あなたのなまえをよぶのがすき    

里 檀

 

 

 

あなたのなまえをよぶのがすき

いまそこにいるあなたのなまえをよぶのがすき

ないたりわらったり

たべたりのんだり

だれかのはなしをきいていたり

ゆめをかたったり

おやのはなしやじいちゃんやばあちゃんや

きょうだいやともだちや

いぬやらねこやら

そらやらやまやらうみのいろやら

そんなことでできあがっている

あなたのなまえをよぶのがすき

あなたは

だれかのむすめでむすこでははでちちで

ゆうじんちじんだいじなこいびと

だれかのかけがえのないひとだから

くちびるにそっとのせて、

ときにひかりがほとばしるように、

あなたを

あなたというなまえでよぶのがすき

このほしのはじめからおわりまでのじかんのなかで

ただひとりだけの、

 

 

たいせつなひとよ

 

 

 

 

(二〇一〇・一二・九)

抱きしめるから      里 檀

 

 

 

     おーい、ひろくん

どうしたの

     なにがあったの

     

     きのう、ひさしぶりに電話したんだよ

     ちょっとおねがいがあって

     そしたら、

ひろくんは長期休暇に入ったって

いつ出てこられるか、

見当がつかないって

電話に出た子がそう言った

 

おーい、ひろくん

どうしたの

     なにがあったの

 

     おっとりとまじめで、

     着実誠実な人柄は、

     よっくわかってる

     いろいろ難題を頼み頼まれしてきたんだから

     その君が、

声を聞かなかったここ半年で、

ぼく、代わりなんです、今パニックしてるんですって、

電話口の子が泣きそうな声で言うほどに

 

おーい、ひろくん

     なにがあったの

     なにを抱えこんだの

 

話に来て?

わたしはここにいるよ

いっしょに抱えられないなら、

せめて、

抱きしめるから

 

 

 

(二〇一〇・一一・二三)