霊 魂 里 檀
その日、辺りに空から降っていたのは火の玉だった
雨あられと降っていたのだった
人は逃げ惑っていただろう
プラタナスに住んでいた雀はどうしていただろう
小さな翼を羽ばたいて、人よりは早く安全な所を見つけていただろうか
それが鎮まって、見回せば周囲には焼け焦げた建物、
焼け焦げた木々、焼け焦げた人の死体が累々とあったはずだ
みっちゃんのお母さんは当時はまだ若い娘で、
焼かれた家の側でお弁当を使ったと言っていた
死体が傍らにあったよと、そんな話をしていた
華やかに開館した博物館はね、
そういう土地の上に建てられたものなの
だからそこのエレベーターが
だあれもいなくなった、夜のそんな時間に、
まあっ暗い場内の向こうで
「一階です。扉が開きます。」
って動くのって、そりゃあそのせいだと思ってた
彼らが生きている時と変わりなく
その辺りで生活しているから、
エレベーターも使っているのだと思っていたのよ
微笑ましい話じゃないか?なのに、
それが何とね?
ただの不出来なエレベーターだったなんて
コストが安いからと公共の施設ではいっぱい使われている、
その誤作動のおかげで死者まで出したような
ただの不出来なエレベーターで
安く作られているから変な動き方をするだけだったなんて、
詐欺だぁ…
(2008・2・2)
可哀そうなイージス 里 檀
戦争なんか、できないやね
そんなことじゃ
戦争なんか、できないやね
ていたらくって、
言うんだよ 巷じゃあ
そういうみっともなさを
戦争を、しようって勉強に行って来といて、
お金なんかいくら使ったのさ?
そのお金は誰が稼いだものなのさ?
お国のお金だって、
お国のお金は今、あんたたちが引っ掛けた、
木の葉のようなその船の、
ささやかな生活を支えるために
出かけた漁の成果から巻き上げた、
そういうものだろう?
戦争をやらせてくれって、
お金をそっちへ使わせてくれって、
よその国まで出かけて行って勉強して、
最新鋭をとか言いながら
機械をそろえて、
避けてくれると思ったなんて、
どこに設備が必要なの
どこに避けてくれる戦争相手がいるの
いいえ、できないやね
戦争なんかできないやね
人間、この日々に自分の命をかけて
生活してるってことが分っかんないもんに、
できないやね、戦争なんて
いや、だからこそできるのか…可哀そうなイージス
(ニ○○八・二・二六)
語り部
里 檀
覚えていろというのか
覚えていろというのか
覚えていろというのか
覚えていろというのか
覚えていろというのか
覚えていろというのか
忘れなくてどう生きていけるというのか
語らなくては生きることを終われないと、
なんでそんなことが言えるのだ
なんでそんなことが言えるのだ
なんでそんなことが言えるのだ
なんであんたはそんなことが言えるのだ
おれに何があったというのだ
おれに何があったというのだ
おれが何を語るというのだ
おれに何があったというのだ?
おれはしあわせには生きない
生きるのは申し訳ない
ただそれだけだ
しずかに生きて終わるだけだ
それを、それを、それを
開けてしまえば奔流となって
おれの身を食い尽くすに違いないそれを
解き放てというのか
解き放たねばおれが死ねないとまでいうのか
父よ
母よ
先を往く凡てのものよ
覚えていろというのか
覚えていろというのか
覚えていろというのか
覚えていて語れというのか
ああ……、
それは誰に向かってなのだ?
(ニ〇〇八・三・一〇)