二〇〇九・夏(東京裁判所)
里 檀
(七月、知人が原告となっている裁判傍聴のために、在来線を使って上京する)
人ひとりそこにいる重さが裁決に関わるというなら、
でかけようできることから踏み出そう
守衛居り所持品の改めありこの緊張は何
砦とも身ゆる十六階の建築物東京裁判所
用がなくても通り過ぎてみるロビー、
こんにちはとインフォメーションに
気安く挨拶をする地方裁判所の気軽さに慣れている
法に則り裁きを行なう場所には変わりがないのにね
守衛に高等裁判所が在るを確かめ
数多あるエレベータのひとつに乗り込み
たどり着けば「裁判官控え室」フロア
しまった行くべき先を読み違えているわ
(何とか行き着いて事件と法廷を確認する…
最寄り駅から裁判所までの徒歩の時間より
その中で迷っていた時間の方が長かったような?)
これが受験の課題のひとつというので
大学へあなたを推薦する文の構想を練る
人気がまだない法廷前の廊下にて
細長き矩形の窓が傍らにある
さらに空間を切り取る首都の光景
直線のスカイライン、スカイライン
既にこの年齢となりしが法を学ぶというあなた
時間を割いて来たまえよ立ちたまえよここに
文章では学び取れない嘆き怒り主張があるから
知識を生かすべき生きた道が見えるから
(この日、審理は八分ほどで終了した。希望の見えない法廷だった。)
二〇〇九・夏(過ぎてゆく季節に)
里 檀
梅雨の明けない夏あなたが逝ってしまった夏
あなたの不在をまだ泣くことができない夏
この国で熱帯低気圧が「台風」となる夏
アサギマダラが彷徨う緑陰の庭
その朝まだき大地が揺れた
揺れ治まらずすわ東海大地震かと母の寝床に走り寄る
揺れて危ないのは高く本を積み上げて眠るあんただと
呆れられてそれもやんぬるかな震源地近くの友にメールする
とおくへいっちゃったとおくへいっちゃった
父逝にし日より軒へ来て鳴く鳩の声に〔混乱〕が見える地震の朝
無事でいるよ何ともなかったよ朝の地震からやっと夕方届く友からの電話
メールも送り返したよ初メールだよというから
チェックしたけど着いてないよ、ゆりこさん
大地震にも大丈夫施設は揺れに耐えると言ったじゃないの
それなのに「想定外に揺れた」とこの程度の地震で言うの
予想される地震の揺れは今日の二百倍どうする原発
「業務だとも、業務でないとも言えない」と世迷言を言わないで課長
仕事として時間を費やして来たものを休日に行ってチェックしてこい
ということのどこが業務ではないというの業務じゃないなら初めから
『ご褒美』だと楽しく遊んで来いと言ってよケンカともケンカじゃな
いとも、わたしと会社とほんのちょっぴり暑いせめぎあい
票を明けた瞬間に政権交代確実とメディアが伝えるそんなのってあり?
与党の負けっぷりがせめてこの選挙の楽しみとなるかは季節の終わる日
既に立秋は過ぎているし
<いじめ>で自殺した青年の裁判を傍聴する被告の国は用意すると言った
書面を出してこない議論にならない時間が無為に過ぎていくと遺族が憤る
夏を送ろう首都では嵐つくつく法師鳴く暇もなく蟋蟀が鳴く鈴虫が鳴く
きのう風を見た夏の残り香がした鳥がみずうみを目指し飛んで行った北へ