それは破綻したのです。
岸田改憲に望みをかけていた改憲派の戦線はがたがたです。櫻井よしこは「美しき勁き国へ」で「(問題は)9条への自衛隊明記に触れず、緊急事態条項創設1本で改正しようとする考えだ。……憲法改正の大目的は……国家が国民を守る力としての正当な国軍を有するという当たり前のことを明記することだ。……戦後約80年、初の憲法改正で有事の際には国会議員の任期を延長するというちっぽけな柱しか立てられないのでは死ぬほど恥ずかしい」(6月3日・産経新聞)と記しています。
9月には自民党総裁選があり、新しい総裁の下で、年内の衆議院解散・総選挙もありうる状況です。与野党の政権交代もありうるでしょう。改憲派も改憲戦略の練り直しに入るでしょう。立憲民主の代表戦と自民党の総裁選、そして総選挙、歴史の分岐点となります。「戦争する国」への道を止めなくてはなりません。平和を実現するうえで最も現実的で、有効な選択は、覇権主義やファシズムに反対し、日本国憲法の第9条をはじめ平和主義に則った平和外交をすすめ、名実ともに「専守防衛」を保障することで相手国に対する「安心供与」を実行し、緊張緩和と平和を実現する道を選択することです。「民主主義国家」と「専制(独裁)国家」の対立などを煽りたてて、軍事力の強化で対抗することではないのです。
日中関係には重要な4文書、日中共同声明(1972)、日中平和友好条約(1978)、平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言(1998)、「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明(2008)があります。日中平和友好条約の第2条 は「両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する。」とあります。重要な視点です。
戦争の準備ではなく、平和的共存の道が大切です。参加した市民の皆さん、戦争と改憲を阻止しましょう!
(文責、人権平和・浜松)。