おわりに

 

一覧表のおわりに、戦時下の強制労働問題の真相究明とその解決にむけて、今後の課題をあげたい。

課題の第1は、戦時下の強制労働について各地での調査がすすめられていくことである。戦時下の強制労働についての地域的な調査を市民と行政がともにすすめ、その現場を国際的な友好と平和の場にしていくような取り組みが求められる。

第2に、韓国での真相究明運動のなかで20万人近くの被害申告がだされたが、その一覧化をすすめ、日本現地での調査と結んでいくことである。申告内容がデータ化され、歴史的証言・資料として共有化されることが求められる。その資料に基づいて、行政も含めての友好につながる調査ができるようになるだろう。韓国での動きに対応して、真相究明と被害者の尊厳回復に向けての立法も欠かせない。

第3に、現存史料や出版物から連行被害者名簿を作成し公開することである。証言者一覧の作成などをすすめることが、オーラル資料としての整理の第1歩として必要だろう。在日1世世代のオーラルの集約はこの国の民衆史の基層を知り、継承するうえでも重要である。

第4に、軍人軍属関連名簿の分析をおこなうことである。厚生省勤労局名簿をはじめ企業への連行者名簿と厚生省関連の軍人軍属の名簿が、日本政府から韓国政府へと渡されているが、日本政府はその名簿を日本の市民には公開していない。軍人軍属関係名簿へのアクセスは困難なままである。真相究明にむけてこれらの名簿は史料として公開されるべきである。留守名簿をはじめ関連名簿が公開されることで、軍人軍属とされ連行されていった部隊や場所を確定することができる。

第5に、強制労働関係の現存史料の出版が求められる。強制連行・強制労働を明示する史料群としては、たとえば北海道炭礦汽船関係の朝鮮募集関係史料がある。北炭の朝鮮募集関係の史料には強制的な連行や連行中の逃走を示すものが数多く含まれている。これらの史料は連行実態を明らかにする史料群である。このような史料を公開することが政府と企業の名誉の回復となる。逆にその隠蔽は過去の犯罪の追認となり、国際的な名誉の回復とはなりえない。この北炭史料以外にも多くの史料がある。それらを集成し、戦時強制労働関連史料集として公開すべきであろう。

第6に、これに関連して政府・企業による名簿史料の公開、とくに政府の厚生年金名簿、供託名簿と企業の殉職者名簿等の名簿史料の発掘と公開が求められる。韓国で被害者の申請があるが、これらの名簿は被害立証の基礎資料となる。戦時下の強制連行問題の解決にあたって、名簿の発掘と公開は重要である。日本政府の過去の清算にむけての積極的な姿勢が求められる。

7に、散在する朝鮮人遺骨の状況調査と真相調査が求められる。2005年に入って、行政段階での遺骨調査もすすめられてきたが、行政が保存している埋火葬認許証関係史料の悉皆調査にまで至っていない。戦時期の朝鮮人死者の実態を明らかにすることはこの国の歴史を明らかにすることである。どのようにしてその現場に連行され、死亡したのかを明らかにし、遺骨が残っているならば、遺族を探し返還する取り組みが求められる。

第8に、企業・政府による和解に向けての賠償基金の設立である。その歴史的責任を自覚し、被害者個人への賠償にむけての基金の設立は、東アジアでの和解と共同の基礎となるだろう。歴史的責任を、政治的・道義的・法的責任を含むものとして捉えなおし、基金設立に向けて動くべきだろう。

連行は国家と企業が共同しておこなった。連行企業はその責任を今も継承しているといえるだろう。東京証券取引所第1部企業のリストをみると、連行責任を継承しているとみられる企業が多くある。

土建〜鹿島・飛島建設・西松建設・ハザマ・熊谷組・大成建設・大林組・清水建設・鉄建・戸田建設・三井住友建設、鉱工業〜三井金属鉱業・三井化学・三井造船・日本冶金・電気化学工業・三菱重工・三菱自動車・三菱マテリアル・三菱化学・三菱製鋼・日立金属・日立造船・日立製作所・住友金属工業・住友金属鉱山・住友重機械工業・住友石炭鉱業・住友電工・古河機械金属・古河電気工業・同和鉱業・宇部興産・東邦亜鉛・日産化学・ラサ工業・太平洋セメント・石原産業・昭和電工・日本曹達・日本カーバイト・トクヤマ・信越化学工業・日本ヒューム管・日本碍子・品川白煉瓦・黒崎播磨・神戸製鋼・中山製鋼・東京製鉄・大阪製鉄・淀川製鋼・日新製鋼・日本金属・日亜製鋼・住友鋼管・大同特殊鋼・東洋鋼鈑・合同製鐵・日本電工・日軽金・新日本製鉄・日鉄鉱業・JFE・東芝・愛知製鋼・クボタ・不二越・石川島播磨重工・川崎重工・日本車両・日産自動車・いすゞ自動車・新明和工業・スズキ・富士重工・マツダ・愛知時計・新日鉱ホールディングス・東京ガス・グンゼ・富士紡・帝人、電力〜東京電力・中部電力・関西電力・中国電力・北陸電力・東北電力・四国電力・九州電力・北海道電力、運輸〜JR各社・日本通運。金融関係への直接的な連行はなかったが、三菱系・三井住友系銀行などの旧財閥系銀行も強制労働の歴史的責任を継承しているといえるだろう。

社名が変わったために不明なものも多く、ここにあげたものは継承企業のすべてではない。このなかには1990年代に裁判で訴えられた企業もある。被告となった企業は、史料がなくわからないと認否を拒否したり、過去のことといって時効や除訴を主張したり、別会社といって責任逃れをするケースが多かった。だが、過去の歴史を隠蔽するのではなく、明らかにすることが企業の社会的歴史的責任であるだろう。

植民地支配下での強制動員による連行・強制労働は史実であり、大地と民衆に刻まれた記憶としてある。それを否認するかのような「歴史修正主義」の言説は政府と企業自身の行動によって乗り越えられるべきである。植民地支配は国家権力と企業利権による大地と民衆の収奪であり、人間の奴隷化と強制連行を生んだ。そのような歴史を繰り返さないためにも、人間の尊厳の回復と平和の構築にむけての共同の作業が求められていると思う。                  20073