魔               里 檀

 

猛く雨降る

沛然と降る

溝を溢れる

平素なら澱むのみの、水路をどう、どう、と流れる

道に冠り、歩く人間(もの)の足を取る

 

『おまえ。

これは昔は喜雨と言った

この水は田が受けた、溜めた

少しばかり余所の世界が

近くなった生き物は、

この時とばかり跳ね動いて

これに乗り、新天地へと向かったものだ

おかげで地はあれらで満ちていた

 

おまえ。

現在(いま)はどんなものだ

これを喜ぶ田が無い

動くどころか、あれらの影もない

アスファルトで固められたからには

これは無駄に溜まり、汚れていくばかりだ

おまえが住むここは都会などではない

それですら、このていたらくだ

情けないものだな、おい

哀しいだろう、おい

今、煙る道の先におまえ、何が見える?

見えるものがあるのか、おい

見えるものなどないだろう、おい』

 

猛く雨降る

沛然と降る

頭の上を「重い重い」と悲鳴を上げながら

この国が誇る超速の列車が走り抜けた

 

 

 

「おかあさん、ただいま。」

「お帰り。この雨の中を歩いて来たの?

バスに乗ればよかったのに。」

「そうだね。でも、ちょっと面白かった。

いつもと違う景色が見えたよ。」

いつもは遭えないものにあったよ…

 

 

 

(二○○八・六・二九)