詩6

走りぬく 
勇人(はやと)

マラソンキャラバンの中野勇人さんに

 

地引 浩(国鉄詩人連盟)

 

いまを見つめ 風にむかって

走って 走って 走りぬく 勇人

峠を越え 輝く海を渡り

高知から 東京へ

1047の 涙を汲んで

走りぬく 勇人

 

希望を紡ぎ 雨を突いて

走って 走って 走りぬく 勇人

街をぬけ 濡れた道をけって

高知から 東京へ

1047の 怒りを燃やし

走りぬく 勇人

 

あしたを感じ 光のなかを

走って 走って 走りぬく 勇人

川を超え 金色の畑を背に

高知から 東京へ

1047の 願いを届け

走りぬく 勇人

(2005.3.25)

 

木蓮のころ

地引 浩

 

木蓮の蕾がふくらむころ

あなたは くびになった

春はそこまで来ているのに

三月いっぱいの期間満了で と

インターネットを辿りたどって

あなたはユニオンに来た

 

木蓮の蕾が白い拳になるころ

あなたは団体交渉の席にいた

赤字なんですか?

経費節減しましたか?

役員の報酬はどうなってます?

解雇なんて簡単にできないですよお

 

木蓮の木が白く燃え立つころ

あなたの解雇は撤回された

二回目の団体交渉だった

いままでとほんの少し違って

あなたはこれからも働き続ける

ユニオンを胸のポケットに入れて

(2005.3.29)

人間だから

地引 浩

きみは人間だから

ミスをやってもよかったのに

なによりも正確に

運行ダイヤは絶対と

走り 走り 走り続けて

なにを見た なにを見た

300の鉄路の先に 

なにを見た

 

きみは人間だから

遅れは忘れてよかったのに

30秒でも取り戻そう

できるならば1分と

焦り 焦り 焦ったすえに

なにを見た なにを見た

300のカーブの果てに 

なにを見た

きみは人間だから

苦しいと言ってよかったのに

だれよりも確実に

だれよりも明るくと

がんばり がんばり がんばり疲れて

なにを見た なにを見た

300の鉄路の闇に

なにを見た

    (2005.5.18)

ずるっと ニッポン

地引 浩

おもてを うらに

うらを おもてに

ひっくり返したのは

いつのことだったか

神国 ニッポン

おもては うらに

うらは おもてに

ずるっとなっても

おんなじこと

神国 ニッポン

おもてと うらは

うらと おもてで

ふたつでひとつ

和気あいあい

民主 ニッポン

 

おもてが うらに

うらが おもてに

もどってしまう

あたりまえ

民主 ニッポン

(2005.8.15)

 

小 鳩

      地引 浩

小鳩が轢かれて死んだ

車に轢かれて死んだ

小さな筋肉も内臓も

赤いミンチになって死んだ

翼も骨も砕けて

アスファルトにこびりついていた

 

小鳩が撃たれて死んだ

アメリカに撃たれて死んだ

小さな希望も未来も

白い風船のようにはじけた

頭も胸も裂かれて

アラブの陽に焼かれていた

小鳩を小さな穴に埋めた

シャベルですくって埋めた

小さな肉片と体液が

黒いしみになって残った

思い出や夢だけは

土のしたに埋めれなかった

(2005.8.13)

地引 浩

きみは虹を見た

水平線から水平線まで

完璧に弧を作った虹を

沖縄の空のしたで

 

きみは虹を見た

走り去った夕立のあとで

二重に架けられた虹を

八月の空のしたで

 

きみは虹を見た

せみの鳴き声に誘われて

二人だけに架けた虹を

なにもない空の下で

(2005.8.14)